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メディア冬の時代ーSNSで見かけた「利他主義」に感動

米メディアに吹き荒れるLayoffの嵐。イ―ロン・マスク氏によるTwitterの人員削減を始めIT企業の大量解雇が話題ですが、メディア業界にもlayoffの嵐が吹き荒れています。CNN、ワシントン・ポスト、BuzzfeedにMorningBrewと、媒体や大小の規模を問わず人員削減や事業撤退を打ち出しています。

やる気あふれる若い人も、長く勤めあげたベテランも、ある朝届く一通のメールで解雇を告げられるようです。「あの人も?」「この人も?」と優秀な知人が次々と解雇されている事実に驚きとショックを覚えながらLinkedInを開いたら、ある投稿が目に留まりました。

「解雇された同僚のみんな、話をしよう。履歴書も添削するし、今後のアドバイスもするよ」と、職場の仲間に呼びかける投稿。書いたのは、ある新興メディア企業で働く女性。彼女とのミーティングのアポがとれるリンクも一緒に張り付けてあります。

でもよく読むと、この人自身も、解雇された一人。「私がメディア企業で解雇されるのは初めてじゃないの。何でも聞いて!」と頼もしく呼びかけます。

投稿には同僚らから「ありがとう!」と感謝のコメントが。
「これを機に人脈を広げよう!」と呼びかける彼女。長く働いていた会社から突然解雇されるなんてショックだろうに、他の同僚を心配しミーティングする時間まで割くなんて慈悲深い優しい人なんだなあ…と思っていたら…

ほかにも体温を感じる熱い投稿が。

「才能あふれる素晴らしい僕の同僚たちを紹介させてくれ」
「ケイティ―はビジネスや経済分野にシャープで新鮮な視点で切り込むのが得意だ。彼女を雇うべきだ」
「シェリーは中国と英語に堪能で、恐れを知らない記者だ。彼女を雇うべきだ」
「ジェフはやる気あふれるチームの若手をまとめ上げ、導き、自信をつけさせた。彼を雇うべきだ」…(以下、続く)

何人もいる同僚ら一人一人の強み、個性を記し、最後には必ず「彼/彼女を雇え」と力強く推薦しています。

これだけの記事を書くための労力や時間を惜しまず、しかも「雇え!」とずばりと切り込むなんて、なんて同僚思いの人なの…と思ったら、この記事を書いている執筆者本人も同じように解雇されたばかり。
記事の最後に「僕はチームマネジメントが得意だし、どんな分野の取材にも興味がある。紙やデジタル、音声などどの媒体でもOKだ。僕を雇って」としっかり自分自身のアピールも。


厳しい時代でも人の心は温かい…?

同様の投稿は、各メディア企業がlayoffを発表するたびに、LinkedInのフィード投稿でたくさん見かけました。

自分のことで精いっぱいになってもおかしくない苛烈な状況。しかも、同僚は、新しい職をめぐる競争相手であるかもしれないのに。

「職を失いました。新しいチャンスを求めてます!」と自分自身についてアピールする投稿はよく見かける(むしろそのためのLinkedIn)けど、自分だけでなく他人も一生懸命アピールするなんて、すごいなあ。

一緒に働いた人ならではの視点や経験をもとに紹介してくれるからこそ、履歴書だけではわからない強みやスキル、個性も伝わり、説得力がありますよね。

でも自分だったらそんなことできるかなあ…不安に押しつぶされ、次の職探しに必死になり過ぎて、他人のことなんて考えられないかもしれない。

他人が成功すれば自分自身もともに高みに行くことができる、との思惑からだろうか。いや、そんな成果を考えてしまうことすら世俗的な発想で、真に他人の幸せを願う気持ちだからなのだろうか。

アメリカ人ジャーナリストの友人に「こんな風に、自分が解雇されても他人をソーシャルメディアで推薦することってよくあるの?」と尋ねたら、「最近の傾向だと思う」と言ってました。とはいえその友人も、私が米国で就職活動するときにたくさんアドバイスをくれたり、履歴書やカバーレターをチェックしてくれたりと、忙しいさなかにも時間や労力を割いてくれたのです。

以前のnoteにも書きましたが(この世はGive &Take|高口朝子(Asako Takaguchi)|note)、思えば米国に来てからは周囲に助けてもらってばかり。お礼を言うと、みんな気持ちよく「いいよいいよ!」と言って、誰も見返りを求めていない(たぶん)。

これが「利他主義」なのだろうか?景気後退が叫ばれなんとなく気分も落ち込む中、これだけは細ってほしくない…と思いました。


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