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ショートショート

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2022年8月の記事一覧

押し売り「ショートショート」

押し売り「ショートショート」

「押し売り〜、押し売りだよ〜」
昼ご飯を食べて片付けていたら、外からこんな声が聞こえてきた。
押し売り?ああ、なんか押してお菓子とか売ってるやつかしら。若いから押し売りっていう言葉、勘違いしてるのね。

ピンポーン。
あら?声が止まってる。さっきの押し売りさん、うちに来たのかしら。

「はいはーい」
インターフォンに出る。
「あ、お忙しいところ申し訳ございません!僕、お菓子をこのあたり売らせてもら

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召喚したから密入国(ショートショート ファンタジー)

召喚したから密入国(ショートショート ファンタジー)

自転車修理に苦戦していた。
寝転がって地団駄踏んでいた。

「ああー!もう!こんな時、自転車に詳しい弟がそばにいれば!えーい、召喚するぞー!しょう、かん!」
もちろん、私にはそんな特殊能力は‥なかったはずだった。

ところがなぜか召喚できてしまった。
「う‥‥ぐ‥‥」
気づいたら私の上に弟が立っていた。

「おねえちゃん!え?なんで?」
「と、とりあえず降りて救急車呼んで‥」

寝転がったまま召喚

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帰省バス(ショートショート 微ホラー)

仕事帰り、駅のロータリーからバスに乗った。
駅には帰省や旅行の客ばかりだったのに。
まったく、なんで僕だけお盆に出勤してるんだろう。

家へ帰るいつものバスに乗る。
いつも止まる停留所には停まらない。お盆休み中で利用者の層が違うのだろうか。

うとうとしていた。暑かったし、お盆休みもなく働いてなんだか気分が疲れていたのだ。

ぼうっとした頭で窓の外を眺める。

どこだろうここは。
見たこともない草

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魔法のクレヨン(ショートショート ファンタジー)

魔法のクレヨン(ショートショート ファンタジー)

ある日魔法使いが現れて、なぜか僕に魔法のクレヨンを三色くれた。一色につき一つ、自分の好きなものをかけるんだそうだ。そして書いたものは実物になるんだそうだ。赤、青、黄色。何を書こうか。

青はつねづね憧れていた海にした。
名古屋港からずーっと岐阜まで海を引っ張ってくるように青い線を書いた。反対側が海につながると、名古屋港より北の愛知県は海の中へ。愛知県民の方ごめんなさい。でもどうしても海が欲しかった

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そばまつり開催(ショートショート)

そばまつり開催(ショートショート)

「お、なんかイベントやってるじゃないか」

私は実は蕎麦好きで、この蕎麦店には月2回は最低でも来る。

それでたまたま来てみたら、何やら「そばまつり開催」とイベントののぼりが立っているのだ

私は意気揚々と店へ入っていった。

「こんにちはー」
常連だからか店主から声をかけてくれる。実はここの店主は若い。とても人懐こい。まだ四十前くらいではなかろうか。蕎麦屋というと、こう、年配の職人が静かに打って

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コンビニはじめました(ショートショート)

コンビニはじめました(ショートショート)

家の一角を使ってコンビニエンスストアをはじめてみることにした。

玄関で靴を脱いでもらって、左手の畳の部屋へ入ってもらう。

8畳の和室をコンビニにしているので、通常のコンビニよりは狭い。ミニコンビニだ。

仏間なので仏壇が置いてある。月命日や法事の日
、盆と正月は休む。幸い今は月命日をやっている先祖はいない。

重いものはおけないので、飲み物を置くのは諦めて、外に自販機を据えた。

縁側のほうに

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幸せ[ショートショート]

幸せ[ショートショート]

「いってきます」
妻の手作り弁当を手に家を出る。もうこれが何年続いたろう。
ワイシャツを着てネクタイを締め、スーツを着て、年期の入った革靴を履いて。靴は昨年修理したばかりだ。こんなことになるとは思わなかったから。

まさか私が、と思っていた。それが傲慢だったのかもしれない。
リストラなんてよくある話だ。

ここ半月、今までどおりの姿で家を出て、今までどおりの時間に家へ帰っている。
仕事をしているは

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