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【エッセイ】食べること

 豚しゃぶを食べた。
 肉と野菜、うどん、デザートのセットである。
 肉は、大皿に花のように盛られていた。中心のところはくしゅっとつまみ上げたように高さを出してあった。
 野菜は白菜、キャベツ、しめじ、えのき、まいたけだった。しいたけが苦手な姉は「タケシいなくて良かった」などと言っている。
 タレはポン酢とゴマだれの二種類。
 まん中に筒がたった鍋のお湯には昆布が浸かっている。沸騰したところに野菜を入れてしまって、肉は自分の食べる分を自分のペースでしゃぶしゃぶして食べた。肉と野菜の合間に、うどんも食べる。ときどきアクをすくう。
 名のあるブランド豚(ローカルだが)のロースは、柔らかくて食べごたえがあり、たいへんおいしかった。
 デザートは、地元の牛乳を使ったプリンだった。懐かしい味がして、大満足のうえ、満腹である。
 食べたものすべてがおいしかった。空間も、時間も、すべてがおいしさを作っているようだった。
 こんな食事は久しぶりだった。食べものを胃袋にしまうだけじゃなく、しっかりと食べたという感じがした。
 食べることは生きること、という言葉がある。食べることで自分を生かすというなら、それをないがしろにすることは自分をないがしろにするということだ。
 いつもの食事を思い返し、もう少しだけ自分を大切にしたほうが良いと反省した。なにしろ、自分の食べるものなど、ほとんど頓着していない。それどころか、今日はこの豚しゃぶが最初で最後の食事だった。
 大事にすると言っても、良いものを食べようということではない。日々、ごはんを食べ、自分を健やかにすることを大事にしようと思った。

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