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夜更けのロック名盤5選

以前、ジャズの名盤を、夜と昼に分けて紹介しました。歴史と関係なく主観的な選択でしたが、好評だったようです。

 
そこで今回は、ロック・ミュージックのアルバムで、「夜」を感じさせる名盤を選んでみたいと思います。ロックは元々ブルースを基にしていることもあり、孤独な夜の呟きと、夜の熱波の火照るような狂騒を持っていると思います。
 
ここで挙げるのは、そうした、ロックのどろりとした原初の力が色濃く滲み出ているようなアルバムです。

そして、どれも、真夜中に一人きりで、興奮と半覚醒で、夢に落ちていくにふさわしいアルバムだと思っています(音源は全て冒頭の1曲ですが、気になったら、是非アルバム全曲を聴いていただければと思います)。
 



『ステッィキー・フィンガーズ』
ローリング・ストーンズ


 
まずは、今でもまさかの現役、ロックの大御所、全盛期の1971年の傑作から。
 
冒頭の『ブラウン・シュガー』のシェイクするリズムから、とてつもないパワーがみなぎっています。しかもそこで描かれるのは、往年の黒人プランテーションでの、夜な夜なの悦楽の饗宴。危険な狂気と隣り合わせの強烈な名曲です。
 
そこから、暗くサイケデリックな感触の、珍しいジャムセッション風の作品、古のブルースマンや、オーティス・レディングのパスティッシュまで、どの曲も、どろどろと濃いブルースとロックの血が流れています。
 
そして、ラストの『ムーンライト・マイル』。ポール・バックマスター(エルトン・ジョンとのタッグが有名)のストリングスとピアノを交えたオリエンタルな旋律によって、エキゾチックな夜が幕を閉じます。
 



『哀しみ色の街』
エヴリシング・バット・ザ・ガール 



次は一気に時代を駆け上って、このデュオの1996年のダンス名盤を。都会の真夜中、クラブで、或いは一人の部屋で流して踊る、孤独なため息と心臓の鼓動が聞こえる音楽です。

その鼓動は、ドラムンベースという、90年代を彩ったクラブミュージックに基づいています。エヴリシング・バット・ザ・ガールは、元々ネオアコと言われ、ボサノヴァをベースに、簡素な音楽を創りあげていました。そんな2人が大化けしたこの作品。

現在ではどちらかと言うと、初期のアコースティックな音楽の方が評価が高いですが、私は今でもこの作品が大好きです。ここには、孤独な都会の夜の嘆きと安らぎがあります。機械的なはずのドラムンベースも血が通っていて、ウォームに夜を彩ってくれる。

そして、そこから、都会の匂いが漂ってきます。私が背伸びして憧れていた、90年代末の渋谷や新宿にあったような、あの濃密な夜の匂いがするのです。 


 
『スカイ・イズ・フォーリング』
ルイス・フューレイ

 



都会の夜更けの洗練の後は、もっと場末の、濃い血の匂いを。怪しくどこか艶やかなだみ声の香具師にして詩人。そんな男が奏でる、性と愛慾の渦巻く、夢幻的な口上、そして、童心に帰るような無垢な歌です。
 
冒頭の『ジャッキー・パラダイス』が、前者のパワフルな発露だとしたら、『ソング・トゥ・ロルカ』は、後者の美しい結晶。聖なるものと俗なるものがこれほど極端に交じり合うロックアルバムはそうありません。そして、どこを切っても、むせかえるような血の香りと、夜の湿った闇が漂っています。

ルイス・フューレイはカナダ生まれのソングライター。クラシックのヴァイオリニストとして、最高峰のジュリアード音楽院まで通いながらドロップアウト。その後ヨーロッパを放浪して、場末の音楽師やポルノ男優(!)のアルバイトで生計を何とか立てたりしていたという、異色の経歴の持ち主です。

どのアルバムも、ロックとクラシックとシャンソンが混ざった、豊かで濃密な音楽が詰まっています。そんな彼の1979年の傑作がこちらです。




『HATE』
デルガドス
 


冒頭、美しいストリングスに、聖歌隊のような荘厳なコーラス。そしていきなり、強烈なディストーションの効いたギターのリフと、辺りを揺るがすドラムが入り込んで、美しいメロディのシンフォニックなロックが奏でられます。暗い夜の讃美歌であり、鬱蒼とした森の中を彷徨っているような音楽です。

 デルガドスは、2000年代のスコットランドのバンド。ベル・アンド・セバスチャンやティーンエイジ・ファンクラブと同様、グラスゴーのインディーズシーンから出てきたバンドです。

オーケストラと、スコットランド民謡を思わせる素朴なメロディ、男女の清廉なボーカルの合わさった、完成度の高い清涼感のあるロック音楽を奏でていました。この2002年のアルバムもまた、夜更けに、遠いおとぎの国を思い浮かべながら、幻想に浸ることのできる、異形の美しさのロックです。


 
『グリグリ』
ドクター・ジョン
 


最後は、ロックの源流であるブルースの故郷、ニューオリンズの濃密な夜で締めましょう。まず、この冒頭の『グリ・グリ』を聞いてもらえれば。その怪しげな空気にノックアウトされること間違いなしです。

淀んだ夜の大気と、ニューオリンズの娼館の熱気。ジャズとシャンソンと、ブルース。ブードゥー呪術と、魔女の笑い声。こうしたものが、ドクター・ジョンのだみ声の中で溶け合って、どことも知れない異国の闇の中に堕ちていくのです。

ドクター・ジョンはニューオリンズ生まれ、ニューオリンズ育ち。少年時代は、ストリップ小屋でデューク・エリントンの音楽を演奏していたという、まさに本場の空気を吸った男です。そんな彼の1968年の初期の大傑作。サイケデリックでもあり、どこか心安らぐ魔の音楽で、夜は更けていくことでしょう。




夜闇は危険なものです。そこにはどこか、血の意識があります。昼の太陽光の下での理性が眠り、魔物たちが跋扈するような時刻。それは、人間の正の姿が見えてこない時間。

ロックという、様々な要素を取り込んで妖しく変化を繰り返した音楽もまた、この夜中に輝きます。ここに挙げたのは、そうした、孤独と血と闇が織り成す、極上の音楽の一部です。


今回はここまで・
お読みいただきありがとうございます。
今日も明日も
読んでくださった皆さんにとって
善い一日でありますように。
次回のエッセイでまたお会いしましょう。


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