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【創作】夜の坂道で【スナップショット】


こっちの坂であってる?
 
うん、大丈夫
少し休むかい
 
そうね、ちょっと足が痛いから
休ませて
座ったらすぐ回復するから
みんな待ってるしさ
 
久々にはしごするとはなあ
 
何言ってるの? 知ってる?
次のハコのメインDJは超有名なんだよ
まだ夜はこれからだから
 
元気だね
 
君はさ、なんでクラブ行くようになったの?
 
似合わない?
 
そうじゃないけどさ
 
君の友達を不愉快にさせたかな
 
いや、全然
めっちゃ盛り上がってたよ
でも、君どこかで一線引いてるでしょ
冷めてる
わたし、わかるんだ
君の眼とか
踊っているところを見てるとね
心から楽しめてないって
わかっちゃうんだ
 
そう言われたのは初めてだけど
そうだね
君は変わった子だな
 
クラブは友達付き合い?
いやいや行ってる?
 
最初は友達付き合い
でも、すぐに魅了されたよ
音楽は好きだったし
うちは固い家庭だったから
こんな風に自由に踊って
好きなだけ友達と喋っていいんだって
こんな最高の空間があるなんて
知らなかった
それでも
はまるきっかけは
別にあってね
 
ああ、女だ
 
そう
クラブで年上の女の人に会って
まあ、それから彼女に
どんどんはまっていった
週末はクラブとホテルをはしごして
完全なウィークエンダーになった
酒とダンスと、セックスの日々
って言えばいいかな
大学の勉強はおざなりになって
それが1年くらい続いた
 
今はそうじゃないんでしょ
きっかけは?
 
何だろう
直接は彼女と喧嘩して
別れたことかな
いや、彼女はいつでも
複数恋人がいたから
多分それはほんの些細な
トリガーに過ぎなかったと思う
 
他にある?
 
たぶん本当は、ずっと心の奥底で
こんなことが続くはずはないって
思っていた
こんな無茶な日々は続かない
こんな快楽まみれで
自分を抑えずに
水道の蛇口をひねりっぱなしのような
人生が続くはずはないって
 
ヘンだね
わたしはそんなこと思ったことない
みんないつか死ぬんだから
人生楽しんだもの勝ちじゃない?
 
うん、それはそうだね
でも、きっと楽しみ方にも
色々な段階があるんだ
自分を見失うくらいに
楽しんでいたら
それは楽しむことにならない
甘い蜜をずっと吸い続けて快感に溺れても
本当に吸い続けたら
息が出来なくて、苦しみだす
人間は快楽の海の中で生きられないよ
息をつく時間が必要なんだ

それはわかる気がする

世の中には強烈な快楽に耐えきれる
すごい人間がいるって
前は思っていたけど
きっと違う
そういう人たちは
どこかで息をついて
自分自身でいられる場所と時間を
確保しているんだって気づいた
そう気づいたら
自分が本当は死の淵を
歩いていたんじゃないかって
おそろしくなった
それで、彼女とも別れたことだし
以前のような無茶な生活はやめた
たまに今日みたいに
付き合いで来ることはあるけどね
 
そっか
ねえ、わたしもいつか
君みたいに
もうこんな生活はムリだって
思うようになるのかな
 
どうだろう
 
やっぱ楽しんでよかった
と思う?
今じゃ武勇伝じゃん?
 
そんなものじゃないよ
自慢にもならない
もっと真面目に生きるべきだったと
後悔しているよ
もっと真面目に生きて
自分自身のやりたいことを
しっかりと見つめて
それに向かうべきだった
僕は自分自身に向き合うのが
ずっと怖かった
踊ったり快楽を感じている間は
その恐怖から逃げられたから
 
そうなんだ
じゃあ、今のわたしも
きっとそうだろうな
わたしも本当はね、こわいんだ
なにがこわいかわからないけど
このままでいることがこわい
おかしいでしょ
説明できないけど
 
分かる気がする
 
こんなの誰にも言えないけどさ
今日初めて会った君に言うのも変だね
 
しがらみのある友達よりも
旅先で会った、赤の他人の方が
本音を話せることはある
そうやって自分の言葉にできるんだから
君はしっかりしているよ
 
わたし、どうしたらいいと思う?
 
息をつけばいい
本当に自分がしたいことを見つけて
息をつきながら
何かを続ける
そうはいっても
君が心からそう思った時が
多分始める時なんだろう
他人が言ったって
君が心から納得しないと
変わらないんだと思う

変わるまでは?

それまでは、まあ
死なないように
生き続けることかな
 
そっか
ねえ、これからどうしよう
もっと話せないかな
どこか行く?
 
いいよ
そうだな
足が痛くなくなったら
もう少し夜風にあたって
歩きながら話そうか
 
うん











(終)


※【スナップショット】では
ワンシチュエーションでの
短いダイアローグや詩を
不定期に載せていきます。

※過去の「スナップショット」置き場



今回はここまで。
お読みいただきありがとうございます。
今日も明日も
読んでくださった皆さんにとって
善い一日でありますように。
次回のエッセイや作品で
またお会いしましょう。


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