【創作】夜のラウンジで【スナップショット】
こんな真夜中に呼びだすとはな
どうせ残業だったんでしょう
そうだよ
だから疲れている
最高の癒しじゃない？
こんな素晴らしい夜景は
憂鬱な夜景だ
こんなきれいな夜景だから
何だかバカなことを言いたくなっちゃうな
いつものことじゃないか
今日はいつものお小言はないの？
今日は一体何をしでかしたんだ？
逃げられちゃってね
何度目だ？
あなたの方が覚えているでしょう
そうだね
覚える気力がなくなっても
頭に刻まれているようだ
どうしてこんなことが起こるのかな
君に問題があるとしか言いようがない
なんか疲れて来たな
すごく年をとった気がする
うまくいかない恋愛
そこそこの暮らしをしていてもさ
憂鬱にずっと毎日が過ぎて
幸せじゃない
何人と出会っても
うまくはまらない
何もうまくいかない
どうしたらいい？
発想を変えることを
お薦めする
男漁りをやめろと？
いや、そうじゃない
行動じゃなくて
心の持ちようの方だ
君が心から自分の快楽のために
男漁りをしているなら
どうぞご随意に
健康には気をつけて
楽しんでくれと言うよ
でも、まさに君が言うように
はまらないと思い込んでいることが
問題だ
渇きを満たそうとして水を飲んでも
どんどん喉が渇いてくるよ
理想の人を求めるのが
どうしていけないの？
いや、私の理想は低くて
ルックスとか高収入に
こだわらないのは知っているでしょう
そう
お金や贅沢な暮らしを求める欲望でも
快楽でもなく
君は何かの理想を求めていると
思い込んでいる
でも、君の場合、理想ではなく
自分の空虚を満たそうとしている
欠けている何かを補う存在を
見つけようとしている
すごくその言葉はしっくりくるね
まさにそう
私は自分を補ってくれる人が欲しい
私は完璧な人間じゃないから
でもそんな存在は現れないよ
君は靴下の片方を
失くしたと思い込んでいる
それを探して
見つけたと思っては
この柄じゃない、この大きさじゃないと
偏執狂のように当てはめては捨てて
また探している
でも、皆が違う柄の靴下を
履いているんだから
見つかりっこない
君が思う自分の失くしたものは
絶対に見つからないよ
じゃあどうすればいいの
私たちは
片方の足の靴下を履かないまま
歩き続けなきゃいけないの？
だから発想を変えるのさ
自分に欠けた何かがあるなんて
思わないこと
脚は二つあるけど
君の心は一つしかない
欠けているものを
探すのを止めることだ
なるほどなあ
そうしたら、この憂鬱はおさまる？
どうだろうかね
そうなったらどうなるか
あなたには分かる？
分からないね
そうでしょう
だってあなたはその言葉を
自分自身にも向けている
あなたも欠けた何かを探している
それは私、そうでしょう
随分と自信家だね
そうでなきゃ
何度も呼びだされて
こんなところまで来ない
まあ、支払いに困っている
って言ったのは私だけど
でも、あなたも自分の中の
何かをずっと隠して探し続けている
もう一度、私に期待している？
多分心の奥底ではね
でも、建前としては
そんな期待なんてしていないって
言わせてくれ
本音を言えば絶望的になるからね
ええ、建前で生きていい
私たちは本当は絶望を抱えている
私たちは共犯者なんだよ
何の？
人生っていう犯罪の
そう
私たちは一緒に生きるっていう罪に
染まっているんだから
もう離れることなんてできないよ
パートナーでもないのに
そう
あなたは私が呼べばつい来てしまうし
私はあなたをつい呼んでしまうのに
お互いが自分にとって理想的だとも
全く思えないから
ちゃんとしたパートナーみたいに
長続きできない
でも私たちは人生を掛け違えながら
まだ生き続けている
だから離れられないよ
きっとそうなんだろうな
僕らがまだ何にも染まっていない
可能性のある若者だったら
ばっさりとお互い縁を切れて
人生の一時期の
バカげた思い出として笑えたんだろう
でも、ここまで来てしまった
もう今を変えるとしたら
人生の階段から降りる時か
別の人生を生きる時なんだろうな
まあ、いいさ
夜景がきれいだから
バカなことを言ってしまったな
それで、ここで朝まで飲むかい？
どうしようかしらね
（終）
※【スナップショット】では
ワンシチュエーションでの
短いダイアローグや詩を
不定期に載せていきます。
※過去の「スナップショット」置き場
今回はここまで。
お読みいただきありがとうございます。
今日も明日も
読んでくださった皆さんにとって
善い一日でありますように。
次回のエッセイや作品で
またお会いしましょう。
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