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香りの工房。n.7*ルネッサンス時代の美容*

前回に引き続き、マリア・レティツイアさんの香りの工房から、ルネッサンス時代へとタイムスリップしています。

前回までのシリーズは、本投稿の一番最後に案内していますので、ぜひお立ち寄りください。

上流階級の女性の身だしなみ

Caterina Sforza カテリーナ・スフォルツァ

メディチ家のひとりと結婚し、生まれた子供の、またその子供(孫)が、植物にも大きな関心を寄せる、前回も登場したコジモ1世。

カテリーナはミラノ出身。彼女は夫亡きあと、イモラとフォルリの城主として、国を統治し、女傑として名を轟かせた女性。

参照:Wikipedia

そのかたわら、薬草栽培、薬学、美容、錬金術の研究を行い、Experimentiという書籍を発行しています。病気に打ち勝つための調合、美容の調合などが記載されています。

調合の種類は454種。内訳は、薬学358種、化学30種、美容66種。不妊治療、記憶力回復、鬱の回復法についても研究しています。

参照;Finestre sull Arte
Experimentiの1ページ目

美容に関しての記述が興味深い。

肌を清浄する香水、美白液、歯磨き粉、バストアップ・クリーム、ヘアカラー液、脱毛法、肌を潤いながら張りを保つハリケア美容液。

これ、1400年代の話しです。まるでいまと変わらない。ルネッサンス時代のイタリア女性達の美容に対する意識の高さを伺えます。

ISABELLA D’ESTE イザベッラ・デステ

フェッラーラ国のエステ家出身でマントヴァ公へ嫁いだ女性。マントヴァ公に先立たれてからは、摂政としてマントヴァ国を統治し、芸術を擁護し、政治でも手腕を発揮した女性。

参照:Wikipedia
レオナルド・ダ・ヴィンチ作

音楽、文学、科学、文化、芸術。多岐に渡る分野に関心と興味を持つ、パトロンの存在。

関心度の高さでは、恐らく一位二位を競うであろう分野がファッション。ファッションなくして、イザベッラを語れず。

高価な貴石でエレガントな宝飾類を作らせ、華やかなドレスを身にまとい、美しく髪を結い上げる。

洗練された美的感覚は、マントヴァ国だけにあらず、フランス宮廷にも影響を及ぼし、世界一のファーストレディと呼ばれた女性。

でも、わたくしの関心事は、それだけじゃありませんのよ。もっとも関心を寄せているのは、美容です。

自身のアトリエで研究と実験を行い、アンバーグリス、ムスク、ローズウォーター、ネロリ、バニラのような香りのベンゾインなどを使った、オリジナルのクリーム、おしろい、石鹸を開発します。

ルームフレグランスや、リネンウォーターも、イザベッラのオリジナル。

これらの香りの材料が入手できていたというのも、驚きです。

もちろん、香水を携帯するための美しいポマンダーも忘れてはなりません。

装飾を施した金の鎖で腰紐に結びつけたり、香りを入れるための小さな容器を施させたブレスレットを腕に巻きつけたり、贅を尽くしたペンダントを胸元に飾り、香りを楽しみます。

港のあるジェノヴァへ出かけた際には、せっかくのチャンスですもの、香水に必要なあらゆる輸入品を購入してきましたわ。

いま流行のコザティ手袋も、もちろんあるわよ。香水とオイルを合わせた液体に手袋を浸して、皮を柔らかくしながら、香りを染み込ませたものよ。

ジャコウネコをご存知?
ボルジア家の枢機卿、未来のローマ教皇アレクサンデル6世様がね、わたしに贈ってくださったの。香りを作るためにとても重宝しているわ。

LUCREZIA BORGIA  ルクレツィア・ボルジア

ボルジアで連想されるのは、毒薬。不都合だったり不要になった人物を殺すのに用いられたもの。ここでは、そのような物騒なお話しは脇におき、ルクレツィアの美容に注目してみましょう。

ローマからフェッラーラへ嫁ぐ道中に、いま私はいます。今回でもう3度目の結婚です。いつになれば、わたしは女性として幸せを掴むことができるのかしら。

参照:Wikipedia

27日間の旅程では、身だしなみを整えたいので、5日おきに休憩するようにお願いしています。

髪を染める方法は、カテリーナ・スフォルツァ様の調合を参考にしており、数日間、髪の毛を太陽に晒させるというものです。ヘアクリームは、サフランを使います。私の義理の姉にあたる、イザベラ・デステ侯妃様からは、ルバーブの根も染色に良いとアドバイスを受けています。

フェッラーラへ到着するときには、光輝くような金髪を将来の旦那さまへお見せすることができるでしょう。

もちろん、前回案内したカテリーナ・デ・メデイチも忘れてはなりません。

いかがですか? 

興味深いのは、ルクレツィア・ボルジア以外の3人の女性は、夫に先立たれて泣き崩す弱い女性とは正反対に、女傑として、政治、外交、文化と、幅広く活躍し、かつ、美容と香水の使い手として群を抜いており、一目おかれていたこと。カッコ良いですねー。

イタリア好きの方なら、ご存知であろう塩野七生。現代の男性をザクザクと切る、歯切れのいい塩野七生さんが描く、かっこいいルネサンスの女たち。


わたしの「上流階級の女性の身だしなみ」は、こちらを参照にしてます。

さて、ここで終わりじゃありません。もう少し、お付き合いください。

ルネッサンス時代の花々

ルネッサンス時代にはどのような植物が咲いていたのでしょう。

いまの植物は、同じ植物でも、当時とはまったく違います。そして、身近に自然があり、植物の香りに満ちていました。自然が、植物の香りが、生活のなかにあったんです。

(マリア・レティツイアさんのインタビューより)

実際に、ルネッサンス時代にどんな植物が咲いていたのか、参考文献はないかなぁ。と考えあぐねいている時に、閃きました。

そうだ!1482年頃に描かれた絵画があるではないか。当時の花々が丹念に描かれてる、その名も「春」Primavera プリマヴェーラ。

ルネッサンス時代の代表作品として教科書にも紹介されているので、見覚えのある方もいらっしゃるでしょう。

絵が小さいので一つ一つの花を見極めるのは難しいので、ざっくりと、当時どのような花々が咲いていたのか、参考にご覧ください。

絵のタイトル通り、春の花が咲き乱れています。ウフィツィ美術館の公式FBには、毎週1枚を選んで説明する無料講義があるのですが、そちらを聞いて、写したものです。

これはスミレ。スミレは「愛の花」を表すんですって。地面に咲く花々の間にたくさん散りばめられています。

クレスという花はこんなところに描かれています。左側の男性のブーツの部分。クレスには、地上の愛から天上の愛へと昇華する意味があります。

さらに、イタリアン・アスター。上の絵では、どこに描かれているのかわかりませんが、拡大すると、こちら。

やはり左側の男性ですが、彼のふくらはぎの後ろに一輪!

イタリア語でイタリアン・アスターは、Astro amelloと呼ばれます。Astroは星を表し、愛のシンボルなんだそうです。

バラの花は、ヴィーナスの花で、愛の花。というのはわかりますが、絵画に描かれている花のひとつひとつに意味があります。ちょっとだけ例を。

カーネーション:花嫁の花
スミレ:愛の花
ポピー:愛を確かめる花
ボリジ:愛される幸せ
クロッカス:結婚の花
マートル:愛のシンボル

ちなみに春に実らないオレンジは、メディチ家の家紋を表しています。

「春」の作品を、花を中心に鑑賞するのも面白いですね。花の名前を書き込んでいて、楽しかったです。

フィレンツェにいらしたときには、ウフィツィ美術館で本物の作品を、ぜひご覧ください!門外不出の作品なので、貸し出されることなく、フィレンツェで必ず鑑賞できる一枚です。

マリア・レティツイアさんの工房見学から、ずいぶん遠くまで来てしまいました。今回で終わりのはずでしたが、次回はイタリアの薬局事情や、マリア・レティツイアさんの工房の詳細をご案内します。

最後まで読んで頂きまして
ありがとうございます。
次回も会えれば嬉しいです。

前回までのシリーズは、
こちらからご覧ください。
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