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工房の中庭の試食会で、出会った物語。 フィレンツェ編 *エノガストロノミア&アトリエ n.8*

『フード&デザイン』をテーマに、アトリエや工房を見学しつつ、「ワインを飲みながら、食事も楽しみましょう!」という、あちらも、こちらも、どちらも楽しそうなイベント。

前回までは、トスカーナ州北部に位置するムジェッロ地方を案内してきましたが、今回はフィレンツェに戻ってきての参加です。

ムジェッロ風ラーメンの印象が強いイベントですが、こちらでは、どんな出会いが待ち受けているでしょう。

たかがパン。されどパン。

パンの試食。たかがパン。されどパン。30年間も生き続けている天然酵母菌が成したパン。この母なる酵は、今までに、どれだけのパンを生み出してきたのでしょう。

オーガニックで栽培された古代麦を、石臼で引いた粉。手でこね、ゆっくり発酵させ、薪釜でじっくり焼き上げています。

  • 強力粉になる硬質のセナトーレ・カペッリ小麦

  • そば粉

  • オーツ麦

  • 大麦

  • スペルト小麦

  • ヒトツブ小麦

「一粒小麦」じゃダメなのかしら。なぜカタカナ表記なのか、ちょっと不思議な、ヒトツブ小麦。グルテンが少なく繊維が多い品種。イタリア語では、モノコッコ(monococco)という可愛い音で呼ばれています。

白くて柔らかくてバターの香りのするリッチなパンとは真逆の、いたってシンプルなパン。イメージ的には、フランス産のパン・ド・カンパーニュが、一番近いかしら。

これは、中世時代に手に入った食材で作られた「中世のパン」。全粒粉のスペルト小麦に、栗、はちみつ、くるみが入っている。食感もっちりで、甘いのに塩い、塩いのに甘い。癖になる美味しさ。

参考:fornolatorre

試食したパンには、一切バターが入ってないので、噛めば噛むほど、麦の旨味と香りが口に広がります。そば粉のパンは独特の癖があるはずだけど、酵母の力なのか、どっしり大地に根を下ろしたような、土と太陽の香りのするパンに仕上がっていました。

パンだけ食べても美味しいけど、なにか、飲み物があった方がいいよね。

みなさんのお気持ち、もちろん、わかっておりますとも!

さぁさぁ、こちらには、ワインとチーズがありますよ!

これぞまさに、至れり尽くせり。

キャンティ地区パンツァーノ村のキャンティ・クラシコ・ワインが揃っておりました。いいですねぇ。いいですねぇ。非常に!いいですねぇ。

パンツァーノ村は、小高い丘に囲まれて、絶えず風が吹き、朝晩の寒暖の差があり、害虫のつきにくい環境もあり、村で作られるワインの90%がオーガニックです。

ほろ酔い気分で、グラス片手に奥を覗くと、彼が控えていました。

父親の言いつけを破った、二人の兄弟の物語。

写真撮っていい?

もちろん!

奥に控えていたのは、トラットリア・デ・ブルデ(Trattoria da Burde)のパオロさん。

トラットリア・デ・ブルデは、フィレンツェの市街にあり、Tボーン・ステーキが美味しいお店としても有名。初代のおじぃさんから3世代目の、アンドレアさんと、パオロさんの、ふたりの兄弟が跡を継いでいます。

ずっとお店に立ち続けたお父さんが、「家に帰る」という「家」はお店のことで、セカンドハウスは、住居。息子二人には、店の跡を継ぐな。と常々言っていたそう。

全粒粉でピチと呼ばれる、
うどんのような
パスタを打っているところ。

息子の一人アンドレアは、お父さんの言いつけを破り、お店で働こうとします。しかし、ここで問題が浮上。

店で、どのポジションを取るか。

すでに家族内でお店のチームワークができあがっていて、入り込む余地なし。さて、どうしよう?と考え込むアンドレア。

目を落としたところには、ガラスの瓶に入ったハウスワイン。

そういえば、店に、ワインを専門とする人は誰もいない。ハウスワインだけじゃなく、ここで作られる料理に合う、銘柄を揃えたらどうだろう。そうすれば、料理もワインも、より引き立つはずだ。

そこで、ソムリエの資格を取り、店のワイン部を立ち上げます。やがてワイン・ジャーナリストとしても活躍するようになる、アンドレアの最初の一歩です。

ピチのパスタの具材は、
オーガニックの羊のチーズと、
黒トリュフ。

その間に、もうひとりの息子パオロさんが、キッチンに入るようになります。子供時代からおばあちゃんやお母さんの手料理で育ってきた彼には、家庭料理の味が染み付いている。

例えば、トマトソースのスパゲッティ。一度も食べたことがなく、レシピ通りに作っても、本当の味にはならないんだ。身体や舌が覚えている「適量」という、微妙な塩加減があって、僕たちのトマトソースのスパゲッティが出来上がるんだ。

トラットリア・デ・ブルデには、代々通うお客さんも少なくない。

『おじぃちゃんのお気に入りの席は、あそこだったんだ。』

『お父さんに連れられて来てた子供時代から、ずっと、あそこに、あのボトルが置いてあるよね。見るたびに、子供の頃を思い出すよ。』

お客さんから、そんな話を聞くと、誰かの想い出を断ち切ってしまうようで、お店に手を加えることができないんだ。

いまは、お客さんにメニューを渡すけど、昔は口頭で。しかも、テーブルを回って説明するんじゃないんだ。ある時間になると、お店の真ん中に立ち、前菜からドルチェまで、大きな声で、説明するんだ。

アーリオオーリオ&
ペコリーノ&黒トリュフの
贅沢ピチのできあがり。

お父さん、僕、もうドルチェ食べてんだけど。

と挟むと、

うるさい!これから注文する人もいるんだから、大人しく食べてなさい。

そして、「本日の前菜は〜!」と、僕以外にも、すでに注文を終えているお客さん達も、大声でお父さんが説明するのを食べながら聞いているんだ(笑)。

僕たちができることは、未来へ繋げること。過去のものとなり、燃えかすの炭を抱えるのではなく、常に、火をくべることで、伝統を受け継いでいくんだ。もし僕たちの子供達が跡を継ぐときでも、炭ではなく、燃える薪を渡したいと思っている。

火をくべ続ける。彼らの信念を貫く、新しい試み。

アンドレアさんはソムリエ。パオロさんはシェフ。二人のコラボレーション、それが、ワインと料理のマリアージュ会。定期的に行なっており、わたしも、以前は、毎月足繁く通っていました。

カラブラ州の赤ワイン「チロ」との
マリアージュ会のときの様子。

肉の王様Tボーンステーキと、泡の女王様シャンパンという、奇異なマリアージュ会もあり、毎回好評。

タンニンの効いた赤ワインとレアの赤肉は、とても相性がいいけど、繊細でビロードようなシャンパンの泡が、脂身のない、どちらかというとサッパリ系の赤肉と、意外に相性がいいのには驚きです。

コロナのときはどうしてたの?

ケータリングしてた。
そうそう、それと、瓶詰め商品も作ったんだよ。

瓶詰め各種、ブルデ発。味見したけど、どれも美味しい。フィレンツェでは、イータリー(Etaly)やペーニャ(Pegna dal 1860)にあります。

コロナで最も影響を受けた業界の1つが飲食業界。そんな強い風に立ち向かい、空いた時間を利用して、新しいことに挑戦する二人の姿勢にエールを送りたくなります。

(瓶ものだけど)お土産や、アパート滞在のときは、温めるだけで食べれるので、お部屋夕食のときに、ぜひ!

お店の歴史や、お客さんのエピソードがたくさん詰まっているトラットリア・デ・ブルデ。残念ながら中心街にはありません。

お父さんの代までは、フィレンツェ市ではなく、隣町。昔は「フィレンツェに行ってくる」というほど、中心街からちょっと距離があるので、足をお運びになる方は、タクシー利用が便利です。

今回はエノガストロノミア&アトリエの「エノガストロノミア」をご案内しましたが、ここはどこ? なんのの中庭? なんのアトリエ?

ヒントはこちら。
↓↓↓

今回は、更新が遅れました!
すいません!
立ち寄ってくださり、
最後まで読んで頂いて、
ありがとうございます。

次回は、
アトリエの世界へと、
いざないます。


『エノガストロノミア&アトリエ』シリーズをマガジンにまとめました。興味のある方は、全編ご覧いただけます。







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