材料力学から始まる変形理論 -3-
材料力学を起点とした変形理論に関する連載記事。物理的な「変形」にまつわる理論を深掘りします。
前回は「弾性変形」と「塑性変形」の違いに着目しながら、両者の変形理論とその物理的な特徴について示しました。
今回は材料力学における実験的なアプローチについて見ていきます。
材料にはそれぞれ固有の変形に関する特徴(特性)があります。私たちはそれをいくつかの材料試験を通じて確認するのですが、その実例を紹介します。
材料試験について
材料固有の特性を把握するために行われるのが「材料試験」です。材料の用途に応じていくつかありますが、代表的なものは写真に示す単軸引張試験です。決められた試験片の上下端を掴んで引張荷重を与えます。
材料試験では試験片に作用する引張荷重と試験片の伸びの関係から「応力ーひずみ線図」を求めます。
伸びからひずみ、引張荷重から応力を求める方法は材料力学で決められた定義に従います。これらは「公称ひずみ」と「公称応力」という言い方をします。応力-ひずみ線図のデータとして使われる値になります。
応力ーひずみ線図は材料の変形時の特徴(特性)を理解する上で重要なデータのひとつです。このデータに基づいて具体的な設計を進めていきます。どのような点に注目するかなどについて次で説明します。
応力-ひずみ線図の理解
材料試験を通じて、材料の基本的なデータとなる応力-ひずみ線図が得られることが分かりました。ここからは一例として、金属の代表的な応力-ひずみ線図を見ていきます。
左側は軟鋼(炭素を一定量含んだ鋼材)で見られる応力-ひずみ線図です。原点から上降伏点までを弾性領域と明確に規定しています。ここはフックの法則に従う領域で、応力とひずみの関係は線形で表されます。
降伏点(上降伏点)の先は弾性領域から塑性領域に移行します。軟鋼の場合は応力が瞬間的に低下する現象(応力降下)があります。これは軟鋼特有の特性でもあります。そこから徐々に硬化の傾向を示して、最終的に破断を迎えます。
一方で、右側はアルミニウム合金などの一般的な金属の応力-ひずみ線図です。先ほどの軟鋼に比べて明確な降伏点が存在しません。代わりに「耐力」と呼ばれる指標を用います。
塑性領域(特に硬化を起こす段階)は軟鋼とほとんど同じです。応力が最高値になる点を「引張強さ」と言いますが、この段階では試験編はくびれを示すなど、大変形を引き起こしています。
一般的に、金属は上記のように塑性領域を伴います。このことから「延性材料」と呼ばれています。一方で、ガラスや鋳鉄などは塑性領域に移行した直後に破壊することから「脆性材料」と呼ばれています。
真応力と真ひずみ
ここまで説明した応力-ひずみ線図は、公称応力と公称ひずみを元に作成されています。つまり、試験片の初期状態を基準にして応力とひずみを算出します。
しかし、大変形になると断面積や長さが大きく変化しますので、力学的な矛盾が生じます。このことから、初期状態ではなく現在の断面積や長さを基準にして計算したものを「真応力」と「真ひずみ」と言います。
真応力$${\sigma_t}$$と真ひずみ$${\varepsilon_t}$$の計算方法を示します。
$${\varepsilon_t=ln(1+\varepsilon_n)}$$ , $${\sigma_t=\sigma_n(1+\varepsilon_n)}$$
ここで、添字(t)は公称値、添字(n)は真値に対応しています。
理論計算で使われる応力やひずみは、一般的に真応力と真ひずみです。有限要素法では主に真応力と真ひずみが使われます。
上記のグラフを見て頂けると分かるように、真応力は真ひずみに対して単調増加が基本です。これは有限要素法が増分計算を内部的に行う際に都合が良いため、採用されている手法でもあるのです。
おわりに
今回は物体(材料)の変形上の特徴(特性)を確認する場合に、現実で行われる材料試験について見ていきました。弾性領域は線形なので違いは現れませんが、塑性領域では材料ごとに特有の挙動が現れます。
今回は最も身近な例として金属材料を中心に見てきましたが、他の材料に関しましても、興味があれば調べてみると良いと思います。
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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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