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材料力学から始まる変形理論 -6-

材料力学を起点とした変形理論に関する連載記事。物理的な「変形」にまつわる理論を深掘りします。

前回は解析でもよく用いる「主応力」について説明しました。多軸応力下で起こる変形を代表的な方向(軸)で評価するテクニックです。

今回も主応力の話が引き続き登場します。材料力学では変形を弾性領域と塑性領域に分けて考えます。その境目に当たる「降伏」と呼ばれる現象がありますが、今回はそこに触れていきます。

多軸応力状態で降伏の有無を決めるための指標に「ミーゼス応力」と呼ばれるものがあります。弾性領域でも使えるため、何かと使う機会が多いです。

2種類の降伏条件

材料は変形が進むと、応力とひずみが線形の関係にある弾性領域から、非線形の塑性領域に移行します。弾性変形の限界でもあるこの現象を「降伏」と言います。

降伏する瞬間の応力を「降伏応力」と言います。軟鋼では降伏点として明確に現れますが、そうならない材料もあります。どのような材料にも降伏する瞬間は存在するため、ある規定に基づいて降伏応力は決まります。

降伏応力は実験的な観点から決まることが多いです。そこに理論的な説明を持ち込んだものが降伏条件です。金属材料には主に「トレスカの降伏条件」「ミーゼスの降伏条件」の2種類が存在します。

共通点としては、せん断応力を起点に考えられていることです。トレスカの降伏条件は「最大せん断応力説」と呼ばれており、ミーゼスの降伏条件は「せん断ひずみエネルギー説」と呼ばれています。

降伏条件の理論

トレスカの降伏条件は、最大せん断応力がある値Kに達すると降伏するというシンプルな条件です。変形は一般的に多軸応力状態で生じるため、降伏条件は応力成分の全てに対する降伏関数として定義されます。

$${f(\sigma)=\sigma_{max}-\sigma_{min}=2K}$$

ここで、上記の中央の辺で使われている応力は最大主応力と最小主応力です。上記の式は「最大主応力と最小主応力の差は最大せん断応力の2倍に等しい」という主応力の性質から来ています。

一方で、ミーゼスの降伏条件はせん断ひずみエネルギーがある値に達すると降伏するというものです。トレスカの降伏条件に中間主応力も考慮した、実用性の高い降伏条件です。

せん断ひずみエネルギーは、全体のひずみエネルギーから静水圧により生じたエネルギーを差し引いたもので表現されます。同じく降伏関数で定義します。

$${f(\sigma)=\sqrt{J_2}-K}$$

ここで、$${J_2}$$は偏差応力(垂直応力から平均応力を差し引いたもの)の第2不変量です。

$${J_2=\frac{1}{6}\{(\sigma_1-\sigma_2)^2+(\sigma_2-\sigma_3)^2+(\sigma_3-\sigma_1)^2\}}$$

上記の式の通り、ミーゼスの降伏条件は3方向の主応力の差分を基に計算していることが分かります。

ミーゼス応力(相当応力)

ミーゼスの降伏条件に従い、単軸の降伏と等価になるように整理したものが「ミーゼス応力」です。

$${\bar{\sigma}=\sqrt{\frac{1}{2}\{(\sigma_1-\sigma_2)^2+(\sigma_2-\sigma_3)^2+(\sigma_3-\sigma_1)^2\}}}$$

このミーゼス応力は「相当応力」とも呼ばれており、ミーゼス応力(相当応力)が降伏応力に一致したときに降伏すると考えます。

この計算式はあくまで主応力を用いた表現ですが、一般的なせん断応力も含めた形でも表すことができます。

$${\bar{\sigma}=\sqrt{\frac{1}{2}\{(\sigma_x-\sigma_y)^2+(\sigma_y-\sigma_z)^2+(\sigma_z-\sigma_x)^2+6(\tau_{xy}^2+\tau_{yz}^2+\tau_{zx}^2)\}}}$$

ミーゼス応力(相当応力)は主応力と同様に、複数の応力成分(多軸応力状態)に対してひとつの代表値として変形を評価します。

単軸応力の場合でも上記の式に当てはまれば、きちんと整合が取れることが分かります。

おわりに

今回は弾性変形と塑性変形の境界線に当たる「降伏」について、降伏条件も交えて見ていきました。ミーゼス応力(相当応力)という、変形を代表的に見れる指標が重要であることが分かりました。

材料力学に関する基本的な話題(連載)は今回で終わりにします。まだまだ変形理論について、別の切り口から深掘りできますが、それはまた機会があるときに。

個人としては、材料力学は最も興味のある学問でもありますので、おそらくまた登場することになると思いますが、その際はよろしくお願いします。

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最後まで読んで頂き、ありがとうございます。この記事があなたの人生の新たな気づきになれたら幸いです。今後とも宜しくお願いいたします♪♪
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