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夜と海

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夜と海をめぐる四つの散文。
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# 渋谷

# 渋谷

 少し伸びた髪を固い整髪料で整えて、いつもと違うフレームの眼鏡をかけて、渋谷に行った。ひと昔前のロックミュージックを聴きながら人混みの中を泳いでいれば、誰かに会える気がして。

 渋谷の雑踏にはたくさんの人間がいた。
大きなブランドロゴの印字された赤いパーカーを来た人。ギラギラと光沢のあるスニーカーを履いた人。手触りの柔らかそうな春色のコートを着た人。随分と長いマフラーを何重にも巻いてる人。アジア

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# サナトリウム

# サナトリウム

 お元気ですか?
 わたしは元気です。

 外は相変わらずひどい雨で、雨粒が際限なくアスファルトを打ち付ける音と、水溜りの上をザァーっと駆け抜けていく車の音が交互に聞こえてきます。わたしは濡れた髪をタオルで巻いたまま、毛布にくるまってこれを書いています。
 こんな日は、静かな音楽を流して、棚から普段飲まない紅茶を出してきて、ゆっくりと香りを楽しみながら、ちびちびと飲むのがわたしは好きです。そう

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# 帳

# 帳

 列車は大きな弧を描いて停車した。
 遠く、幾重にも重なる朝靄の向こうに山の稜線が連なる。岸壁に沿ってカーブを描く線路、三日月型のプラットホーム。そこは終着駅。

 人影はない、無人の改札口。
 切符を投げ入れ、駅を出ると、もう使われていない小さなロータリーがあって、もう使われていない古い型の車が数台停まっていた。地面から生えた草がそのタイヤに絡むように伸びていて、それはある種の芸術作品のようだっ

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# ボート

# ボート

君は知っているか、
夜が何処からやってくるのかを。

君は知っているか、
海が何処にあるのかを。

時計の針が重なり合ったところから、
誰かがレコードの再生ボタンを押したところから、
街灯が消えて、
通りに誰もいなくなったところから、
夜はやってくるのかもしれない。

ソーダ水を注いだ真夏のグラスの中に、
ポーランド人の深い悲しみの中に、
病床の母の胸の中に、
海はあるのか

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