apricot

20代 会社員

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最近の記事

陽の光が尊い生活のよしあし

職場が変わり、ひらけた窓から外の景色が見えるようになった。ある日の夕方、夕焼けの映り込んだオフィス街がきれいに見えたので、ふと「夕焼けがきれいに見えますね」と同じデスクの人に話しかけたら、「え?」と聞き返された。なんとなく同じセリフを繰り返すのが気恥ずかしくなって、「窓から外が見えるっていいですね」と言い直したら、ああ、みたいな、そうですか、みたいな言葉ではない返事が返って来て、その後に会話が続いたのか、続いていないのかもよく覚えていないくらいに白けて、とにかく、口にしなきゃ

    • 「関心がある」ことと「今読みたい」は別

      普段使っている端末がアルゴリズムに侵蝕されており辟易している。検索したものやたまたま流れてきて閲覧したものをことごとく拾って、「こういうの興味あるでしょ!」と言わんばかりにありとあらゆる場面でサジェストしてくる。広告表示やニュースの表示が本当にそればかりになり、間違っちゃいないんだけどそういうことじゃないんだよ、と言いたくなる。 要するに私が接触した情報たちに基づいてそうなっているのだが、情報へ接触した経緯や接触の仕方は実にさまざまである。必要に迫られて、純粋に興味を持って

      • 憂いで心がむくまないように

        全身全霊をかけて「気にしない」をやる、というよく分からない力の使い方をしている。何かを考え出しそうになると慌てて顔の前で手を振って、自分の頭を醒まさせる。前へ前へ、次へ次へ、流していく、押し流していく、そんなふうに唱えながら、自分に言い聞かせる。何も考えない、というのはいちばん楽な態度のように見えるけれど、実際には非常に骨の折れることで、急な坂を転がり落ちていきそうな自分の背丈ほどの鉄球をなんとか食い止めるみたいな、そういう感じがする。 ちょっとした転換期にあって、普段はや

        • it's Friday

          どっと疲れが押し寄せてくる金曜日。頑張ってるんだから報われていいだろ、の自分と、いやまだまだ足りてないよ、の自分と、表と裏を返すみたいに交互に訪れては腹の底を揺さぶる。至って理性的でいたいのに、飽和した感情が嫌な感じで染み出してくる。ほっといてくれよ。自分でも理不尽に感じる投げやりな気持ちを持て余している。

        陽の光が尊い生活のよしあし

          自分の境界を守っていく

          年が明けてからというもの、時間がぼたっ、ぼたっ、と垂れるように過ぎている気がして居心地が悪かった。年末年始の休みには部屋の片付けをしたし、休みを終えてからはいつも通りに仕事もしているので、過ごし方としては特段イレギュラーなわけでもないのだが、なんとなく、「これでいいんだっけ?」、「こういうことでよかったっけ?」という小さな問いかけが日常に付きまとうようだった。目や耳に入る至るところで繰り返される、今年の目標は、今年の抱負は、今年はどんな年にしたいですか、の声がけに、否応なくこ

          自分の境界を守っていく

          輪郭を知ること

          歌人・加藤千恵の小説集『ハニービターハニー』に収録されている「ねじれの位置」は、日本文学科の主人公と数学科の交際相手の物語だ。付き合い始めた当初は、自分と彼が「違う」ということを「ちょっとした宝物」のように感じていた主人公だが、交際が続くにつれ、その違いがだんだんと寂しさに変わってゆく。自分の分からないことを理解し、自分の知らないことを知っている彼と自分が合わないのではないかと、「一点の黒いしみ」は主人公の内部だけで広がってゆく。 恋愛に限らずどんな人間関係においても、違う

          輪郭を知ること

          生活が重たい

          天気が悪い。台風が通過しているので当たり前ではある。天気に気分が引っ張られるので、一刻も早く次の晴れ間のタイミングを把握したく、天気予報アプリを開いては雨雲の動きを詳細に確認する。日曜日には雨雲が抜けると知って、少し安堵する。 何もやる気が起きないので、一日中眠っていた。夢の見すぎで車酔いのようになって、ますます起き上がる気が失せた。読みたい本も観たいドラマもあるはずなのに、いざ休日になると全く手が伸びない。いつも週末を目指して平日をやり過ごしているのだけれど、辿り着いた週

          生活が重たい

          ケアの不在と「傷つきやすさ」

          仕事をしながら、Podcastで配信された8月29日の『文化系トークラジオLife』(TBSラジオ)を流していた。テーマは「ケアってなんだろう?~令和時代のつながりと責任の話」。冒頭はリアルタイムで聴いていたのだが途中で寝てしまったので、聴き直したいと思っていた。 結局ほんの少ししか聴けなかったのだが、今日気になったのは、最初に出演者を紹介する場面でライターの山本ぽてとさんが話していたことだった。「(別で放送された「予告編」で)私すごいケア上手よ、という感じで言ってしまった

          ケアの不在と「傷つきやすさ」

          「大坂なおみ選手を支持するか否か」の問いかけを超えたい

          テニスの大坂なおみ選手が全仏オープンでの会見拒否を表明し、のちに大会を棄権したことに関連して、6月1日に『大坂なおみ選手”depression”の和訳から考えるメンタルヘルスを語ることの繊細さ』という文章を書いた。 "depression"を日本のそれぞれのメディアがどのように訳したかという視点から、メンタルヘルスについてその実状を断定することの難しさと、一方で本人の語りを矮小化してしまうリスクを考えた。大坂選手のニュースが話題になっていたとあって、自分の想定以上に多くのア

          「大坂なおみ選手を支持するか否か」の問いかけを超えたい

          大坂なおみ選手"depression"の和訳から考えるメンタルヘルスを語ることの繊細さ

          テニスの大坂なおみ選手が、5月27日に全仏オープンでの会見拒否をツイッターで表明し話題になった。5月30日の1回戦勝利後、コート上で行われたインタビューやテレビ局の取材に応じたあと、表明通り記者会見には出席しなかった。これに対して大会の主催者から1万5千ドル(約165万円)の罰金が科されたあとの5月31日(日本時間6月1日深夜)、大坂選手はツイッターを更新し、全仏オープンを棄権することと、2018年からうつ("depression")に苦しんでいたことに言及した。 私は6月

          大坂なおみ選手"depression"の和訳から考えるメンタルヘルスを語ることの繊細さ

          「本当のところ、どうなの?」と聞きたくなる心境

          私の中で、見聞きするものへの「リアル志向」が高まっている。 先日、『光浦靖子「バカにした笑いでした」あるテレビ番組の趣旨に嘆き』というタイトルのネット記事を読んだ。ある番組の収録に参加したところ、自身の作った手芸作品に対して、「500円なら買ってやってもいい」、正確には「こちら、一般の人にいくらまでなら出せる? と聞いて最高金額500円でしたー!」というコメントをされたという。その上で「スタッフ大爆笑」という展開で、光浦さんは「バカにした笑いでした。」とツイッターに投稿して

          「本当のところ、どうなの?」と聞きたくなる心境

          不思議な力を受け取っている

          西川美和監督の『スクリーンが待っている』を読み終えた。映画『すばらしき世界』を企画し撮り上げるまでの日々が綴られたエッセイだ。 映画の原作小説『身分帳』を読んだとき、いちばん最後に、「復刊にあたって」として西川監督の文章が載っていた。十数ページの短いその文章を読んで、一瞬で、このひとの言葉が紛れもなく好きだ、と思った。調べてみると、最新のエッセイは今年の1月に出ていて、映画『すばらしき世界』の製作過程を主に綴ったものだという。これはぜひ読みたいと思って、仕事帰りに駅ビルの本

          不思議な力を受け取っている

          佐木隆三さんの『身分帳』を読んだ

          佐木隆三さんの『身分帳』を読んだ。映画『すばらしき世界』の原作となったノンフィクション小説だ。感想を書こうと思ったが全くうまくいかず、悶々とした末に諦めた。 映画のことを書こうとしたときも、同じようにどんづまった。作品のことを書こうするとうまくいかないのは、私がいちばんに心惹かれているのが作品の中身ではなく、「この作品が作られたその事実そのもの」だからなのだと思う。もちろん、それぞれの作品が素晴らしいのは大前提の上で、である。 『身分帳』には、佐木さんが小説のモデルである

          佐木隆三さんの『身分帳』を読んだ

          定期的に自分の心の立ち位置を確かめる

          ずっと観ようと思っていた100分de名著のハンナ・アーレントの回を観た。『全体主義の起原』と『エルサレムのアイヒマン』、自分で読もうと思ったら間違いなく気が挫けてしまうだろう。 印象に残ったキーワードは2つ。ひとつは、「分かりやすい世界観」だ。これは現代も、もしかしたら現代のほうが陥りやすいものなのではないか、と思った。経済的に行き詰まったり、次にどんなアクションを起こしたらよいか分からないような状況下で"信じたい嘘"が提示されると、容易にそれが受け容れられてしまうという現

          定期的に自分の心の立ち位置を確かめる

          他者の物語を想像することをやめない。『すばらしき世界』と『プリズン・サークル』を観て感じたこと

          悪役には悪役の物語がある、ということを、私はミュージカル『ウィキッド』から学びました。有名な『オズの魔法使い』に登場する「西の悪い魔女」に名前を与えて、彼女がなぜ「悪い魔女」と呼ばれるようになったのか、その過去を描いた作品です。緑色の肌のせいで親から愛されなかった子ども時代、「良い魔女」グリンダとルームメイトだった学生時代、そしてオズの魔法使いに出会ってからの出来事、その物語を知ったあとでもう一度彼女を見つめたとき、「悪い」とは何だったのか、もしかしたら「悪」とは目に見えてい

          他者の物語を想像することをやめない。『すばらしき世界』と『プリズン・サークル』を観て感じたこと

          確実に「届いてしまう」時代に思いを発信する難しさ

          最近、映画を二作品観に行きました。とても心動かされて、いろいろなことが頭を巡って、日常のふとした瞬間にもそのことを思い出したりしているのですが、一向にその気持ちを文章に書き出せずにいます。 別のnoteでも少し書いたのですが、好きなことや感動したことを言葉にするのって難しい。荷が重いのです。誰かの言葉ではなく自分の言葉で書きたいけれど、書けば書くほど月並みな言い方になって、これって伝わってるのかな、誰かの真似になってないかな、そういうことばかり考えてしまいます。ここに確かに

          確実に「届いてしまう」時代に思いを発信する難しさ