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憂いで心がむくまないように

全身全霊をかけて「気にしない」をやる、というよく分からない力の使い方をしている。何かを考え出しそうになると慌てて顔の前で手を振って、自分の頭を醒まさせる。前へ前へ、次へ次へ、流していく、押し流していく、そんなふうに唱えながら、自分に言い聞かせる。何も考えない、というのはいちばん楽な態度のように見えるけれど、実際には非常に骨の折れることで、急な坂を転がり落ちていきそうな自分の背丈ほどの鉄球をなんとか食い止めるみたいな、そういう感じがする。

ちょっとした転換期にあって、普段はやらないような苦手な作業が日々訪れるので、そのたびに神経が毛羽立ったり、擦り切れたり、はたまた思い切り穴が開いたりする。本来であればひとつひとつを拾い上げて熟考してしまう性格なのだけれど、今それをやると間違いなくよくないことが分かっているので、そうならないようにしたいのである。前へ前へ、次へ次へ、唱えるたびに、ああなんか、足がむくんだときに拳でぐいぐいやるときとか、ああいう力の入れ方に似ているな、と思う。排出されずに淀んで滞留してしまいそうなものを、どうにかして流れろ、流れろ、とやっているあの感覚。それで何が変わるって、劇的に楽にはならないのだけれど、それをやることによって満足する、みたいな。溜まった憂いで心がむくまないように、定期的に、拳でさする。

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