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印度林檎之介 ショートショート

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印度林檎之介作 珠玉のショートショート集
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#掌編

ショートショート「相撲」

ショートショート「相撲」

深夜、家に帰りダイジェストニュースを見る。

「いじめ問題で揺れる○○中学で、校長とPTAによる話合いが行わ
れました。」

画面に土俵が映り、二人の男が現われる。枯れ木のような体に白い
まわしをつけた初老の男。校長だ。緊張で顔は真っ青。全身ぷるぷる
している。それに対し、体重200Kgはありそうな巨漢。PTA会長だ。
「見合って~、八卦よい!!」
豪快なPTA会長の上

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ショートショート『勇気』

卒業式が終わった一人の帰り道。

彼女についに告白できなかった……、

意識したくなくても後悔が大きくなっていく。

向かいから学生服姿のカップルが歩いてくる。

卒業証書のケースを持っているが、僕とは別の高校のようだ。

うつむいたまますれ違うと、男の子のほうが声をかけてきた。

「これ、あげるよ」

そしてポケットから赤い、小さな星のようなものを取り出した。

「え……!」

ふいをつかれたせ

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ショートショート「箱の中」

世界中の鶏が全滅した。
それでも、焼き鳥屋は営業している。
豚肉を焼くいわゆる『焼きトン』だが、『トリ皮』だけはメニューにある。
俺は焼き鳥屋のオヤジに聞いてみた。
「これ、何の皮?」
「ブタの皮を加工してつくるのさ……。作り方見てみるかい?」
オヤジは携帯で動画サイト『mytube』を見せてくれた。

『生きたブタの毛が刈られて、コンベアーの上に固定されて流れていく。
コンベアーの上にあるのは箱

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ショートショート「ダイアル」

最終電車に乗ると、ほとんど人がいなかった。

だだっ広く空いた席の端に中年の男性が一人、いびきをかきながらぐっすり眠りこけている。

男性の横を通り過ぎようとした時、私は妙な事に気がついた。

男の頭はてっぺんだけ禿げているいわゆるザビエル禿なのだが、なぜか頭頂部にダイアルがついているのだ。

……見ると、円周にそって矢印(←、→)がついている。

なんだ、これは?と思うと同時に、困った事にどうし

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ショートショート「王」

ショートショート「王」

日曜日。
目覚めると彼は王だった。
ゆっくりと城の庭を散策する。

月曜日。
目覚めると彼は衛士だった。
一日中、油断なく城門を見張る。

火曜日。
目覚めると彼は掃除夫だった。
広い城内、とても一人で掃除できるものではない。
今週は東の回廊を中心に清掃する事とした。

水曜日。
目覚めると彼は料理人だった。
一週間分のパンを焼く。肉や野菜も少し調理する。

その夜、彼は夢を見た。

彼がまだ幼い

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ショートショート「愛」

私の母は変顔が得意だった。

娘である私を赤ん坊の頃から大笑いさせていた。

まったく、私はいつでも必ず笑ってしまうのだ。

小中高校の卒業式では変顔を連発され、

卒業写真の顔が微妙にゆがんでいるくらいだ。

そんな母ともついに、別れの時が来た。

病院で泣きじゃくりながら年老いた母の手を握る。

「とうとうお迎えがくるようだ。
達者でくらしなさい。
どうか幸せに……」

母の声が途絶えた。

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ショートショート「彼」

あたしは彼が大好きだ。うんと甘やかしてくれるから。

もう、恋人と言ってもいい。

「まだ眠たいわ」
「いいよ、すきなだけお眠り」

私達は一週間に一度会い、それは楽しく遊ぶのだ。

家でゴロゴロ、ゲームをしたり、お菓子をつくったり、ショッピングをしたり……

だけど、ああ……12時になると魔法が解けてしまう。

そして12時ピッタリになると彼は出て行き、入れ違いにヤツがくるのだ。

「12時だ。

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ショートショート「火噴症(かふんしょう)」

ショートショート「火噴症(かふんしょう)」

私はアレルギー体質なので毎年、花粉症が大変だ。

今年のスギ花粉はひどいらしい。
イヤだな、と思っていたら案の定、3月になってからクシャミの嵐。
私が宇宙戦艦YAMATOの艦橋に座っていたら、確実に
「アレルギー充填120%!!」
などと、叫んでいるところだ。

……とか、バカな事を考えているうち盛大なクシャミが来たので思いっきりしたら、波動砲ならぬ火の粉が口から噴出したので驚いた。
まるで、火祭

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ショートショート「心の重さ」

ショートショート「心の重さ」

気は晴れないが、くよくよしていても仕方がない。

私は一週間ぶりに円盤型のロボット掃除機のスイッチを入れた。

すると掃除機は掃除をしないで、所在なさげにウロウロと動き回っている。

そして私を見つけると、近づいて来てしゃべり始めた。

見ると、エラー表示が出ている。音声ガイダンスのようだ。

「本機の自重が前回稼動時より約3キログラム減っています。重要なオプション

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ショートショート「威光」

ショートショート「威光」

シンバの村の中央の広場には、守り神がいた。

それはただ大きく、真っ黒で何物にも似ていない。

昔、爺さんが生まれる前、村人達が寝ている間に突然現われ、ずっとそのままそこにいるのだ。

言い伝えによると、神はずっと眠っているのだそうだ。年に一度の祭りの際は神を起こそうとする儀式もある。聖なる棒で神をたたくのだ。だが、神は決して起きない。

シンバの村の神を恐れて、周辺の

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ショートショート 「不思議」

ショートショート 「不思議」

世の中に不思議な事など、ない。
すべて科学的に証明できるはずだ。

俺はTVプロデューサーだ。
かねがね超能力は実在するのに、インチキ扱いされるのを不満に感じていた。俺は自分の生放送の報道番組に本物の超能力を持つ男性、A,Bの両名を出演させた。司会は人気キャスターのC女史。気の強い事で知られる、俺好みの美人だ。何度誘っても落とせないが。

さて、放送当日。
まずは、

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ショートショート「大雪」

朝、起きると天気予報がやっていた。
『今日は大雪です。外出は控えましょう!』
どうせ、東京で『大雪』なんてタカが知れてる。
雪国育ちの俺は無視して会社に向かった。

外に出ても、曇り空だが雪どころか雨さえ降っていない。
ところが、大通りにでても車も人も全くいない。
『まさか、みんな天気予報を真に受けてるのか?』
そう思った瞬間、空から何かが降ってきて道端に駐車してあったママチャリを中心から真っ二つ

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ショートショート「古(いにしえ)の賢者」

近々、世界大戦が起きるという噂を聞いた私はシェルターをつくりコールドスリープマシンで眠りについた。
ところが、マシンの故障で私は数十年の眠りのつもりが二千年後の世界に目覚めてしまった。
どうも世界大戦の影響で世界人口は激減、文明もかなり後退しているようだ。
私はこの世界の見聞を広めるため、旅に出た。

巨大な廃墟のある村に来たときである。
その村の巫女だという美しい女性に呼び止められた。
「もしや

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ショートショート「鉱脈」

俺は鉄鋼会社につとめている。
ある日、うちのチームが大学と共同で海底を調査していると、センサーに巨大な反応が。
「教授、この反応は!?」
「こ、これは……信じられんほど大きな鉄の鋼脈だ。しかも異常な純度の高さだ。ほとんど精錬しなくてよいほどだ」

この鉄の鉱脈は海底のかなり深いところの、これまたさらに深い地下にあったので、巨大だが今まで知られていなかったのだ。
こんなに深いと20世紀の技術では掘削

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