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印度林檎之介 ショートショート

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印度林檎之介作 珠玉のショートショート集
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#SF

ショートショート「追想」

ショートショート「追想」

 古い家を取り壊す際、何やら模様の書かれた紙を子供達が発見した。
「これ、なんだ?」
「『文字』ってものらしい。大昔の意思疎通プロトコルだ」
大脳神経に通信端末を埋め込んでいる最近の子供達には直接、検索情報が音声付の映像として脳に伝わってくる。実は今の会話も子供達は一言も発していない。脳内の端末同士の無線通信で瞬時に意思が相手に伝わるのだ。
「これ、どんな情報が記録され

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ショートショート「ダイアル」

最終電車に乗ると、ほとんど人がいなかった。

だだっ広く空いた席の端に中年の男性が一人、いびきをかきながらぐっすり眠りこけている。

男性の横を通り過ぎようとした時、私は妙な事に気がついた。

男の頭はてっぺんだけ禿げているいわゆるザビエル禿なのだが、なぜか頭頂部にダイアルがついているのだ。

……見ると、円周にそって矢印(←、→)がついている。

なんだ、これは?と思うと同時に、困った事にどうし

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ショートショート「季節の妖精」

三月近いというのに、大雪、氷点下。
せっかく都会から田舎へ移住してきたのにこれはきつい。
今年は春が遅いようだな、などと思いながら庭いじりをしていると、スコップの先に変な感触が。

掘り出してみると、赤ん坊くらいの大きさの人形のようだ。
頭に花だのつくしだのをかたどった、妙な冠をしている……と思ったとたん目を開けてしゃべりだした。
「こんにちは、ボクは『春の妖精』さ! ちょっと寝坊しちゃった。起こ

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ショートショート「伝統の技」

ショートショート「伝統の技」

人類が宇宙に進出してから千年近くが過ぎていた。
有力な植民地はそれぞれ独立し、地球を盟主とした宇宙連邦を形成し
ていた。

そんな惑星の一つ、地球から数千光年離れた辺境の星、惑星ダイタロ
スも比較的歴史が古い植民星で連邦のメンバーであった。

さて、ある日の事……ダイタロス宇宙天文台は未開の宇宙空間から、
微弱な通信をキャッチした。

「こちら、第12次宇宙植民船団

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ショートショート「連」

 家に帰ってきてTVをつけると、もう十二月だという事に気がついた。
 慌ただしい一年だった。俺は京都に引っ越したし、ましてや生きる為に畑を耕すようになるとは今年の始めには考えもしていなかった。いまや、あの日本を襲った悲劇(いや、むしろ喜劇か?)の為に日本のGDPは十分の一にまで落ち込み、もはや台湾以下だ。しかも俺は正にその瞬間の現場に居合わせたのだ。忘れようとしても忘れられるものではない。……俺は

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ショートショート「バランス・オブ・パワー」​

ショートショート「バランス・オブ・パワー」

……何?、わしの話が聞きたいって??
ほう、学校の宿題なのか……年寄りに話しを聞いて来いっていうことじゃな。小学生じゃ知らないのも無理はない。じゃあ、じいちゃんが話してやろう……。

・・・・・・・

ことの発端は、火星が地球に宣戦布告して、火星人が攻めてきたことなんじゃ。そのころの人間はもちろん、おったまげたさ!!
だって、宇宙に地球人しか知的生物

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