見出し画像

戦略コンサルタントが語る「地頭」の本質②

戦略コンサルタントのアップルです。

戦略コンサルタントが地頭をどう捉えているかについて解説する記事の後編です。前編はこちら。

前編の振り返り

前回の記事では、以下のようなお話をしました。


・戦略コンサルタントは、地頭を、ふわっとした概念ではなく、要素分解して捉えている

・具体的には、①広さ、②深さ、③高さ、④回転、⑤発想、の5つで捉えている

・地頭を要素分解して捉えることで、自身の地頭の強みや弱み、また強化の仕方が具体的に見えてくる

・①広さは、「物事を広い視野で捉える力」であり、物事の可能性を広く探り、関係者と合意形成する上で重要

・②深さは、「自問自答を繰り返す力」であり、これができるかどうかで思考の深みは大きく変わってくる

今回は、前回に続き、③高さ、④回転、⑤発想の3つの地頭要素について解説していきます。

③高さ

この「高さ」という地頭を意識している人は、あまり多くないように思います。5つの地頭要素の中では最も目新しいものかもしれません。ですが、今後ビジネスの世界では、これまで以上に重要になってくる地頭の要素だと考えています。

高さとは、「どれだけ”高い視点”から物事を見ることができるか」という地頭の力です。コンサル業界では「高い視座を持つのが大事だ」というような言われ方もします。

高い視点から物事を見るとはどういうことでしょうか?

よく、「鳥の目」と「虫の目」という例えが使われます。鳥は、上空の高い視点から、地上から空までを見渡しています。高度が高いところに目があるからこそ、広く俯瞰的な情報が目に入ってきます。一方、虫は(わかりやすく小さな虫としてのアリは)、おそらく自分の半径数センチくらいしか目に入らないでしょう。目の前に石ころなどの障害があれば、更に見えるものは限られます。

このように、目線の高さをどこに置くかで、見える景色は全然異なってくるわけです。

目線の高さを自身でどれだけ高いところに置くことができるか。それによっていかに物事の大局観をつかむか。これが「高さ」という地頭の要素です。

ビジネスの世界でも、個人差はありますが、組織における役職が上位になればなるほど、視座や視点は高くなります。こと大企業では、社長が持っている視座と、一介の社員が持っている視座には、大きな開きがあります。社長は「会社全体の経営をどうするか」という視座で常に物事を考えている一方、一社員であれば「自分の業務をどうするか」という視座で物事を考えています。視座の差が生まれるのは、当たり前と言えば当たり前です。

この当たり前のことをしっかりと認識することが、まず前提として大事になります。

・人によって、視座の高さには大きな違いがある
・そのことを理解した上で、相手とコミュニケーションをとる際には、相手の視座のレベルに合わせて会話、議論する

このことが、コミュニケーションを円滑に進める上でとても大切であり、これをどれだけうまくコントロールできるかが「高さ」という地頭の本質になります。

戦略コンサルタントの仕事を通じて、この「高さ」について感じることをお話しましょう。

戦略コンサルタントは、クライアントの大企業に対し様々な提案や実行支援をします。上は社長・役員から、下は現場の担当者まで、組織の中のあらゆる役職・立場の方と協働します。

客観的な立場で、このように様々な立場の方とコミュニケーションをとると、上記の「視座の違い」はものすごく強く感じます。視座のギャップがあるから議論がかみ合わない、部下が上司に提言する内容が刺さらない、ということも、クライアント企業において非常に多く見かけます。

このような状況なので、逆に言えば、若手の方でも、高い視座を持ったり、相手によって視座の上げ下げをコントロールできれば、非常に大きな武器になるはずです。

ちなみに、これからの時代は、企業の枠を超えて、「社会」という視点・視座で物事をみることも、ビジネスパーソンには必要になってくるでしょう。これは究極の高い視座です。政治家や官僚は、(これも個人差はありますが)基本的には「社会」という視座で物事をみています。また優れた経営者も、自社という枠を超えて、「社会をどう良くするか、どう変えるか」という視座で物事を考えています。

卑近な例ですが、松下電器創業者の松下幸之助は「水道哲学」という経営哲学をもっていました。これは「水道の水のように、良質なモノを大量に供給し、社会を豊かにしたい」という哲学で、まさに社会の視座をもった経営哲学と言えます。

SDGsのトレンドも今後本格化していく中、「高さ」という地頭を持つことは、ビジネスの世界で生きていく上で、これまで以上に重要になっていくでしょうし、意識と訓練次第で、これを高めていくことはできます。

④回転

これはシンプルなので簡単に。要は「頭の回転の速さ」です。

コンピューターに例えるとCPUの処理速度。単位時間あたりに脳みその情報処理を何回転させられるか。これが回転です。ちなみに回転が速いということは、理解力が高い、ということともほぼ同義だと思います。

この回転は、こういってしまうと身も蓋もないですが、最も後天的に強化が難しい地頭要素かもしれません。生まれつきの脳みそのスペックで、ほぼ決まるものだと思います。

ポイントは、この回転は、ほかの地頭要素に対する「レバレッジ要素」であるという点です。

例えば回転が速い人は「広さ」もスピーディーに持てます。情報処理速度が速いので、あらゆる情報や可能性を網羅的に把握することが得意です。また、回転が速い人は、「深さ」においても優位性が出せます。深さ=自問自答を繰り返す力、と定義しましたが、単位時間あたりに自問自答を何回転回せるかは、その人の頭の回転の速さに律速されるからです。頭の回転が速い人の方が「なぜ?なぜ?・・」を高速で回せるということです。

さらに、この後に説明する「発想」も、「発想=脳みそにある情報を組み合わせる力」ととらえれば、これも頭の回転が速い方が有利でしょう。

ですので、頭の回転が速いという自信がある人、もしくは他人からそう評価される人は、ほかの地頭要素を鍛える上でも優位にあるという意味でも、強く自信をもって良いと思います。一方で、頭の回転に特に自信がない方は、別の地頭要素を(頭の回転に依存しない形で)自分なりにどう鍛えたらよいか、ということを、意識する必要があるように思います。

⑤発想

これはよくつかわれる「発想力」に対応するものです。

発想力とは何か?これは色々な定義がありますし、それについて論じた書籍も様々ありますが、ここではシンプルに、「脳内の情報を組み合わせて、新しいことを提案する力」と定義します。

ここには、2つポイントがあります。

ひとつは、脳内の情報量が発想力を高める上で不可欠ということです。「あの人はどうやってこんなアイデアを出したんだ??」と不思議に感じることがあるかと思います。斬新なアイデアを出す人は必ずその背景に「大量のインプット」があります。日々いろんなニュースをウォッチしていたり、いろんな本を読んでいたり、更には「耳学問」として人づてでいろんな有益な一次情報に触れていたり。インプットのやり方は人それぞれですが、そうした「情報・知識アセット」を持っています。これを意識的に自分の中で積み上げられるかどうかが、つまり「引き出しをどれだけもつか」が、発想力を高める上でのかなりの重要度を占めます。

もうひとつは、「情報を組み合わせる力」をいかに高めるか、ということです。単一の情報だけでは「誰かが言ったことや、誰かが本に書いたことの受け売り」でしかありません。それらの単一の情報を、どうつなげたり、組み合わせたりできるか。これができてはじめて面白いアイデア、オリジナリティのあるアイデアになります。

一つ具体的な例をご紹介しましょう。

戦略コンサルタントが良く使う技法として「アナロジー思考」というものがあります。これは、「Aという業界で起きていることを、Bという業界に当てはめてみると、何か面白いことが言えるのではないか?」という発想法で、クライアントに対してビジネス仮説を提案するときなどによく使います。

この手の発想法は、コンサルタントの中でも、シニアの方が圧倒的に得意です(経験の浅い若手のコンサルタントは、基本的にいきなりはできません)。

なぜなら、
・①様々な業界でどういうトレンドがあったり、どういうビジネスが勃興しているかということを、広く熟知している(引き出しの多さ)
・②他業界で起きていることと、クライアントの所属業界における固有要素とを、うまく組み合わせて仮説を構想する(情報の組み合わせ)
の両方が相まってはじめてこの「アナロジー思考」が成立し、①、②ともに経験値がモノを言うからです。

つまり「発想」の地頭力の強化はもっとも時間を要するということです。これをまずしっかりと認識し、拙速に発想力を高めようとするのではなく、じっくり腰を据えて強化に取り組んでいくべきものです。

ですが、発想力の強化を早める努力はできます。

①質の良いインプットを浴び続け、引き出しを増やしていくこと
②情報の「組み合わせ」を意識して頭を働かせること

この2つがポイントになります(このあたりの具体的な方法論や、おすすめの本については、別の機会にご紹介したいと思います)。

まとめ:5つの地頭要素のポイント

さて、少し長くなりましたが、5つの地頭要素のポイントをまとめると以下のようになります。

①広さ
「物事を広い視野で捉える力」。物事の可能性を広く探り、関係者と合意形成する上で重要。

②深さ
「自問自答を繰り返す力」。これができるかどうかで思考の深みは大きく変わってくる。

③高さ
「高い視点や視座で物事を捉える力」。相手の視座の高さを推測し、それに合わせる形でコミュニケーションをとっていくことが重要。

④回転
「脳みその処理速度」。広さ、深さ、発想など他の地頭要素の強化のレバレッジにもなる地頭要素。

⑤発想
「情報・知識の引き出しを持ち、それらを組み合わせてオリジナルなアイデアをつくる力」。最も時間がかかるが、強化の時間を早めることはできる。

ぜひ「自身の地頭のどこが強くてどこが弱いか」を自己分析してみてください。最も強いと思う地頭要素を5ポイントとしたとき、ほかの地頭要素は何ポイントになるか?肌感覚でよいので、そうやって5角形の「地頭レーダーチャート」を描いてみると、気づきがあると思います。

全体俯瞰から分かること

このように5つの地頭要素をそれぞれ解説してきましたが、ところどころの記述からお気づきのように、

・地頭要素には後天的に強化しやすいものとしにくいものがある
・地頭要素間の相互連関がある

というのが実は大事なポイントです。

こういうことも含めた「地頭の全体的な構造」は絵にすることができます。

完結編としてこちらの記事にまとめましたので興味ある方はぜひご覧ください。

最後までご覧いただきありがとうございました!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?