見出し画像

現実が追いつけなかった理想のMac〜Power Mac G4 Cubeのデザイン〜

空中に浮かぶ立方体

画像2

Apple

Power Mac G4 Cubeは、幾何学的な形をそのままデバイスの形状として使用した非常にミニマルな形状です。
地球上の物体は重力の影響で落下してしまうので、その影響を受けず空中に浮遊する様は、近未来的な印象を与えると同時に、概念的な存在であるかのような印象を与えます。

デスクトップ型のMacをどうデザインするかという点を考えてみましょう。
ユーザーにとっては、ディスプレイから独立した本体としてのMacが存在している必要性にとぼしいため、それにどのような姿を与えるかは非常に難しい問題となります。

G4 Cubeは、ハンドルを使って丸ごと中身を取り出せるメンテナンス性、圧倒的な美しさを見せる筐体によって、自身の存在を正当化しているといえます。

透明素材の用いられ方

Appleは透明な素材を「無」を表現するものとして捉えている場合があり、Steve Jobs Theaterのコンセプト画像でも、側面のガラス製の壁はあたかも存在しないかのように描かれていました。

画像1

https://www.gizmodo.jp/2018/08/apple-kyoto-boardroom.html


G4 Cubeにおける透明なケースの扱いはこれと類似するものといえます。

角氷

もっとも、透明な素材は目に見えないわけではなく、光の反射によってはむしろ独特の存在感を放ちます。
G4 Cubeにおいてもそのことは十分意識されています。

「Cube」は立方体だけでなく、立方体の形をしたさまざまなものを指す言葉としても使われて、その一つとして、「角氷」を指す言葉としても使われます。

G4 Cubeの表面をおおう透明のケースはあたかも氷の塊であるかのようにも見え、「Cube」という名称は内側の立方体を指すだけでなく、外側の透明なケースをも指したダブル・ミーニングであることがわかります。

このような外装を用意したのは、G4 Cubeの冷却機能と関係しています。

G4 Cubeは内部にファンをもたず、温度差で筐体内部を空気が流れるのを利用して冷却する仕組みでした。

画像3

Apple

筐体の底面が地面に接着していると、空気の流れを邪魔するので、このように筐体を宙に浮かせた設計になっています。
透明のケースは背面側の下部に切り欠きがあり、空気を取り込めるようになっています。

この仕組みを実現するために、たとえば筐体に脚をつけるという方法も考えられるところですが、シンプルさと美しさの観点からすれば、G4 Cubeのデザインの方が上と言えるでしょう。

理屈は完璧だが現実が追いつかなかった

画像4

Apple

このように、内部設計と外装デザインが完全に統合された素晴らしい製品でした。セットで使うことを想定したディスプレイにも統一感のあるデザインが採用されており、非常に美しいものでした(ただしもともとはG4用のようですが)。

しかしながら、実際は冷却機構が十分に機能せず、実用性に欠ける製品となっていました。理屈の上では完璧なのに、現実がそれに追いついていなかったといえます。

氷を連想させる名前のデバイスが熱問題を抱えていたというのは皮肉な話です。


いただいたサポートは、研究用の書籍の購入、手元にない過去の製品の購入などにあて、よりよい記事の提供を目指します。