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AirPods Maxのことを考えすぎて「鵺」にしか見えなくなってきた話/1万字で語るAirPods Max

頭は猿で、胴体は狸、手足が虎と説明できます。
じゃあ全体像は何なの?

それが鵺。それがAirPods Max。

「Max」という名称の意味

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AirPods Maxのデザインについて考える前に、まず名前についてみておきましょう。

もう忘れている方も多いでそうが、この製品は当初「AirPods Studio」という名前になると噂されていました。
この噂が全くのデタラメとは考えにくいので、Apple内部では、「Studio」という名前も検討されていたのではないかと考えられます。

「Studio」という名前から推測できるのは、スタジオで音を聴く必要のある人に向けられた製品であろうということです。音楽制作や映像制作などに従事しているプロフェッショナルに向けられた製品です。スタジオヘッドホンといったり、モニターヘッドホンといったりもするようです。

これなら「Pro」という名前を使いたいところですが、すでにAirPods Proという名前を使ってしまっています。
もとより、Appleは「Pro」という言葉を「上位」という程度の意味で使うことも多いので、プロフェッショナルに向けられていることを伝える言葉ではなくなっています。

余談ですが、「Studio」という名前は、AirPods Max登場の前にHUAWEIが製品の名称に採用してしまいました。「FreeBuds Studio」です。
「FreeBuds Studio」はAirPods Studioという名前がリークされてから発売された製品で、リーク情報を見て名付けたのは誰の目にも明らかでした。

しかし、HUAWEIに先に使われた程度のことでAppleが名前を変えるわけもないでしょうから、名称変更には別の理由がありそうです。

実際に登場した製品を見ると、最初に目につくのは、多色展開であるということです。
しかも新型iPad Airのような鮮やかなカラーラインナップです。

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Apple/作成:appleinsider

iPad Airは、iPad Proよりも一般的な層を狙った製品でした。Proユーザーを想定したiPad Proの場合、カラーはシルバーとグレーの2色だけで地味です。
鮮やかなカラーリングの製品の場合、Proモデルよりも一般ユーザーに向けられた製品であることが多いようです。

AirPods Maxも同様に一般ユーザーを想定しているのではないかと推測できます。その場合、「Studio」という名称にしてしまうと、製品が想定するターゲットとは整合しません。

製品紹介を見ても、街中で使っていたり、家の中でリラックスしながら使っている様子を取り上げています。音楽制作や映像制作の場で利用されている様子はありません。

発表を見る限り、どこにも「Studio」と名づけるべき要素は見受けられません。

ひとつ気になる点があるとすれば価格です。
税込み6万7980円という価格は、エントリークラスのAirPodsの何倍にもなる価格ですから、明らかに高額です。
iPad Airの本体価格と同等という事実に照らしても、AirPods Maxはやはり高額な印象があります。

もちろん、Appleの価格設定が他の会社の製品よりも高めなのは誰でも知っていることではあります。
しかも、HomePod miniとApple Watchのバンド1本の値段が同じだったりしますから、Appleの製品間での比較にすら意味はないのかもしれません。

しかし、7万円弱という値段が、一般的なユーザーにとって購入を躊躇う要素にならないかというと、そんなことはないはずです。
一般ユーザー向けの製品とするには無理のある価格設定に思えます。
このことからすると、元々は、プロユーザーをターゲットにしていた可能性はあります。それが「Studio」という情報の由来なのではないかと。

そうすると、もともとプロ向けだった可能性はあるものの、どこかの段階では、一般ユーザーを対象としたカラーラインナップや宣伝方法を用いることになった、と考えられそうです。

もちろん、MaxはProよりも上位なのかという疑問は残りますが、サイズ的にはMaxは的確ですから、製品ラインナップをわかりやすくする上でも、製品の特徴としても、適切ということになりそうです。

ターゲットは誰か

一般ユーザーを対象とする製品とは言いましたが、「Max」という名前はあくまで最大であるということを意味するにすぎません。一般向けかプロフェッショナル向けかということを区別していません。

AirPods MaxはAppleによれば「パーソナルなサウンド体験の究極の形」を体現した製品であるとされています。
「サウンド体験」というややぼかした表現なのは、音質だけでなく、デバイスの装着感、操作の快適さ等、音を聴く時のトータルの体験を指しているからしょう。

これが「究極の音質」とかだと、ちょっと怪しくなってきます。音質における究極ってなんなんだということになりますし、仮に最も音質が良いということであれば、それは本当かという話になります。
音質に絞ってしまうと、他にも音質の高いヘッドホンを作っているメーカーがたくさんありますから、そこと正面から勝負しなければならなくなります。仮になんらかの評価基準で業界1位の音質を作ったのだとしても、数ヶ月後には他社の新製品に音質で抜かれるかもしれません。

音質だけじゃなくて、使ってる時のトータルの体験が一番なんですよ、としておけば、どれかの項目で1番ではなくとも問題はないのです。ほかのApple製品も似たようなものです。iPhoneはカメラの品質は1番とは言い切れないかも知れませんが、トータルの体験となるとやっぱりiPhoneから乗り換える気にならないというユーザーはたくさんいるはずです。

スペックシート上で1番であることをブランドの価値にしてしまうと、外的要因でブランドの価値が変動してしまいますから、あまり得策ではありません。

もちろん、だからといってAirPods Maxの音質が弱いかというと、そんなことはありません。高音質アピールもしています。

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正確に言うと、AirPods Maxは原音に忠実なサウンドをうたっています。
私はヘッドホンの音質には詳しくありませんから深入りはしませんが、原音に忠実という場合、高音と低音がしっかりと再現されていること、高音や低音に誇張がないこと等が問題になるようです。

これは結局のところ、音楽制作の場面で利用されるモニターヘッドホンなどと同じ方向性ではないかと感じます(実際に聞いた感じはだいぶ違うようですが)。

コンシューマー向けのヘッドホンでは、低音が強調されるなどの味付けがされていることが通常です。
音楽制作の場面では、こうした味付けありきのヘッドホンで聴いた際にも音がおかしくならないように、味付けのないヘッドホンを使う必要があります。

他社のヘッドホンとAirPods Maxの比較は、ネットで検索すればいくらでも出てきます。
ただ、発売当初の比較記事を見る限り、AirPods Maxの方がいいと言っているユーザーはあまりいない印象です。
AirPods Maxが明らかに劣っているというユーザーはいませんが、どちらかを選ぶなら他社製品となるユーザーが多いようです。

その理由は、AirPods Maxの原音に忠実なサウンドにあるのではないかと思います。
お気に入りの味付けがあるユーザーからすれば、AirPods Maxは味付けがない分、物足りなく感じるはずです。

私自身は低音が強調された音が好みですが、作者の意図を重視するなら、原音に忠実であることの方が重要であるはずです。

Appleからしてみれば、イヤホンやヘッドホンの行き着く先は、原音に忠実なサウンドとならざると得ないのでしょう。

原音に忠実なサウンドを目指す限り、モニターヘッドホンもコンシューマー向けのヘッドホンも同じところに帰結するはずです。
そうすると、Studioという名前でターゲットを限定するよりは、ターゲットを広くとったMaxの方が製品を的確にあらわっしていると言えそうです。
これが「Studio」ではなく「Max」になった理由の一つでしょう。

AirPods Maxは一般ユーザー向けというよりも、一般ユーザーとプロユーザーの両方をターゲットにした製品だったということになります。

PRのレベルでは一般ユーザーに向けたアピールをしているというだけに過ぎません。

AirPods Maxのシルエット

名前とコンセプトの話が長くなりましたが、そろそろ外観の話をしたいと思います。

もともと、AirPodsシリーズは、万人の耳にフィットする形状をウリにしてきました。
無印AirPodsが耳に合わないという人はそれなりにいたようですが,目標としては万人の耳にフィットすることを狙っており、ある程度成功しました。

その後登場したAirPods Proはイヤーチップを交換することで、フィット感を調整できるようになりました。

AirPods Maxもこの延長線上にあります。もっとも、耳の中に入れるものではないので、万人の頭にフィットすることを目指したデザインです。

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注目すべきは、これまでのAirPodsシリーズと異なり、基本的な形状は一見すると他社のヘッドホンと大差がないという点でしょうか。

無印AirPodsは特異な有機的形状でしたし、AirPods Proもカナル型に分類できるものの独自のジャンルを形成していると見ることができ、全体のシルエットも特異な形状でした(競合他社が同じ傾向のデザインを採用するので、特異性を感じにくくなっているかもしれませんが)。

一方、左右のイヤーカップとそれをつなぎとめて頭頂部で支えるヘッドバンド(キャノピー)からなるAirPods Maxのデザインは、ヘッドホンのお約束ともいうべき形状です。

イヤーカップを耳の位置に保持することを考えると、頭頂部から吊り下げるような構造にならざるを得ないのでしょう。頭頂部で吊らない場合、耳を左右から押さえつけるような構造にならざるを得ません。

イヤーカップという構造を採用する限りは、この構造は変えられないのかもしれません。

堅牢性はAppleらしいチョイス

もっとも、さすがはアップルというべきか、一般的なヘッドホンとは構造的に大きく異なる点があります。
それはAirPods Maxには、ぐらつく部分が存在しないという点です。

多くのヘッドホンは、頭の形や耳の位置に沿わせやすいように、ヘッドバンドとイヤーカップの接続部分が柔軟に動くようになっています。
その結果として、イヤーカップがぐらついてしまうわけです。
折り畳み可能なヘッドホンも可動部分で部品が分離しますから、強固ではありません。

AirPods Maxの場合、一見すると、イヤーカップの接続部分は細く頼りなく見えますが、実際は非常に堅牢です。イヤーカップは柔軟に動くように設計されていながら、決してぐらつくことはありません。
他の部分も同様で、ヘッドバンドはしなやかに曲がりますが、手を離せば基本形状に戻ります。
見た目とは裏腹に非常にしっかりした作りです。

もちろん、そのせいで製品が重くなっているのだとか、折り畳めないからかさ張るんだと言われそうです。実際どこかのレビューではそういう話もあった気がします。

しかし、この頑丈さこそがAppleの魅力です。

Appleの製品は細部までコントロールされていますが、そのコントロールはデバイスの頑丈さにも及んでいるのです。
作りが悪い製品は、ユーザーが手に取ったときに製品がたわんだりします。これが使用感に影響し、ユーザーを不快にするわけです。

軽くて折りたためればそれでいいんだという人がいるのは事実ですが、その辺を捨てて堅牢性を取るところがAppleらしい部分だと思いますし、好きなポイントです。

ディテールにAppleらしさが詰まっている

他社製品と外観に大きな差がないと書きましたが、それは一見した時の話で、ディテールを見ていくと、非常にAppleらしい製品です。

ただ、あまりにもAppleらしい要素が詰め混まれていて、ややコラージュのような雰囲気が出てしまっている気もします。

まず目につくのが、デジタル・クラウンです。これはApple Watchから引用されたものです。
イヤーパッドのメッシュ構造は、HomePodの外装に似ています。
ヘッドバンドを包んでいる素材は、直近ではMagSafeデュアル充電パッドやAirTag用のループに用いられている素材(ポリウレタンのようです)と同種でしょう。
左側のイヤーカップの底部にはiPhone 6などで目立っていたアンテナラインが存在しています。
イヤーカップとヘッドバンドを繋いでいるステンレススチール製の軸は、近年の製品でいえば、Mac Proのハンドルを思わせる形状です。もっと遡るとiMac G4を思い出す人が多いようです。可動部分の強度を高めるために、ステンレススチールが使われています。

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このように、AirPods Maxを構成する種々の要素は、既存のAppleデバイスのデザインで使用されている要素と共通しています。

Apple製品に用いられてきた優れた素材や設計をAirPods Maxでも利用しているわけです。

AirPods Maxならではのデザイン

AirPods Maxは、離れすぎると普通のヘッドホンに見えますし、近づきすぎると既存のApple製品のコラージュに見えてきます。

そこで、中間くらいの視点から、AirPods Maxに特有のデザインについて見てみたいと思います。

ここで、一般的なヘッドホンというものを思い浮かべて欲しいのですが、アームの伸びた先がイヤーカップに直接つながらず、可動のためにワンクッションあるのが、古典的なヘッドホンの特徴です。

いらすとやで公開されているヘッドホンのイラストがまさにそれです。

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誰にでもわかるヘッドホンの典型的な形状はこれです。

一方、AirPods Maxはアームの伸びた先が直にイヤーカップに繋がっています。
イヤーカップの可動域を確保した上で、要素を減らすことに成功しているのが優れた部分であり、特有のデザインです。

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特有のデザインはこれだけではありません。

AirPods Maxの場合、イヤーカップ部分は、球体を平たく潰して、縦に引き伸ばしたような形状です。2つ以上の要素を足して作った形ではありません。

このデザインは、あまりにも要素が少ないため、普通は物足りなく見えたり、安っぽく見えます。しかし高い加工精度と全体に行き渡ったシンプルさのおかげか、物足りない感じはありません。

ただし一部では、Appleロゴを配置してほしいという声もありました。確かにMacBookには中央にAppleロゴが載っていますから、もっともな話のような気もします。
Applegこれを採用しなかったのは、左右対称にするためには左右のイヤーカップにロゴを乗せる必要があるが、ロゴが2つあるのはおかしいという問題があったからでしょう。ただし、イヤーカップの内側を見ると左右にAppleロゴがあります。

話を戻します。
他社がなぜシンプルなイヤーカップを採用しないかというと、単なる見た目の問題以外に、通常の製造方法ではこの設計で作るのが困難だからという理由があるからです。

イヤーカップは、内部にさまざまな部品を組み込むための箱としても機能しています。ふたの役割をになっているのが、イヤークッションなどの部品です。
このふたを取り付けるための出っ張りを設けつつ、内部に部品を入れられるような構造を1つのパーツで作ろうとすると、大きなかたまりの内部をくりぬいて空洞にするよりありません。
プレスや鋳造では、このような複雑な構造を形作ることはできません。

AirPods Maxのイヤーカップを側面から見ると、口のすぼまった壷のようなかたちをしていることがわかります。このような構造は、材料となるアルミニウムの塊を削り出して作っているからこそできる形状です。

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これを安く作ろうと思えば、すぼまった部分と、そうでない部分を別の部品として製造し、最後にくっつけることになります。当然、それらの部品をくっつけるための構造が必要になります。
この設計が外観に余分な要素を生み、内部パーツを圧迫する場合もあります。

この製造方法自体はAppleの定番ではありますが、具体的な形状のレベルでは特有の要素があると言えます。

AirPods Maxのケース

最後に、ケースについて見ておきましょう。

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AirPodsシリーズの特徴として、純正のケースがついてくるという点を挙げることができます。

AirPodsとAirPods Proでは、ケース内にバッテリーが搭載されていて、ケースに入れている間に、AirPods本体を充電することができます。
ケースは本体と同じくプラスチック製で、小さなAirPods本体をなくさずに保管する役割も担っています。

AirPods Maxの場合、ケースにバッテリーは搭載されていません。
AirPods Maxは本体だけで20時間使用できるため、こまめな充電が不要であることや、本体が大きいためケースは小さくしたいことがケースの設計に影響しているようです。

ケース側にバッテリーがない代わりに、ケースに入れると、AirPods Maxが低電力モードに移行し、バッテリーの消耗を防ぐことができます。

ケースの表面はポリウレタンと思われます。本体と接触する裏面はスエードのような柔らかい手触りの素材で覆われています。

1枚のシートを切り出して組み立てることで作られているというシンプルさも見逃せません。構造的にはケースというより包装といった方が適切な気もします。


ただ、このケースはとにかく不評です。

見た目がブラに似ているとか、ケースなのにヘッドバンド部分が収納できないとか、ケースに入れてもコンパクトじゃないとか、いろいろ言われました。

こうした不満は、ユーザーのケースに対する期待と製品の目指す方向性のズレに起因するもの思われます。

不満を述べているユーザーがケースに期待しているのは、製品全体を覆うための「箱」としての役割です。
しかし、Appleはそうしたものは不要だと考えています。

この辺りの思想の違いがわかるとケースの位置付けが見えてきます。

たしかに、ユーザーはiPhoneに全体を覆うケースを装着したがりますし、Apple Watchにすらケースをつけようとします。
何にでも保護ケースをつけたがります。
それにApple製品は高価で修理費用も高くつきますから、傷がつくと嫌だと思っているユーザーは多いでしょう。機種変更の際に下取り価格を挙げるために傷をつけないように気をつけているユーザーもいるようです。
そういう意味で、全体を覆うケースを求める気持ちもわからないではありません。

しかし、Appleの考えは全く逆です。

基本的にケースはつけません。そのまま使えばいいと考えています。
傷がつくということについては、全く気にしません。道具なんだから、使っていれば傷んで当然と考えているわけです。
そもそもケースはデザインとしては後付けの要素に過ぎない場合が多いのです。

無印AirPodsやAirPods Proにはしっかりしたケースがついていますが、これは小さすぎる本体を保管するための例外的なものです。

もちろん、Apple自身もiPhone用のケースを販売したりしています。
確かにそのとおりですが、古くはiPhone 5Cのケースに見られるように、単なる保護のためのカバー以上の物としてデザインしていたりします。iPhone 5Cはケースに開けられたドット上の切り欠きから本体の色が見えるので、ケースと本体のコーディネートを楽しめるようになっていました。

ケースに需要があるから作っているという側面もあるものと思いますが、それだけの理由で作ってはAppleの名がすたるというものです。
ファッション性であったり、量産品における革製品の加工技術の限界に挑んでみたりと、単なるケースの一歩先を意識した製品を作ってきました。
iPhone 12のケースも同様で、iPhone本体とケース、レザーウォレットの組み合わせを楽しむことを想定してデザインしているようです。

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ベースはあくまでケース不要論なのです。

AirPods Maxの場合もスリープ機能との兼ね合いや、以下で見るような限定的な保護機能のためにケースを用意しているものの、最小限のものにとどめたいという狙いがあるものと思われます。

Appleのデザイナーがインタビューを受けた際は下のようなコメントをしています。

「今日、ほとんどのヘッドホンには大きくて取り扱いに困るケースが付属しています。でも我々は旅が多いので、カバンへの収まりがいかに大事かよく把握しているつもりです。だから、極めて収納効率の良いケースをつくろうと思いました。(中略)ヘッドバンドは露出したままの状態ですが、そもそも丈夫につくっているから覆う必要はないだろうという判断です。」
https://casabrutus.com/design/167958/2

ヘッドバンド部分に使われているメッシュ部分が本当に丈夫なのか疑問のあるところではありますが、ヘッドバンドまで覆う構造にするとフットプリントが大きくなりすぎるため、全体を覆うケースは適切ではないように思います。
だからこそ、ヘッドバンド部分が折りたためるようにしてほしいという意見が出るわけですが、ここで妥協して頑丈さを損なってはApple製品の名折れになります。

話を戻しましょう。

インタビュー記事からすると、ヘッドバンドは丈夫だが、それ以外の部分に丈夫でない部分があるということになります。

これはおそらく、イヤーカップが可動域を超えて回転した場合に破損すること等を指しているのだと思われます。

AirPods Maxのイヤーカップは、耳へのフィット感を調整するために軸回転しますが、可動域はそれほど広くありません。
いくら頑丈と言っても、無理な力がかかると壊れやすい部分ではあると思われます。
その点、ケースはイヤーカップをガッチリ固定するようになっているので、カバンに入れている間に変な角度に回転してしまうことを防いでいます。

細かい話をすると、そもそもこのイヤーカップの回転角度の制限によって、ケース収納時のAirPods Maxの向きを固定しているので、イヤーカップの可動域制限はケースの存在に起因するものとも言えます。その意味ではマッチポンプのような感じもします。

ただ、いずれにしても、イヤーカップは構造上、回転角度に限界がありますから、ケースには意味があります。

他にも、このケースは細かい点にも配慮してあります。
AirPods Maxをケースに収納する際には、イヤーカップを装着時から90度回転させて、イヤーカップ同士が水平に並んだ状態にしますが、この状態ではイヤーカップ同士がぶつかりやすく、ぶつかると嫌な音がします。
これを回避するために、左右のイヤーカップを独立させて保護するようになっています。

ケースの機能としてはそれほど目立ったものではないのですが、その前提としての機能の取捨選択が尖り過ぎていて、拒否反応が出たといった感じでしょうか。

つまり?

ここまでお付き合いいただきましたが、AirPods Maxのデザインは、分かるようで分からないです。

AirPods Maxは個別の要素に着目すると分かるのですが、全体像を見るとよく分からないわけです。
頭は猿で、胴体は狸、手足が虎と説明できます。
じゃあ全体像は?となると、もう鵺ですという他ないのです。
その鵺という名前自体、鳥の名前だったりするようです。
少し前ではコラージュとも書きましたが、同じ話ですね。

もちろん、最高の音楽体験という観点から作られているという説明は可能です。一見バラバラに見えるディテールも、頭に触れる部分は柔らかい素材で、それ以外の部分は強度を確保しているという説明ができます。

ただ、なんというか収まりが悪いんですね。
これがAirPods Maxが初期プロダクトであるがゆえのものなのか、それとも、まだ見えていない軸があるのか、正直まだ分かりません。

果たしてこの製品に次世代製品があるのか分かりませんが、数年後に次世代機が登場した暁には、鵺の正体が見えてくるかもしれません。


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