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Appleの「シンプルさ」は3つもあるイヤーチップでも守られているのかを考える

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AirPods Proはイヤーチップが3種類ついてきます。これはシンプルと言えるのかというのが、発表当時からの疑問でした。AirPodsではイヤーチップ交換なしの1種類の形を実現していたわけですから、イヤーチップが選べるというのは、半面で要素の増加であり、シンプルさでいえば後退しているのではないかと思えるわけです。

今日はそれを考えてみようという記事です(実に細かくてどうでもいい話です笑)。


1つでできることを2つでやっていないか

シンプルといえるかについては、例えば1つの部品で実現できることを複数の部品で実現していないかを検討するのが有益です。この規範は元Appleデザイナーのジョナサン・アイブの発言に基づいています。

このような観点からAirPods Proのイヤーチップを考えてみましょう。
AirPods ProはAirPodsをデザインした時以上の数の耳の形をスキャンしてデータを集め、それに基づいて万人の耳の形に合うイヤホン形状を実現しているとされています。とはいえ、AirPods Proはカナル型であり、耳の穴にイヤーチップを入れて装着しますから、どうしても耳の穴の大きさに合う合わないの問題は生じます。

カナル型の設計は、AirPods Proのノイズキャンセリング機能を実現する上でおそらく不可欠でしょう。他社でインナーイヤー型ながらノイズキャンセリングを実現したイヤホンがあった気がしますが、1度出たきりで後継機は出ていなかったと思います。

そうすると、現状ではイヤーチップのサイズは複数用意せざるを得ないということになります。

3種のイヤーチップを1つにすることはできない以上、交換用イヤーピースが付属するのは仕方ない、で終わってしまうと面白くないですね。

実はAppleはこのイヤーチップについてちょっとした工夫をしています。この工夫を考えるにあたって、Appleの過去製品を振り返る必要があります。


かつてのカナル型イヤホン

お忘れの方も多いと思いますが、Appleは2008年にもカナル型のイヤホンを発売していました。Apple In-Ear Headphonesです。この製品もイヤーチップの交換が可能で、AirPods Proと同様にイヤーチップが大中小と選べました。

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そして、付属のイヤーチップを入れるためのピルのような形のケースが付属していました。使い勝手もよく、よくできたケースだと思います。

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しかし、これだけきちんとしたケースを用意してしまうと、これ自体が独立した製品になってしまいます。


AirPods Proの工夫

ではAirPods Proではどうしたかというと、交換用イヤーチップに専用のケースは用意せず、その他の付属品と一緒にしました。

紙でできた簡易なケースにイヤーチップをセットしたものを用意して、パンフレットやケーブル類と一体のものとして、製品パッケージに収めたわけです。

Apple In-Ear Headphonesをではイヤホンとパッケージ、そしてイヤーチップケースの3つで構成されています(ここではイヤホンのケースについてはイヤホンと一体としておきます。)。

一方、AirPods Proではイヤホンとパッケージの2つで構成されているといえます。交換用のイヤーチップはパケージと一体化しているので、独立したカウントを受けないというわけです。

要素の数え方というのは、物理的な構造だけでなく、外観や機能面から総合的に判断されるものです。本当に1つといえるのは、金の延べ棒のように単一素材からなる物体だけでしょう。もっと言えば、これでさえ、分子の集合体ですから必ずしも1個とはいえないでしょう。

このように個数というのは認識の問題に過ぎないので、パッケージングの方法を工夫することで、シンプルにすることができます。

非常に細かい話ですし、実質的な個数は変わっていないではないかという意見もあるでしょう。
それはそのとおりだと思います。

とはいえ前提として、前述のとおりイヤーチップが3つあっても十分シンプルだという考えがあって、最後のひと押しとして、こうした工夫をしているに過ぎないということには注意してください。

というわけで、非常に細かいお話でした。

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