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#ネタバレ 映画「君を想い、バスに乗る」 主人公・夫婦は「ウクライナ」の記号

「君を想い、バスに乗る」
2021年製作 86分 イギリス
2022.6.9

( 引用している他の作品も含め、私の映画レビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。) 

観ている途中で「何とストレイトなお話だ」と思いましたら、デビッド・リンチ監督の映画「ストレイト・ストーリー」を思い出しました。あれと肩を並べるような良作ではありませんか。

しかも、ワイドスクリーン。

そして、途中で両目から涙があふれてきました。マスクがハンカチ代わりになって助かりましたが。

あとで何の涙か考えましたが、① 映画の表層は、高齢者が主人公なので感情移入できたこと。

② 中層は、(2021年製作なのに)ウクライナへの鎮魂と応援歌になっていること。

③ 深層は、ウサギが記号として出てきたので、黒澤監督の映画「生きる」を連想出来ること。

この3つの波状攻撃でやられたのだと思いました。

ウクライナ国旗を知っている方は、ぜひご覧いただきたい佳作です。

だまし絵になった国旗探しをしてみて下さい。

★★★★☆

追記 2022.6.9 ( お借りした画像は )

キーワード「ウクライナ」で検索したらご縁がありました。美しい色ですね。そのままでも良かったのですが、倍率を最大にしてみました。ありがとうございました。

追記Ⅱ 2022.6.10 ( ①②③をもう少し詳しく )

① 「岬めぐり」(1974年)というフォークソングがあります。失恋した青年が、二人で行く約束をしていた岬に、一人旅をする歌です。

私はこの歌を聴くと泣けてしかたないのですが、映画「君を想い、バスに乗る」は、亡くなった妻との想い出の地を巡り、一歳で亡くなった愛娘の墓参りもする、ガンで余命数カ月の夫(90歳のトム)の物語なのです。

旅の途中、老いたトムは善行をしたり、迫害されたりします。その様子を居合わせた者たちがスマホの動画で世界に発信し、後半には、トムが知らぬうちに、皆が協力したがる有名人になっていったのです。

② 旅には色々な出会いがあります。唐突にウクライナ人も出てきて、道路で途方に暮れているトムをクルマに乗せ、(これがウクライナ精神だと)自宅のパーティーに招いて歓待するのです。

ここで「?」と思いましたが、トムが最終目的地「ランズエンド」という岬に着いた時、大切に持っていたカバンから取り出したのは、黄色い布に包まれた青い缶であり、中に入っていた妻の遺灰を海にまいたのです。海洋散骨ですね。

その後に出て来る、夫婦の若い頃の回想場面では、妻は黄色い服、夫は青いジャケットを着て、寄り添っていました。

そして、老いたトムが旅に出るバス停のドアは、半分が黄色で、半分が青だったのです(チラシの裏面にもあります)。

唐突に、志願兵になろうとする青年と会話するエピソードがありました。トムにも戦争経験がありましたが、担架で救助するのを主な任務にして、敵兵を撃ったことは無いようでした。奉仕者ですね。トムは青年に恋人はいるのかと尋ねました。その言葉で、青年は志願兵になることを思いとどまったようです。

前述したように、旅の様子は、随時、目撃者がスマホの動画で撮影し、アップしていました。世界はこの老人の行動を目撃し、応援をしたのです。

この構図は、ウクライナとロシアの戦争がTV放送され、世界の多数がウクライナの味方になっている事を連想させました。2021年製作ですから、実際はこの戦争とは関係ないのかもしれませんが、無知な私にはこれ以外連想できないのです。

③ トムが旅に倒れた時でしたか、入院した病院の前にウサギの銅像みたいなものがアップになりました。

ウサギと言えば映画「生きる」だと思ったので、周辺を注視すると、トムもガンで余命いくばくもありません。

その短い期間に、女性(妻)との想いを叶えようと走り回るのです。

協力者や抵抗勢力もありました。

眼力のある顔は志村喬をイメージして配役したのではと、思わせました。

トムは老いた病人であるにもかかわらず、バスや自動車がエンジントラブルを起こした時、自ら願い出て、修理をしたり、力で押したりしました。

カバンを盗まれそうになった時は、怒る住民を制止し、犯人を警察に引き渡すのではなく、金をめぐんで解放してやりました。厳格ではなく適正もできる人物のようです。

チラシを観るとトムの脇に羊がいます。トムは羊飼いの記号でもあるようです。この場合の羊はトムと関わった人たち(住民)の記号でしょう。羊飼いは羊のリーダーであると同時に、羊への奉仕者であるのかもしれません。それらの事を総合して考えると、トムは映画「生きる」の市民課長のようにも見えてきたのです。

意を決したトムが、老いの中、命を削って慈悲深い行動をしたとき、目撃者は感動して思いを一つにしたのです。彼の前に道を開けたのです。

目的地「ランズエンド」には、そんなファンが大勢待っていました。

トムは無名の老いぼれではなく、いつのまにかイエス様になっていたようです。



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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