自己効力感の本質と高め方
こんにちは。青砥瑞人です。
今日は、2022年に出された、下記の論文を読んでいて、自己効力感と脳との関係性を考えてみたくなったので、ノートさせていただきます。
自己効力感とは?
自己効力感という言葉自体、小難しい感じがしますが、簡単に定義すると、あるゴールや目標に対して、それを成し遂げられる、達成できるという予期を伴う感情です。
よく一般的に、自己効力感は認知であり感情ではないとおっしゃる専門家の方がいますが、それは違います。どんなに自分はできるんだ、と認識しようと、それに伴ってワクワクしたり、やれそうだという感情が芽生えない限り、その行動の後押しにはなりません。
よって、自己効力感を正確に理解するためには、以下の二つのシステムをまず認識することが重要でしょう。脳のシステムからもどちらも異なるシステムを活用しており、どちらも重要です。
<認知面>これまでの経験から、脳が自分ならうまくいくという予測を立てている状態
<感情面>予測に伴い、行動を後押しするような感情が芽生えているような状態
一般的な自己効力感解釈の問題点
実際の行動に大きく作用するのは、上記2の感情作用なのですが、多くの場合、1の認知的な側面ばかりが語られます。どんなに頭でっかちに認識だけを変えても、感情に作用させなければ、行動は変わりません。「分かっちゃいるけど、、、」状態になってしまいます。
そしてこの感情面が、奥深く、逆にいうと脳の文脈でも複雑性もあり、ようやくその仕組みが分かってきたということでもあります。また改めてご紹介したいと思いますが、一つキーワードになるのは、ドーパミンです。
ドーパミンは、Reward Prediction Error(RPE)というシグナルに強く反応することが知られています。脳の中でError、すなわち差分を生み出すことで、報酬の可能性に対して向かわせる、Goal-Oriented(ゴール指向性)な行動を生み出してくれるのです。
難しいことはさておき、大切なのは、自分はできるという認識を持つことに加えて、それによって、心が、脳が本当に、そう感じて、ワクワクしたりやる気になったり、モチベーションが高まっているような状態を、自分の内側に引き出すことが重要なのです。
自己肯定感との違い
よく自己肯定感と自己効力感の違いも引き合いに出されます。場合によっては、前者が感情で後者が認知というような説明がされますが、そんなことはありません。どちらも認知も感情も伴った現象として捉える方が正確でしょう。
何が違うのでしょうか?神経科学の世界を通して考えてみると、まずゴール指向性の有無が影響します。自己効力感は、何かに向かって、できそうかできなそうかのジャッジメントにおいての反応です。よって、自己効力感というのは、ゴール指向性における反応と言えます。
一方の自己肯定感というのは、ゴール指向性ではありません。何かに向かっているのではなく、自分という存在に注意のベクトルが向いており、自分という存在に対する認識、それに対する感情の反応が、自己肯定感を引き出す仕組みです。
自己に関する様々な情報、すなわち記憶を、個別に視るのではなく、俯瞰的に全体的に脳が観て、それに伴って引き出される感情が、自己肯定感にもなるし、自己否定感にもなるのです。決して分析的な処理をしているのではなく、基本的に丸っと自己の存在を脳が認知し感じている状態です。
さて、自己肯定感も深めようと思ったら、それだけでもずーっと語ってしまうので、またの機会に譲り、今回は、まず自己効力感との違いとして、ゴール指向性、何かに対して向かっているか、自分に向いているのか、まず大きな脳処理の違いがありますよ、ということをご紹介させていただきました。
自己効力感を高めるために〜記憶をつくるという盲点
自己効力感を高める、自己肯定感を高める、いずれにしても重要なのは、そのための記憶をつくることです。当たり前のようで、なかなか語られないですし、強調されることもありません。
なぜ記憶をつくることが重要なのか?それは先ほどの自己効力感の認知面において、自己のこれまでの経験から、脳が自分ができるか否かの予測を立てることから自己効力感は始まるからです。そして、その予測の材料は、自分の脳の中にある情報、すなわち記憶でしかないからです。たとえ誰かに何かを言われていたとしても、その情報を受けて、脳にシグナルし、その脳にある情報をもとに脳が処理するので、やはり記憶です(この場合、ワーキングメモリを活用していると言われます)。
そして、それをまさに裏付けるようなことを示してくれているのが、冒頭でご紹介した、2022年の論文なのです。自己効力感が発揮されているような状態では、脳のデフォルトモードネットワークというのがよく働き、その効力感を導いているということが示されています。
そして、このデフォルトモードネットワークは、記憶との関係性が強いネットワークなのです。自分が持ち合わせている、強い記憶の影響を受けるネットワークなのです。ポイントは、「強い記憶」です。弱くちゃ十分でないのです。
このデフォルトモードネットワークは、無意識に近い形で働くネットワークなのです。一方で、意識的に司令塔的に働くセントラルエグゼクティブネットワークというのもありますが、自己効力感は、意識的というより無意識的ということです。
なので、自己効力感は、「自分はできる自分はできる」と意識しているような状態ではなく、そんな意識せずとも出ちゃっているような状態が本質的な自己効力感なのです。
しかし、「自分はできる、自分はできる」という意識をすることがダメというわけではありません。そのような、意識的な取り組みを続け継続する中で、初めて強い記憶が作られていき、デフォルトモードネットワークによって処理されるようになるのです。
Apple「りんご」という英単語一つ覚えるのにも、最初は意識して、何回も書いて読み上げて、自分のものになり、今は意識しなくても、無意識的にAppleはりんごと脳が処理してくれるはず。その仕組みとほとんど一緒なのです。
自分はできる、そう言える記憶を、英単語を覚えるのと同じくらい真剣に向き合い、記憶に持っていますか?それが問題なのです。
年に1回の振り返りくらいでは、当然強い記憶にはなり得ません。日々繰り返し、意識し、自分ならきっとできる、そう思わせる記憶を日々意識して育んでいく、そうする中で、無意識に近い形で、自分はできるという脳反応を自然と脳が導き、それがVTAという脳部位にシグナルし、報酬可能性として反応させ、ドーパミンを合成し、我々の行動を後押ししてくれるようになるのです。
自己効力感を高める4つのポイント
1. 強い「自己効力感記憶」を作る意識
すでに繰り返し述べているように、自分はできると脳が推測できるような記憶を自分自身に持たなくてはなりません。そのために、大切なポイントは、同時発火性です。
なんじゃそりゃ?ですね。脳の神経細胞が活性化することをFire(発砲、発火する)って表現するのですが、同時に神経細胞を活性化することが、脳の神経細胞を結合する上で重要であるという、ヘッブ則なるものがあるのです。
「できなかった記憶」と「できるようになった記憶」。このプロセスと結果の一連の脳に個別保存された記憶を同時に脳に呼び起こし、結合をするということです。この脳的処理をすることなく、勝手にこれらの記憶が結合されることはほぼあり得ません。
多くの場合、うまくいかない記憶、できた記憶がそれぞれ別々に持ち合わされている。結合されていないことが問題なのです。その時々の感情の一喜一憂の個別格納の記憶で終わる。俯瞰して、自己の情報、記憶を結ぶということをなかなかしない。
自己の体験にある記憶から、できなかった記憶とできるようになった記憶を頭に思い返し、同時に脳に引き出してみる。そうする中で、結合が起こる。これをやる。その際の注意点とおすすめポイントは、
楽しんでやる!(超重要!)だって、脳にこの記憶情報が、ワクワク前向きにさせるためにやっているのだから、しんみりやっててもしょうがない。やらされてやっててもしょうがない。楽しくやる!
誰かに楽しく共有する!ハッピーなポジティブな人と、自分のできなかったけど、できるようになったエピソードを共有し合い、讃えあい、楽しみましょう。誰かに伝えるって、そこまでするのに、思い返し、咀嚼し、かつ話して伝え、さらにフィードバックもらい、とその記憶を大いに強くする要素が目白押しなのです。
まずこれをやることが最重要かと思います。
2.感情を味わう
いろんな体験をする中で、一喜一憂するはずです。感情が発露するはずです。感情ってなんのためにあるか?いろんな役割がありますが、体験した出来事やエピソード、その時の気持ちや感情を記憶するためにもあるのです。覚えていることって大抵感情が動いていることですよね?
いろんな体験をして、感情を無理に押し殺すばかりを考えなくていいのです。悔しかったら悔しい感情を抱き締める。嬉しかったら嬉しい感情を素直に受け入れる。それは脳にとって大切な学習でもあるのです。その学習があるからこそ、自分ができた時の喜びなどを脳が予測して、前向きにしてくれるのですから。その際のポイントも。
ポジティブ感情を深く味わう。味わうとは、その自分の感情発露状態を認識し、かつもう一度その状態を脳の中で再表現することです。目を閉じ、今の自分のその感情発露を思い返して、浸ってみるのです。(ネガティブな記憶は簡単に作られやすい仕組みがあるので、そしてそこに囚われやすくなるので、よほど自分の感情調整に自信がある人以外はやらなくていいと思います。個人的意見。)
感情反応ばかりに囚われない。脳の学習として、そのモーメントを刻む上で、感情反応は大切です。かといって、その感情にだけ浸り続けていても、前には進みません。その学習を得たなら、それを生かしていくことが重要です。例えば、先に紹介したような、意識的な記憶の結合を試みるなど。我々の脳は楽をしたがりますから、その時々の記憶の強固学習は導き、点として学習はしてくれますが、意識して、点と点を繋ぐ試みに切り替えることも大切です。
3.他者でない、自分軸を持つ
自己効力感の脳の学習は、自分ができるか否かの指針であり、自分ができると思えるような記憶を作ることがポイントです。それを阻害する因子として、他者比較があります。
どうしても今の教育環境、育成環境では、無駄に他者比較をします。本当にその道で生きていきたい人が、誰かと順位を争ったり、比較されるのは、それはあってもいいでしょうが、望まない文脈にまで多く比較軸を持ち出し、我々の自信や肯定感、効力感を奪う仕組みには疑問しかありません。
ただ、そんな環境に不平不満を言っているだけでも何も変わりません。自分自身で、自分の認識を変えて、自分や周りの人の自己効力感は育めます。
「あー、こんなのできて当たり前だ。」とか。
「あー、〇〇ちゃんもできてるから大したことない」とか。
「あー、〇〇君と比べるとまだまだ」とか。
こんな言葉がけしたりされたりしませんか?それも、特殊な環境の人や、プロな文脈では時に効果的ですが、それ以前の段階では、単にモチベーションを下げ、自己効力感を失わせる方向の記憶しか育めません。
せっかく、何かができるようになったり、自己効力感を育むモーメントに出会えても、それを育むどころか、いや無視するどころか、むしろネガティブな方向に条件付け、記憶させようとする。そのようなディレクションが見合う人は、もうその世界に自分の意志で強く向き合い続け、自己効力感も高い人には効果的であることもあるのですが、そうじゃない段階では、本当にネガティブな効果以外の何者も、私の脳では考えられません。
これは外部からのフィードバックでもあり得ますが、そのようなフィードバックをされ続けていることで、自分でもそんな脳モードになっちゃう人もいます。なので、そんなことをまずは思わない、考えない意識を強く持つことも大事です。
誰かと比べて比較したらキリがありません。上にはうえが山ほどいます。そんな比較して、ぐったり憂鬱になる暇があったら、自分自身の、今の自分の成長を直視し、できないこともできるようになるんだな、そんな学習を脳にしてもらうことを優先しましょう。
はじめからできる人もいません。ちっちゃなちっちゃな自己の成長を噛み締める時間を大切にすることはとても重要です。その積み重ねで大きな成長になるのでしょう。他者比較は、その自己の成長への視点を失わせ、やる気を削ぐことが多いよ、ということを意識して向き合うことも重要ということです。
4.「できる」の視野を広げる
できなかったけど、できるようになった。その記憶を育むことは、確かに自己効力感においては大切です。しかし、「できた」という結果の記憶だけではなく、より広義の「できた」を脳に学習させることも、強い自己効力感を育むためには重要です。
成功か失敗かばかりを追い求めていると、成功できなそうなこと、できなそうなことに、なかなか挑戦してくれません。結果ドリブンのモチベーションばかりが育まれます。それも悪くないですが、世の中、最初から結果が見えいているものなど少なく、可能性が少なくても、やり続ける中で成功確率を高めていくのが現実です。
何もしていないうちには、成功確率なんて低いものです。なので、できなかったという記憶と、できたという結果の記憶ばかりを脳で強固にするのは、少し気を付ける必要もあるのです。
その観点から、応用できることとして、「できる」の枠組み、脳の学習の範囲を広げる意識が役に立ちます。成功しようが失敗しようが、いっぱいの学びがあります。失敗からも学べますが、成功してももっと良くする方法や、なんでうまくいったのか、学びはいっぱいあります。
よって、どんな結果になろうと「学ぶことができる」「成長できる」という記憶を作っていくことが重要です。そうすることで、先行きが見通しづらいことでも、やってみようと挑戦する心が芽生え、新しい体験をし、また一つ成長していくことができるのです。
なので、成功体験の「できる」という記憶の形成だけでなく、成功しようが失敗しようが成長「できる」という体験の記憶を育み、あらゆる体験が、学びに溢れている脳の状態にしていくと、高い自己効力感を誘ってくれるはずです。
いかがでしたでしょうか、まだまだいくつもポイントはありますが、まずは上記4つのポイントを押さえて日々を過ごし、内側に自己効力感の種となる記憶を育むことが重要かと思います。
少しでも何かのヒントになれば幸いです。
Have α happy day :)
青砥瑞人