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永遠の人。


「ごめんね」

私の声を聞いて、彼女は私の腕の中で小さく首を振っただろうか。

今日は彼女が一番好きな服を着て私のことを待っているとわかっていた。だから、私も一番気に入っている服で彼女に会いに来た。
もっと正確に言えば、彼女が私に「一番似合う」と言ってくれた服を選んだ。

教会の入り口を抜け彼女に歩み寄る私に、周りにいた人たちは驚き、私を止めようと駆け寄る者もあった。

その混乱の中で聞こえたのは彼女の母親の声。

「いいの。好きにさせて」

驚いた。
あの人がそんなことを言うなんて。


「ごめんね」
彼女を抱き寄せ、彼女の髪を撫でながらもう一度言う。
腕の中にある彼女の体は、さきほどより柔らかく感じる。

彼女を抱く腕が段々と辛くなる。
彼女も、もしかしたら居心地悪く感じているかもしれない。

情けないが、彼女に頬を寄せたまま、彼女の体を狭い箱の中に収めた。

彼女から体を離す。白い肌はそのままに、だけどいくらか顔が変わってしまった彼女を眺めることをやめ、静かに目を閉じる。

彼女を抱き起こし、短時間でも支えきれない非力さを憎んだ。
彼女を奪い去れなかった無力さを恨んだ。

涙で濡れた顔を上げると、彼女の母親と目が合った。

いつも私を見る、つり上がった目つきではなく、どことなく憐れみを持つ視線に嫌悪感が湧く。

「あなたが、男だったなら…」

こういう台詞を吐ける人。


私はもう一度彼女に触れた。
冷たくなっても温かい彼女に、最期の口づけをする。


「男とか女とか」

言いそうになって、やめた。
無駄な言葉を残す必要はない。

先に旅立つことを選んだ彼女の清らかな魂は、永遠に私と共にあるのだから。



[完]


#掌編小説




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