医学生の共感力がだんだん下がっていく?
本日の記事は医学教育に関する内容です。職場の論文を読む会(JC)で紹介された「医学生・研修医の共感力を低下させる要因とその理由」についてのシステマティックレビューをご紹介します。
医師の共感力については、以前にも記事に取り上げましたので、基礎的な話はこちらをご参照ください。
医師の共感力は
1患者さんの状況や見方を理解し
2正確な情報を理解し
3患者さんにとって有用なことを行う
ために必要な能力です。
共感的行動は、
患者さんの症状や困りごとををたくさん話すようになり、診断の正確性を増加し、疾患に特異的な情報を増やし、患者さんの関与を増やし、満足度を増加させ、できることを増やし、感情的な苦痛を緩和させます。
共感は医師のプロフェッショナル行動の中心的なもので、共感を育んでいくことは医学教育において重要です。
プロフェッショナル行動については以下の記事を参照ください。
この論文では、系統的レビューの結果、18件の論文が抽出されました。
この論文で明らかになったことは、
医学生の共感力は、臨床実習の時期になると下がっていきます。特に、学生が初めて患者と接するまで(3年生から4年生の時期)までに低下していき、研修医のときにさらに低下していました。
その理由としては、
不当な扱いを受けること、ちゃんと扱ってもらえていないこと、ソーシャルサポートが足りないこと、やることが多すぎること、患者さんと長期的に接する機会が少なくなっている、学習環境が構造化されていないこと、ロールモデルがないこと
が挙げられていました。
解釈の1つとしては、臨床実習によって、患者さんの死に触れることで、共感性が下がっていくのではないかということです。それはとてもつらいことなので、死に慣れていき、仕事に適応していこうとする側面があるかもしれません。
2つ目は、実際の患者さんとかかわることで理想的な医療から現実的な医療へと考えがシフトチェンジしていっている可能性もあります。
3つ目は、コーピングのメカニズムです。不当な扱いを受けたり、じぶんが正当に扱われなかったときに、感情に気づきにくくして、うつや燃え尽きを防止するためかもしれません。
いずれにせよ、医療職として、共感性をあえて下げることで、つらい出来事に直面しすぎずにいることができるのかもしれません。共感が低すぎるのもまずいですが、高すぎるのもまずいです。
感情労働といって、医療職は患者さんの気持ちや思いなどの感情を取り扱うことが多く、ひとの感情はじぶんの感情に影響してきます。
「人の死や叱責をうけることは感情に大きな影響を与えるので、じぶんじしんのこころの健康を守るために重要」なのだと思います。
「高すぎずそして低すぎずの適度な共感力を身につけるために何ができるのか?」を医学教育では考えていく必要があると思いました。
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