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「スーパー白馬襲撃事件」のタイムループの構造(マクガフィンのバトンタッチ) / 20240519sun(23904文字)


「スーパーマーケット白馬の襲撃事件」のタイムループの構造

■スーパー白馬の駐車場に到着。
運転手はケータイを盗んで逃走。

■□

➡︎後(別の章)にて、午後三時に、北陸タクシー魚津支店に辰吉耳男(綿鍋銀次の手下)が現れる。辰は銀が少年たちに渡したケータイ(インストールされたさまざまなアプリにはそれぞれに1000万円分のポイントがある)を取り返しにきたのだ。北陸タクシー魚津支店の事務所に乗務員ワタベミノル(窃盗癖・前科有り)を詰めて、また黒いプリウスで白馬まで引き返させる。


八  スーパー白馬事件の発生


 長野県南アルプス白馬岳山麓八方尾根一丁目交差点前。
 黒いプリウスは十字路を折れた。車体は、ぐわん、とアスファルトがひび割れた窪みを乗り越えてスーパーマーケットの敷地に侵入した。
 黒いプリウスは敷地の中央の街路樹に沿って正面エントランスを見る。車寄せには黄色いビートルが止まっていたのでハンドルを右に切ってそのまま通り過ぎた。南国の背の高い木を右にまわりながら「白馬へようこそ! 」の横断幕をなめて、バックで赤松の並木を背に止まった。
「坊ちゃんたち、着きましたよ。ここが白馬ですよ」
 セナはリアシートに凭(もた)れたまま、出発からずっと猫背になってA4ノートに書いていた。それをパタリと閉じた。
 リョウは後部座席から窓に手をつけて視線を車の外の駐車場に移した。ここは白い山脈に囲まれた盆地のように見える。目の前にはマンサード屋根を模したスーパーマーケットの建物が見える。建物は大きい。だけどレジャー施設が併設された複合商業施設には見えない。日用雑貨用品から文房具や衣類や生鮮食料品までが色々そろっているこの白馬の街で一番のスーパーマーケットなのだ。とリョウは認識した。運転手が後部のドアを開けたのでリョウは白馬の大地に降り立った。リョウが長野にやってきたのは生まれて初めてだった。
 顔をあげる。青い空に白い山脈。その下には赤い屋根に横断幕「白馬へようこそ! 」の文字。十字路の方面をむくと駐車場の出入り口に柱が立つ。高いところに「スーパーマーケットHAKUBA」と筆記体で書かれた黄色い看板が見えた。十字路の向こうに「ファミリーズ白馬店」の看板が見えた。あのファミレスは親不知にもあったな。チェーン店なんだ。馴染みの店だ。リョウはすこし安心した気分になった。
 運転手はスイッチを押してパワーウィンドを開けた。窓から紫炎が吹いた。
 ばばばばばばばばばばばばばば。上空からヘリコプターや飛行機の音が聞こえる。風花のような乾燥した硝煙臭い灰色の粉が車のなかに舞いこんできた。パンパン。ガシャン! バリンッ! 遠くから乾いた銃声のような音やガラスが割れる音が耳に飛び込んでくる。
 白馬の街は妙に物騒な気配を呈していた。
 パン。乾いた音が聞こえる。すると、横断歩道をとおる人影がバタッとたおれた。交通渋滞が始まるとあたり一面に車のクラクションが鳴り響いた。うわあ。これはニュースよりもひどいなァ。警察と自衛隊が壊滅して地元ヤクザの統制もきかない地域はこうも荒れるものかいな。パンパン。バリンッ! おお怖。触らぬ所にくわばらくわばらだ。はよ帰らんと、もらい事故で死んじまうがな、こりゃあ。運転手はつぶやいた。
 あ、そうだった。いけねいけね。リョウは車にもどってバッグのファスナーを開けて手をツッコんだ。がさごそ。約束の一万円札を十枚取り出して、運転手に手渡した。へへ。運転手はリョウに笑顔を見せた。バッグが半開きだったのを見てセナはファスナーを閉める。
「おじさん、ここでちょっと待てる? 」
 運転手は首をかしげたが、すぐに笑顔になった。
「ええ、おじさんはここでずっと待っておりますよ。ここからまたどちらへ向かいますか? 貸切りにもできますよ」
「セナ。冬服を買おうぜ」
「うん。もうちょっと書いていたいんだけどな」
「いいから降りろよ。外の新鮮な空気を吸おうぜ」
 リョウはセナを車から下ろした。リョウは西に聳える白い山脈を指さした。
「あの真っ白な雪山に登ってさ。キャンプとかやろうぜ。スノボとかはレンタルできるのかなー」


■□

マクガフィン❶「運命の松ぼっくり」


スーパー白馬襲撃事件②:運命の松ぼっくり:



■白馬の駐車場
「セナ、降りろよ」
「もう少し、ノートを書いていたいな」
「ここはセナが来たいって言った白馬だぜ。降りろよ新鮮な空気を吸おう」
リョウはセナをタクシーから下ろした。


❶セナは赤松の下で、松ぼっくりを拾う。

⑴セナノート「運命の松ぼっくり」(二個でセット)
➡︎松ぼっくりを持てば死なない
(裏設定)

⑵ループの起点=セナが二個の松ぼっくり(マクガフィン)を拾う。

「セナ。冬服を買おうぜ」
「うん。もうちょっと書いていたいんだけどな」
「いいから降りろよ。外の新鮮な空気を吸おうぜ」
 リョウはセナを車から下ろした。リョウは西に聳える白い山脈を指さした。
「あの真っ白な雪山に登ってさ。キャンプとかやろうぜ。スノボとかはレンタルできるのかなー」
「そうだね」
「セナ、おれたちのお目当ての白馬だぞ。あれが八方尾根っぽいな」
 リョウは山脈に向かって大袈裟に腕をふりあげる。
「あれの山は…… 八方(はっぽう)けっこう 直滑降! ……あれ? 」
 リョウは、ガクン。と肩を落とす。
「えー。セナァ。なんか機嫌がよくなさそうだけど」
「そんなことないよ。けど」
「けど。ってなんだよ」
「すこし、あの男が気になるんだ」
「あの男って、ツバメを生き返らせた男か? それともそこでタバコをプカプカやってるタクシーの運ちゃんか? 」
「ツバメを蘇生させた男だよ」
「おれはあの運転手は曲者だと思うな。ずっと笑ってヘラヘラしてる。オトナでもっとも信用ができないタイプの人間だ」
 セナは慌てて、リョウに耳打ちをする。リョウ。カバンのなかに現金が三百万あるよ。あ、そうだった。セナはここでまってて。リョウはタクシーにもどった。
「どうなさいました? 」
「いやなんでもないんだ。カバン。取りにもどっただけ。買い物してすぐ戻るよ」
 リョウは運転手に笑顔を見せて、カバンを、そっと、持ちだした。
「いってらっしゃいませ」
 運転手はパワーウィンドを下ろしてサイドウィンドを全開にした。二本目のタバコを吸い始めた。リョウはセナがいる松の下にもどってきた。
「まずはさ、ケータイの金がどんだけ底なしなのかを試すのが次のミッションだって、セナが道中の車のなかで言ったんじゃないか。だからこの銀のスマホで金を使いまくる…… 」
「……うん」
 リョウは慌ててカバンのなかをまさぐる。
「あれ? スマホがない! 」
 リョウは首を左右にまわす。
「あっ」
 セナが指さした駐車場の出口から黒色のプリウスは、ガクン。と沈んで、左に折れて十字路を北へ走り去った。
「ケータイ、やられちまったー」
「こういうときは、ぎゃふん。っていうんだね」
「いわなかったな」
 二人は笑って赤松の木の下に腰を下ろした。セナは松ぼっくりを手のひらに乗せて遊ぶ。にぎったぐあい。ちょうどいい。セナは松ぼっくりをにぎりなおして独り言をいった。バッグを開けてなかをのぞくリョウ。散(ばら)の万札がクシャクシャになって入っていた。親不知の国道でタクシーを拾って、ふたりはすぐにいろんなコンビニに立ち寄った。二、三十万円(コンビニによって最大出金額はちがうのを確認した)を下ろした。そうやって次のコンビニに寄っては二、三十万を下ろしたのだった。リョウのバッグに貯まった現金はちょうど三百万円だった。セナは松ぼっくりをリョウのバッグに入れた。
「タクシー代で十万払ったから、のこりは二百九十万円だね」
「それだけか」
「それだけ。って言っちゃうと、なんだか大金には感じないね」
「でもよ。冬物のダウンジャケットとかキャンプ用品とかさ最低限の防寒用具は買おうぜ」
「うん。それは賛成だよ」
「二百九十万円か。そうだなー。スキー場ですこしは遊べるかもな」
「ははは」
 セナは別の笠が開いた松ぼっくりを拾ってまたリョウのバッグに入れた。
「なにがおかしいんだよ。セナ」
 これ。ぼくとリョウのふたりの松ぼっくり。世界で二個だけの運命の松ぼっくり。ふふ。おまえキモイよ。リョウはわらう。セナも笑った。
「さっきまでさ。リョウはあれほど銀の金を浪費してやるんだって意気込んでたのにさ」
 セナは言った。
「他人の金だからな。それに、底が見えるって現実を見ることなんだな」
「まずは百均から見てまわろうよ」
 セナは笑った。リョウはうなづく。
 リョウはセナの肩をたたく。
「腹減ったァー。まずはあそこのレストランで食事しないか? ファミリーズだってよ。おれたちが住む町にもあるぜ」
 セナは黙った。ファミリーズの建物を睨んだ。また、スーパー白馬の建物を睨んだ。セナはリョウの目をじっと見つめる。
「どっちでも良いけど」
「じゃあ、ジャンケンだな。おれが勝ったらまずはレストランに行って、ハンバーグステーキセットだ。サラダ付きのドリンクバーで、ライスおかわり自由のCセットだぞ」
 リョウは意気込んだ。よーし。ぺっ。うわっ、リョウキッタな! これはオヤジがやってたまじないだよ。さぁーいしょーは、グー。ジャーンケーン。ぐへっ! ふたりは手を繋いでスーパー白馬の正面エントランスへと向かっていった。
 ぱんぱん。十字路から乾いた銃声が聞こえる。店の自動ドアまで二十メートルだった。セナはリョウの手を、渾身の力でにぎった。
「セナ、痛いから。ちょっと離せって。グリコしようぜ」
「いいよ」
「あの自動ドアまでな」
「最初だけは、ぼくに勝たせて! 」
 セナは真剣なまなざしでリョウを見つめた。
「やーだ! べー」
 リョウは笑った。
「じゃあ、本気じゃんけん、行っくぞー」
「ちょっと待って! 」
「なんだよ、盛り上がってきたのに」
 セナはリョウの後にまわり込んで、松ぼっくりをふたつだした。
「お互いにひとつずつ、持とう」
「松ぼっくりをか? 」
「お守りだよ」

■□

「店の入り口までグリコジャンケンしようぜ」
リョウは言う。
「最初だけは、勝たせて」
セナはいう。
「セナらしくないな」
リョウは笑ってセナとグリコジャンケンをする。

なぜか三連勝。グリコジャンケンをする。
「やったー三連勝だぜ!」
「グー、リー、コッ!」
リョウの足はちょうど、自動ドアの下に。
自動ドアは開く。


■□

■事件(ターニングポイント)

◉ガラスのドアが左右に開いた瞬間、店の中から謎の銃撃が始まる。

銃撃の描写は、スローモーションで。
リョウは唖然。恐怖で棒立ちのままだ。
が、リョウの背後からセナは突進してくる。セナはリョウの腰をつかんで左通路のトイレに投げる。
「走れ! 」
ガチャガチャ。
 リョウは多目的トイレのドアを引くが開かない。だれかが入っているのだ。
「セナ!こっちに来るな! 」
リョウは二階にあがる踊り場に人の気配を感じてへふりむく。
階段から足がみえる。男性の店員らしい。手を挙げて降伏する男の店員のからだに赤い光線が束になって集まってくる。一斉射撃で蜂の巣になった。セナはそんな銃弾の雨のなかを、匍匐前進で進んでくる。なぜか手に松ぼっくりを握っているのが見える。セナはリョウの手を引っ張って女子トイレに連れ込む。奥から二番目の個室に入る。
◉なぜ逃げ込んだのは男子トイレではなかったのか?

■□

 セナはリョウの後にまわり込んで、松ぼっくりをふたつだした。
「お互いにひとつずつ、持とう」
「松ぼっくりをか? 」
「お守りだよ」
「変だな。セナって」
 リョウは松ぼっくりをひとつ受け取って、空へと投げた。パシッ。よし。
 ふたりはグリコジャンケンを始める。
 シャーッ! 最初から、いっただきだぜ! チ、ヨ、コ、レ、イ、ト。ジャーンケーンっポイッ。やったー。また勝ったァ。グー、リー、コ。ジャーンケーン。ポイッ! ひゃっほー。三連チャンだァ! リョウは地面から飛び上がってよろこんだ。せぇーの、パ、イ、ナ、ツ、プ、ル…… ウィーン。自動ドアが開いた。その瞬間だった。
 銃声が、凄まじい勢いで店内に轟いた。リョウは驚いた顔のまま、からだを硬直させるしかできなかった。ばばば、ばばばばばばば…… 両脇から自動ドアがまた閉まる。ばばばばばば…… スローモーションが始まった。ばばば、ばば、ば、ば、ば、ば、ば、ば、ば、ば、ばりっーん、煙の尾を引いてねじれて飛んでくる銃弾が、自動ドアのガラスをつきぬける。ひいっ。スチール棚に陳列された商品は発泡スチロールのように脆(もろ)く砕け散る。複数の銃弾が着弾した砕氷が敷かれた鮮魚棚は衝撃波で、コロッケやマカロニサラダや海鮮丼やサーモンの切り身は宙を舞った。棚の上にならぶポテトチップスやカップ麺は中身を飛び出させて粉々になった。ばばばばばばばばばば…… リョウの両膝はガタガタと笑う。粉々になったガラス片が舞うなかでまだ未成熟な喉仏を晒(さら)して上を見上げると「トイレはこちら」のプラスティックプレートが揺れているのが見える。真後ろから、セナが真っ直ぐに突進してくる。まるでラグビー選手のように。腰をふたつの腕で抱きかかえたセナはまるで砲丸投げ選手のようにリョウを、左側にあるトイレの方向にむかって投げた。リョウはセナに振られた遠心力に乗って、銃弾の雨のなかを走った。多目的トイレのドアにぶちあたってリョウは意識がもどった。多目的トイレのドアの取っ手を引く。ガチャガチャガチャ。ガチャ。ガチャ! 開かない。ひいっ! なかから男女の声がする。セナはガラスまみれの床の上を匍匐前進でリョウのところまでやってくる。セナが松ぼっくりをにぎっている。リョウはわけもわからずに自分がにぎる松ぼっくりをなんどもぎゅっぎゅっぎゅっとにぎる。セナの背中の上を銃弾の雨が降り注ぐ。あぶない! くるな! リョウはさけぶ。右手に非常階段の踊り場が見えた。踊り場へ走れば屋上に上がれるはずだ。二階から足が見えた。中年男性だった。胸にバッジが見える。スーパーの店員らしい。スーパーの店員の男は何かをさけびながらこちらに両手をふる。すると複数の赤いレーザーが男の体に集まってきた。ばばばばばばばばばばばばばばばっ、男はこんにゃくのようにふにゃふにゃになりながら、ぶるぶると肉片を飛び散らせた。顔面から白い骨が見えてずるっと捲れた肉片がリョウの顔にべちゃり。付着した。ぐぎゃあ、さけぼうとするリョウの口を、セナが小さな手で目いっぱいにふさぐ。セナは松ぼっくりを持つ手でリョウの顔面に付着した肉片をつかんで出入り口のほうへむかって投げた。気を失いそうなリョウの耳元にセナがなにか「ぼくたちはだいじょうぶだ、ぼくたちはだいじょうぶだ、ぼくたちは撃たれてない。ぼくたちは撃たれていないんだ」とじゅもんのようなことばを呟(つぶや)きながら、失神寸前で砂袋のように重たくなったリョウの腕を無理やりにひっぱって奥の女子トイレに引きずっていった。セナは「だいじょうぶ、だいじょうぶだからね、だいじょうぶだからね」と唱えながら鏡台に真っ赤な松ぼっくりを置く。鏡か鏡の向こうのだれかに向かって「息を吸え、また息を吐け、そしたらまた息を吸うんだセナ」セナはまた「セナしっかりと息を吸うんだ」ぶるぶると震えながら蛇口をひねり、流水で血を洗い流して、また蛇口をきゅっと閉め、最後に松ぼっくりをにぎり直して、一番奥のドアに入って、扉を閉めた。便座の上でふたりで、抱き合ってぶるぶると縮こまっていると、店内の銃声は止んだ。
 リョウはふたつの眼球を潤ませ、ガクガクと震えていた。
「な、なんでこんなことに…… 」
 リョウは半泣きでつぶやく。
「きっと、ジャンケンに勝ったからだよ」
 セナは笑ってみせた。セナの前髪に血と白い肉片が付着していてリョウはそれを手で摘んで払った。
 リョウは顔をクシャクシャにしてセナの胸に顔を埋めて泣き始めた。
「じゃあ、そのあとに、おれがグリコで三連チャンで勝ったのも関係しているのか? 」
 セナはその問いには答えなかった。
「でも、松ぼっくり。もってて、良かったね」
「どういうことだ? 」
 リョウはじぶんがにぎる松ぼっくりを見つめた。
「だから、これは運命の松ぼっくりなんだって」
 セナは笑った。



■□

➡︎タイムループ②③④⑤⑥

■白馬の駐車場②
「セナ、降りろよ」
「もう少し、ノートを書いていたいな」
「ここはセナが来たいって言った白馬だぜ。降りろよ新鮮な空気を吸おう」
リョウはセナをタクシーから下ろした。


何度もセナはリョウの身代わりに死ぬ。
①女子トイレの個室に逃げ込む。

■□



 リョウは半泣きでつぶやく。
「きっと、ジャンケンに勝ったからだよ」
 セナは笑ってみせた。セナの前髪に血と白い肉片が付着していてリョウはそれを手で摘んで払った。
 リョウは顔をクシャクシャにしてセナの胸に顔を埋めて泣き始めた。
「じゃあ、そのあとに、おれがグリコで三連チャンで勝ったのも関係しているのか? 」
 セナはその問いには答えなかった。
「でも、松ぼっくり。もってて、良かったね」
「どういうことだ? 」
 リョウはじぶんがにぎる松ぼっくりを見つめた。
「だから、これは運命の松ぼっくりなんだって」
 セナは笑った。


トイレに暴漢グループの女がやってきて二つ隣の個室で排泄をする。
セナはリョウのバッグからA4ノートを取り出す。
(新潟からのタクシーのなかで書いていたものだ)。

 パン。パンッ。ババババッ。ババッ。
 銃声は間欠的に聞こえてくる。パンッ。
「あれから、時間はどれくらいたったかな」
 便座の上でリョウはセナに抱きついたままだった。セナは、これってなんかいやらしい格好じゃない? 笑う。するとリョウは顔を赤らめて、タイルの床に降り立った。リョウはタイルの床に靴の裏についた血が滑った。あわあわあわあわ。リョウはセナの首に抱きついた。きゃははは。セナは笑った。
「軍隊かな。破壊力がマジすげえ銃だったな。マシンガンとか自動小銃みたいだった」
 リョウはもう一度、そっと床に立った。セナは尻を半分どかして、ふたりは背中を合わせるように便座に座りなおした。
「銃はたぶん軍隊のものだと思う。けどヤツらは軍隊じゃないよ。絶対に」
 セナは松ぼっくりを持たないほうの指で壁を伝った。落書きがたくさん書いてあった。地球上のすべての女は下等生物だ。セナは小声で読み上げた。女って怖っ。リョウは笑った。男が侵入して書いたんじゃね? どちらにしても…… ふたりはくすくすと笑った。
「で、セナのヤツらの考察はどうなんだよ」
 リョウの目の前には、マジックペンで、カサの絵が描かれてあった。左にアキ、右にナオコと書いてあった。やっぱ女子トイレだなー。男子はオマンコ、肉便器とかだもんなー。そそ。男子は表現と思想が下等生物だ。セナは笑った。それからしばらく、ふたりに沈黙が降りた。セナは話を始めた。
「ヤツらがもっていた銃火器は自衛隊とかの自動小銃だと思う。けれど、このスーパーは軍隊に制圧されてはいない」
 セナは目の前に書かれた落書きを読み上げた。「性格よかったらこーゆー発言って、ありえねーんだよ。だからおめえは顔が悪いんだよ。ぷっ」➡︎
 セナは指の腹で、➡︎の先を追った。「わたしって性格は良いよ、顔もいいんだ」とあった。
「そのこころは? 」
 リョウはセナに尋ねた。
 パンッ。銃声は間欠的に聞こえてくる。
「さっきの踊り場へむけた一斉射撃は、あれは私刑(リンチ)だった。まるで射的場のような遊びの感覚で生身の人間を的にしていた。軍隊は人間を標的に命をもてあそぶような愚劣な行為はしない。軍隊は指示があって初めてうごき、その機能を果たす。それが軍の組織だ。『スーパー従業員が踊り場に立ってこちらに手をふっている。それがわれわれの標的だ。一斉射撃せよ』そんな上官の命令があの現場であったなんて、ふつうは考えられない。ヤツらは、なにかしらの機会を得て、軍隊の武器を手にした。だからアイツらはただの暴漢たちだ」
「セナって洞察力って、すごいんだな」
「これは洞察力じゃないよ。それともうひとつある」
「もうひとつ? 」
 ババババッ。また銃声は間欠的に聞こえてくる。パンッ。
「ほら。これもそうだ。これって、銃弾を無駄に撃っているよね。軍隊は無駄に銃弾は使わない。制圧したら尚更だ。素人だ。素人はこのスーパーを完全に制圧しきれていない」
 パンッ。
「ヤツらがこの建物を制圧していないって、なぜいえるんだ?」
「このトイレまで歩哨が来ない。軍隊は役割が徹底している。それは上官からの命令だ。この状況ならまず歩哨をおいて、歩哨はすべてのトイレを開けて生存者がいるか見てまわるはずだ。生存者を見つけたら捕虜にするか殺すかは別として、制圧されたらいまごろ生存者は、逃げられないように中央の一箇所に集められている。それが完全制圧の第一歩だと思う」
「まるで、セナが書いたシナリオみたいだな」
 セナは目を大きく見開いた。
「で、ヤツらは素人なんだな」
 間があった。セナは息をのんで、話を継いだ。
「素人の暴漢とはいえ、生理現象の尿意は催すよね」
 セナは、指で、黒いマジックでなぐり書きされた文字の跡をゆっくりと辿(たど)った。お前の考える基準である世界と常識をぶっ壊してやる! それを見つめて、セナは笑顔をみせた。
「ヤツらの仲間に女兵士がいなければいいんだけどな」
 リョウは言った。
 コツコツコツコツ。足音が聞こえてくる。リョウは恐怖で震え上がる。息を止めてセナの股に乗った。
 ガチャッ。ガチャガチャッ。ガチャッ。
 それはさきほどの多目的トイレのドアを開ける音だった。
「開かねえんだけど」
 ガチャッ、ガチャッ、ガチャッ。パンッ。パンッ。
「ぎゃー。助けてく…… 」
 ババババッ。ババッ。
「ちっ。買ったばかりの服が血まみれじゃねーかよ。ったく」
 アイツ男かな。リョウはセナの耳にささやく。それはわからない。セナは手を伸ばして閉めてあった個室ドアを開いた。おいセナ! バカやめろ! 入り口から見えるぞ! ぎゃくにこの扉が塞いであったらトイレに入ってきた人間にぼくらがいるのがバレちゃうよ! セナはドアをしずかに引いた。リョウと便座の上で抱き合った。たがいに心臓の音がぶつかり合うのを感じる。
 コツコツコツ。足音は女子トイレに入ってきた。
 キィ。ふたつとなりのドアが開いた。
 バタン。
「タケシのヤロー。マジうぜえわ。そもそもこの襲撃は、ナニが目的なんだよ。マジわけわかんねえし。人を殺せば、だれだって吐き気がするわ」
 女の声だった。
 リョウは怯えきって、セナをきつく抱きしめる。前に抱えたバッグが潰れてファスナーが開いて、札束が、ばさばさと落ちた。カチャカチャカチャ。ベルトを外している音が聴こえる。リョウは松ぼっくりを口に咥えて、タイルに張り付いた札束を拾おうとする。どん。女が便座に座ってすぐだった。
 ぷぅ〜。
 しばらくして、饐(す)えた、強烈な臭いが少年たちの鼻を突いた。
 はうっ。リョウが口に咥える松ぼっくりがタイルに落っこちた。セナの足先に当たって、ころころころころころころ。と転がった。セナは床に伏せた。体勢を低くして手を伸ばす。バカっ! おいセナやめろ! それはただの松ぼっくりだぞ! これは《ただの松ぼっくりじゃない》よ。セナはふりむく。それからまたセナは力を振りしぼって、松ぼっくりに腕を伸ばす。セナ! おいやめろって! セナはまたふりむきウィンクをする。大丈夫。ヤツらはぼくらには気づかない。ぼくは知っている。え? なんだって!? セナは松ぼっくりにゆっくりと近寄っていく。
「ううっ」
 ジャー。水洗が流れる音が聴こえる。水が流れるなかに混じって、ぶりぶりぶりぶりぶりっぶりっ。ぶりぶりぶりぶりっ。ぶりぶりぶりぶりっ。ぶりっぶりっ。ぶりっ。排泄する音が聞こえてくる。少年たちは頭に人間の肌色の尻から異様に長くてぬるぬるした大蛇が水の渦のなかへ呑み込まれていく姿を思い描いた。ぶりっぶりっ。ぶりっ。排泄物は超特大のようだった。セナはタイルの床を這って進んでいく。松ぼっくりをつかむとセナは、あろうことか、さらに腕を伸ばして、女の足元に松ぼっくりを置き直した。え? セナおまえいったいなにをやってるんだ? おいそれって、見つかったら…… え? ぶりぶりぶりぶりっ。ぶりっ。
「うぅ〜。ぞくぞくするぅ。セックスよりも気持ちいいわー」
 カラカラカラカラカラカラカラ……。無言で、芯が回る音がする。セナとリョウはそのカラカラが異様に長く感じた。あっ! 便座から逆さに顔を出したままリョウは口を押さえる。女の五本の指が見えて、松ぼっくりをつかんだ。細く白い節のある五指だった。五つの爪に塗られた真っ赤な色のマニキュアが光った。
「あれ? なんでこんなところに松ぼっくり? 」
 カラカラカラカラカラカラ……。
 ガタン。
 トイレの扉が開いた。
「おーい。トモミ。ウンコかよ」
 男の声が聞こえる。
「ウンコじゃねえし。タツヤか。女子トイレだぞ。出てけよ。テメエぶっ殺すぞ」
「へへ。女トイレも男トイレと間取りは変わらねえんだな。いや。小便器がならんでねえや。それに気持ち、豪華にみえるな」
「ほれ、手榴弾だ」
「ぎゃあっ。バカっ。松ぼっくりかよ」
「ビビってんじゃねーよ。ビビりのチビタツ! 」
「へへ。われらが隊長のヤスノリ殿がよー。いまから食事だってよー。すぐにもどってこいってさー。あいつら、ぜんいんぶっ殺して、十字路の向かいのファミリーズで昼飯だって、よっ」
 ガンっ。松ぼっくりが、すごいいきおいでリョウの背中のバッグに飛んできて当たった。
「クッソ。ハズレちまったぜ」
「ノーコン。早く出てけよ。バーカ」
 バタン。ドアの閉まる音が聞こえた。
「おとこって、マジうっぜーわー。女がトイレに入ってるのに大声で呼ぶんじゃねえよ。マジどーいう神経してんだよ。田舎の男ってクソだわ」
 女はぼそぼそとしゃべる。カチャカチャカチャカチャ。ベルトを弄(まさぐ)る音が聞こえる。
 ジャー。水洗が流れる音。ゴボっ。
 バタン。 コツコツコツ……。ジャー。きゅっ。コツコツコツ……
 足音は去って行った。
 ころころ。松ぼっくりはセナの足元に転がって止まった。セナはそれを拾ってリョウのバッグに入れて、ファスナーをきっちりと閉めた。
 ぶはー。リョウは息を吐いた。
「なんでセナはわかったんだよ! 」
 セナは口に人さし指を当てる。リョウの目の前にセナの胸が覆い被さる。セナの両腕がリョウの両耳を塞いだ。
 ばばばばばばばばばば…… ばばばばば…… 店内から銃声のくぐもった一斉射撃が始まった。




スーパー白馬襲撃事件 / ループ③ノートの黙示録


 女子トイレの個室のなかでリョウは怯えきってセナに抱きついていた。前に抱えたバッグが潰れてファスナーが開いた。ばさばさッ。バッグのなかの札束が落ちた。
 カチャカチャカチャ。横の個室からベルトを外している音が聴こえる。リョウは松ぼっくりを口に咥えて、タイルの上に散った万札を拾おうとする。
 どん。便座にだれかが座ってすぐだった。
 ぷぅ〜。
 饐(す)えた強烈な臭いがふたりの少年の鼻をつんざいた。
 はうっ。リョウが口に咥(くわ)える松ぼっくりがタイルに落っこち、セナの足先に当たって、ころころころころ、ころころ……。
 セナはリョウの耳元で、リョウはこの位置で松ぼっくりがもどってくるのを待ってて。呟(つぶや)いた。それからセナはタイル張りの床に伏せた。目の前に潰れたゴキブリが目に入ったが、セナはそれをなるべくみないようにした。セナはオオトカゲのようになって体勢を低くしてからだを前に進ませた。腕を、松ぼっくりに伸ばした。バカっ! おいセナやめろ! それはただの松ぼっくりだぞ! ちがうよ。セナはふりむく。これは《ただの松ぼっくりじゃない。運命の松ぼっくりだ》よ。それからまたセナは、力を目いっぱいに振りしぼって、松ぼっくりに、腕を伸ばした。セナ! おいやめろって! セナはまたふりむきウィンクをする。だいじょーぶ。《ヤツらは》ぼくらにはぜったいに気づかない。ぼくは知っている。え? なんだって!? セナは床に這って、松ぼっくりにゆっくりと近寄っていく。
「ううっ」
 ジャー。
 水洗が流れる音が聴こえる。水が流れるなかに混じって、ぶりぶりぶりぶりぶりっぶりっ。ぶりぶりぶりぶりっ。ぶりぶりぶりぶりっ。ぶりっぶりっ。ぶりっ。すさまじい破裂音が聞こえる。少年たちは頭に人間の肌色の尻から現れた電気ウナギが夥しい魚を感電させながら渦に吸いこまれる姿を思い描いた。ぶりっぶりっ。ぶりっ。超特大級の排泄物のようだった。セナはタイルの床を這って進んでいく。松ぼっくりをつかむとセナは、さらに腕を伸ばして、女の足元に松ぼっくりを置き直した。え? セナおまえいったいなにをやってるんだ? おいそれって、見つかったら…… え? ぶりぶりぶりぶりっ。ぶりっ。
「うぅ〜。ぞくぞくするぅ。セックスよりも気持ちいいわー」
 カラカラカラカラカラカラカラ……。芯が回る音がする。カラカラカラカラカラ……異様に長く感じる。あっ! 便座からさかさに顔をだしたままリョウは口を押さえる。女の五本の指が見えて、松ぼっくりをつかんだ。細く白い節のある五指だ。五つの爪に塗られた真っ赤な色のマニキュアが光った。
「あれ? なんでこんなところに松ぼっくり? 」
 カラカラカラカラカラカラ……。
 ガタン。
 トイレの扉が開いた。
「おーい。トモミ。ウンコかよ」
 男の声が聞こえる。
「ウンコじゃねえし。タツヤか。女子トイレだぞ。出てけよ。テメエぶっ殺すぞ」
「へへ。女トイレも男トイレと間取りは変わらねえんだな。いや。小便器がならんでねえや。それに気持ち、豪華にみえるな」
「ほれ、手榴弾だ」
「ぎゃあっ。バカっ。松ぼっくりかよ」
「ビビってんじゃねーよ。ビビりのチビタツ! 」
「へへ。われらが隊長のヤスノリ殿がよー。いまから食事だってよー。すぐにもどってこいってさー。あいつら、ぜんいんぶっ殺して、十字路の向かいのファミリーズで昼飯だって、よっ」
 松ぼっくりが飛んできた。豪速球だった。
 ガンっ。
 松ぼっくりはリョウの背中のバッグに当たってタイルに落ちた。
「くっそー。ハズレちまったぜ」
「ノーコン。早く出てけよ。バーカ」
 バタン。ドアの閉まる音が聞こえた。
「おとこって、マジうっぜーわー。女がトイレに入ってるのに大声で呼ぶんじゃねえよ。マジどーいう神経してんだよ。田舎の男ってクソだわ」
 女はぼそぼそとしゃべる。カチャカチャカチャカチャ。ベルトを弄(まさぐ)る音が聞こえる。
 ジャー。水洗が流れる音。ゴボっ。
 バタン。 コツコツコツ……。ジャー。きゅっ。コツコツコツ……
 足音は去って行った。
 ころころ。松ぼっくりはセナの足元に転がって止まった。セナはそれを拾ってリョウのバッグに入れて、ファスナーをきっちりと閉めた。
 ぶはー。リョウは息を吐いた。
「なんでセナはわかったんだよ! 」
 セナは口に人さし指を当てる。リョウの目の前にセナの胸が覆い被さる。セナの両腕がリョウの両耳を塞いだ。
「なんでセナはわかったんだよ! 」
 ばばばばばばばばばば…… ばばばばば…… 店内から銃声のくぐもった一斉射撃が始まった。
「ちがうんだよ! もしぼくたちの方がある世界の登場人物だとしたら…… 」
「セナ。おまえ、いきなり、それもいったいなにを言いだすんだよ! おれにはさっぱりわからねえからえからっ! 」
「ぼくがこのノートに書いた世界のニンゲンがホンモノの世界に存在するニンゲンで、ぼくの肉体はホンモノのニンゲンのだれかによって書かれている文字なんじゃないか? って思うときがよくあるんだ。いまでも、ぼくはこのからだで感じるんだ」
「セナの肉体が、も文字で出来てる? 」
 リョウはセナのほほを思いっきり抓(つね)った。それからまた、セナのほっぺたを引っ張った。痛いっ。セナのほほはみるみると赤くなった。
「でも、ぼくのことばで説明するとこの世界はそうやってできていることになるんだ」
 セナは言った。
「それって、どういう意味だよ? ここでいきなり、そんなことおれに言われてもよ、おれにはマジでさっぱり、わかんねえから」
 リョウはセナの両肩をつかんでぐわぐわと震わせた。
「ぼくがタクシーの中で書いたノートだよ。読んでみてほしいんだ」
 セナはリョウの背中のカバンからA4のノートを取り出して渡した。
 リョウはセナのノートを読んだ。まぶたをぱちくりとさせ、じっと天井を向いて深呼吸をする。清潔感のあるグレーの天井だった。リョウはまた、目を瞬かせる。天井のどこかしらにシミがあるだろうかと探した。天井には窓際の隅に網の排気口がみえる。それだけでシミはひとつも見当たらなかった。あの外観の建物にしてはこのトイレの内装はきれいすぎる。きっとリフォームをしたばかりなのだろう。リョウは思った。リョウは顔をノートに落として、こんどは時間をかけて文字に指を当ててゆっくりと読んで言った。最後の方は音読をしていた。ばばばばばばばばばば…… ばばばばば…… 店内から銃声のくぐもった一斉射撃が始まった。これは、さっきここで実際に起こったことだ。それがこのノートに、それも丸々、詳細に描かれてある。これって、いったい、ど、どういうことなんだ?
 

■□■□■□■□■□■□

マクガフィン❷「リョウの成長」


上記の➡︎タイムループ②③④⑤⑥を実際のループ回数に当てはめる。


タイムループ③
ループ2回目➡︎
セナはリョウを連れて非常口の手前まで逃げる(セナはリョウの身代わりに死ぬ)。

タイムループ④
ループ6回目➡︎
リョウが非常口から逃げようとするとき、セナは子どもを助けにいく(セナはリョウの身代わりに死ぬ)。

タイムループ⑤
ループ52回目➡︎
百均ショップまで這っていき、スプレー缶とライターで店に火事を起こす(セナはリョウの身代わりに死ぬ)。

タイムループ⑥
ループ268回目➡︎
百均ショップで盗んだライターでスプリンクラーを起動させる。

タイムループ⑦
ループ269回目➡︎
リョウは百均の店に火事を起こしてスプリンクラーを作動させる(セナはリョウの身代わりに死ぬ)。

タイムループ⑧以降……
ループ816997回目以降……➡︎
タイムループの度に、セナが死のうとする以外の選択を選ぼうと試みるが、すべて失敗の終わる。


■悪い例 : 間違ったマクガフィンにバトンタッチすると…

◉以下、無限に延長したら、という仮定での裏設定では「リョウは成長しすぎる」リョウが成長しすぎて、超人的な能力を得た。これの変化は不要だ。なぜならリョウはこの物語のメインキャラではない。リョウはサブキャラだ。なので、この物語ではボツ案になる。
◉物語の世界(枠組み)が変わってしまう。
◉メインストーリーの流れが変わってしまう。
◉リョウは弱点のない強キャラになると。筆者はコントロールできない。


タイムループ985674381971234回目➡︎
リョウは銃弾をすべてヒョイヒョイと避けてゆっくりとあるく。それはまるで完璧にサバイバルゲームを使いこなすプロゲーマーかあるいはある種のアクション映画のように。リョウは銃撃する相手に向かって罠を仕掛け、暴漢らを軽々と、効率よく殲滅できるほどの力を身につけてしまっている。


◉リョウはセナのノートを振り返る。
(回想シーンの機能に近い)

②何度もセナは死ぬ。すると、リョウはループ世界のあることに気づく。
「もしかして、ここはほんとうにセナのノートの世界なんじゃないか? 壁の向こうから聞こえる銃撃は、そもそも実在するのか? (リョウはバッグ開いてもう一度、読み返してみる)やっぱりだ。セナのこのノートにはだれひとり銃撃者は描かれていない。このセナのノートつまり二次元の紙って、離れて俯瞰して見れば、ただの文字の羅列だ。ただのおれ、いやちがう。ただのニンゲンの都合で紙の上に並んだ書体の文字を、ニンゲンの都合で目で追っているだけじゃないのか? それって、常々セナがいっていた三次元より上の高次元の四次元や五次元とか世界じゃないのか? すべてのあまねく現象はさいしょからそこに存在していた。同時に、そもそも見えない触れない事象はそこには最初から存在しない」


新たなターニングポイント(新環境)


スーパー白馬の駐車場に❸❹❺が現れる(新環境)。
❸辰とワタベミノルの登場(≠8時間の誤差がある。後で考える)。
❹橘田とキムと義一の登場(手術と雪崩で≠2、3時間の誤差がある。後で考える)。
❺忍と銀の死体(ドラム缶)の登場(フルトレーラー≠12時間の誤差がある。後で考える)。
❼女兵士の登場(時間の誤差はなし)。

タイムループ⑨
➡︎リョウはセナが松ぼっくりを拾う前にもどる。
「おいセナ! 松ぼっくりは拾わないのか?」
「松ぼっくり? なんで? 」
セナは松ぼっくりを拾わない。
リョウは愕然とする。あたり一面、松ぼっくりだらけだった。

スーパー白馬襲撃事件

ループ①:発生

ループ②:運命の松ぼっくり

ループ③:ノートの黙示録

ループ④:リョウの気づき(4190文字)

「まてよ。運命の松ぼっくりって、そもそも存在するのか?」
 リョウはこの無限にタイムループする世界のある、恐ろしい事象に気づいた。
 もしかして、ここはセナのノートの世界なんじゃないか? 壁の向こうから聞こえる銃撃は、そもそも実在するのか? …… 」
「もしかして、ここはほんとうにセナのノートの世界なんじゃないのか? 壁の向こうから聞こえる銃撃は、そもそも実在するのか? (リョウはバッグ開いてもう一度、読み返してみる)やっぱりだ。セナのこのノートにはだれひとり銃撃者は描かれていない。このセナのノート、つまり二次元の紙って、離れて俯瞰して見れば、ただの文字の羅列だ。ただのおれ、いやちがう。ただのニンゲンの都合で紙の上に並んだ書体の文字を、ニンゲンの都合で目で追っているだけじゃないのか? それって、常々セナがいっていた三次元より上の高次元の四次元や五次元とかの世界じゃないのか? すべてのあまねく現象はさいしょからそこに存在していた。同時に、そもそも見えない触れない事象はそこには最初から存在しない…… 」
 リョウは涙を流した。ぽつぽつと涙で開いたノートのページが濡れた。インクで書かれた文字が蒼色に滲(にじ)んで文字は消えていった。
「それに、ここに書いてある、セナの五次元ってのが、ここにきてようやく体感できるぞ。セナはわざわざ、いまのおれに読ませるために、それのおつむがおバカなおれにわかりやすく、小説っぽくわかりやすくこのノートを書いてくれたのか?
 リョウは涙を拭って、血まみれになったセナのノートを開いた。
「あった! 」
 やはりセナのノートに、五次元について書いてあった。だがそれは、以前にリョウが読んだ内容と少し違っているように感じる。だが、銃撃の音は迫ってきていた。セナはリョウの膝のうえで虫の息だった。
「だいじょうぶだ。セナ、おれが助けてやるぞ。いいか、おれがセナの命はこのおれ助けてやるからな」
 リョウはセナの胸から溢れる血を手で押さえ、■折り鶴という項目を開いた。

■折り鶴

 セナはA4ノートをちぎって折り鶴を折り始めた。
「セナ、おまえいったいなにをやってるんだ? 」
 黙って見てて、と笑ってセナは黙々と折り紙を始めた。折り鶴と手裏剣が出来上がった。セナはリョウの両手のひらを広げて、それらをその上に載せた。またノートをちぎって、また今度も、折り紙をつくり始めた。カブトや紙ヒコーキやヤッコさんや紙フーセンを作った。セナはリョウの手のひらに乗せていく。リョウは両手をおおきな器にして、こういう危機的な状況にかぎって、セナってさァ、みょうに楽しそうな顔をするんだよなァー。とリョウは感慨ぶかげにわらった。リョウが広げる両手いっぱいに折り紙は積み上がった。しぜんとリョウは両手を壺(つぼ)のように丸めて、両手は、まるで少年サッカー大会の優勝カップのようになった。セナはそのなかから折り紙を一つ取り出した。
「この折り紙が入った、リョウの手の渦が六次元の世界だと架設するね」
「ろ、六次元の世界? 」
 リョウはじぶんの手でつくる優勝カップと、そのなかに収まった折り紙たちを見つめる。リョウは言葉を継いだ。
「このおれの手のなかに、五次元も四次元もふくまれているっていうわけなのか? 」
 リョウは目を瞬かせた。
「するどいね」
 セナは笑った。
「おれにはセナがやろうとしていることがまったく理解できないよ」
 リョウは首をかしげた。ちなみに、いまからぼくは七次元より以降の高次元をここで作り出すこともできる。セナはバッグから手鏡を取り出して、リョウの手を写した。リョウの手に収まった折り紙たちの像が、鏡にもうひとつ見える。
「これが七次元。いまはこれも、話を横に置いておくね。ちなみに、この『話を横に置ける』って、時間の時差も高次元なんだけど、『いまの三次元のリョウ』には割愛をするね」
 セナは苦虫を噛んだような顔をしたリョウの顔が映った手鏡を、再度バッグに納めて、またノートのもう一枚をはぎ、こんどはそれを千切り始めた。紙吹雪のようになるまで細かくちぎって、またリョウの手の優勝カップのなかにパラパラと入れた。これもおなじ五次元だ。けれど、またこれだけの説明ではとても話はややこしくなる。だからこれはこれでいまは『またべつの横に置いておく』。セナは小さな声で言った。よし。
 セナは手をパンと叩いた。よし。説明する準備は整った。
「では、この状態を、また元の状態にもどします」
 セナは優勝カップをつくったリョウの手から、折り紙たちをひとつずつ取り出して、それらを時間をかけて、A4ノートの一頁の紙にもどしていった。紙吹雪になったページは、これはさっき言った横に置いた次元のページね。と言う。それ以外はページの皺(しわ)になった部分を手のひらで延ばして、ノートは最初の形に収まった。
「この紙吹雪も、例外ではないんだけれど、いま三次元のなかでいきるぼくがもとの次元にもどすには時間がかかる。三日後の朝になっちゃう。けれど、この紙吹雪は時間させかければもとのノートにもどるよね」
 セナはいうと、たしかにな。紙吹雪だってパズルとおなじだから、時間さえかければ、どうにか元通りにはなる。リョウはうなずいた。
「この折り紙は五次元の世界なんだ。ノートの一冊は六次元。さっきリョウが優勝カップの渦にした手のひらに納めた。それらが束、扇の綴(と)じが、各それぞれの小宇宙の始まりだとすれば、ノート一冊は大宇宙になる」
「セナの正体って、もしかして、あれか? たしか、このあいだ亡くなった、世界ですんげー偉い宇宙物理学者の、なんちゃらホーキンス先生とかの血筋なのか? 」
 リョウは言って、それからじっと、セナの顔面をまじまじと見つめる。まさかぁ、この猿みたいな顔は純然たる日本人の顔だよな。それって宇宙物理学者のスティーブン・ホーキング先生ね。セナも笑った。
「とどのつまり、五次元とはさっきの折り紙の世界だ。時間と空間を自在に折りたためる世界なんだ。でもぼくらは三次元にいるから、時間を自在に操ることなんて、できっこない。ニンゲンは文字を一から順に追ってでしか理解することはできない。文字を絵で理解する。文字を音楽で理解する。その逆もだ。表現・現象の文字や記号への変換はできても、森羅万象の理解には限界がある。それが三次元で生きる人間の限界なんだ。なぜなら森羅万象には時間の経過がふくまれるからだ。人間は時間をまだ理解できていないから。文学のなかで現実ではあり得ない描写を読んで、えもいわれぬ感慨や感動を味わうのはそのためなんだ。それはニンゲンの脳の構造にあるのか、三次元で生きる生物の限界の問題なのか、三次元の世界で生きる生物だけで三次元以降の高次元の世界が解明できるかは疑問だけどね。それはまた『横において』おきます」
 セナがいうと、リョウはこくり。うなずいた。そうだ。セナ・ホーキンス先生、話を本筋にもどしてください。とリョウは笑った。セナはノートを開いた。
「このノートでもいい」
 セナは、持っているノートの、ページのどこかを開いた。ぱんっ。と手のひらを押し付ける。
「書物には、初まりが書かれてある」
 間があった。リョウは息をのんだ。
「書物は、ニンゲンの都合によってニンゲンを理解するために、ニンゲンの都合で、書物の初まりの文字、あるいは記号がある。ニンゲンは、最初の文字あるいは記号がならぶのを最後まで目で追いかけて、その書物の存在意義を理解する。ニンゲンにとっての時間にそって文字を追いかけた総合体の概念が、ニンゲンにとって意味のあるものとニンゲンが勝手に認識してきた。それが前提でニンゲンは進化を遂(と)げてきた。三次元のニンゲンは時間のながれにあわせた形で時間以外のものを統制してきた。それが三次元の世界だ。だが、三次元で生きるニンゲンは、四次元以降の高次元を展開する鍵である時間は制御できない。すくなくとも現在までは」
 セナはバッグから鏡を取り出した。鏡にリョウの手が映った。リョウの手は女のような細い節のある手だった。
「で、さっきいった七次元は時間を無視できるから、この鏡にはぼくのこの五次元の説明を聞く前のリョウの手が映っているはずだ。優勝カップのなかに折り紙が詰まった手とか。リョウの、ポカーンとした間抜けな顔だとか。だけどいまは三次元だから映ってはいない」
 たしかに、セナの言うとおりだった。
 セナは手鏡を出して、片手を伸ばした。鏡に、ふたりの少年が仲良く映っている。鏡のなかに、セナが手にノートをもっているのが見える。リョウはセナのほっぺにじぶんのほほをくっつけて笑った。
「ぼくはこのノートに、ありのままの宇宙を描いた。それだけなんだ」
「どういうことだ? 」
「タイムループはニンゲンが文字を発明して文字でこしらえた物語のように、この空間もニンゲンのニンゲンのためによるニンゲンの都合の産物なんだよ。だけど、じっさいの宇宙はニンゲンの都合でできえてはいない」
 タイムループはニンゲンが文字を…… もう一度リョウは、ノートに書かれた文字を、指の腹で押さえた。
 リョウはノートをパタリと閉じる。右手をあげて棚に掛けられた袋をむしり取った。口で包装を破った。ぺっ。三本あるボールペンから一本を出して、後の二本は、銃撃が聞こえてくる床へ投げ捨てた。あそこでひとりがボールペンで転ぶはずだ。
 リョウは、にぎった青ボールペンを口に咥(くわ)え、A4のノートを捲(めく)った。最後のページの隅に正の字を刻む。そのスペースにはすでによれよれに書かれた正が、五十二個、連ねて書いてあった。リョウはその下に、新たに一を書き加えた。リョウの胸でセナは息絶えていた。
 銃声のなかからブーツの足音が近づいてくる。リョウは商品棚に身を潜めて指を折ってタイミングを計った。まだ、遠すぎる。リョウは天井を見上げた。棚の角の影からスプリンクラーが見えた。前回は失敗だった。けどな、ブーツの音が少し遠いんだよな。リョウはぶつぶつと呟(つぶや)いて、両手で棚の下にならぶパーティー用品を床にかき集め、百円ライターで火を起こした。
「セナ。つぎは死なせないからな」
 リョウはセナの死体につぶやいて迫りくる銃弾のなかへと突き進んでいった。


ループ⑤:あたり一面、松ぼっくりだらけだった
「おいセナ! 松ぼっくりは拾わないのか?」
「松ぼっくり? なんで? 」
セナは松ぼっくりを拾わない。
リョウは愕然とする。あたり一面、松ぼっくりだらけだった。

ループ⑥:五次元のタイムループ:ループ⑦⑧と一緒にできるか?

ループ⑦:セナのノート(小説の文脈)に組み込まれてしまったリョウ(キャラクター)
リョウは驚嘆すべきことに気づいてしまった。セナのノートのなかでおれがなんども動きまわるうちに、おれ自身がセナのノートを改変しつづけているのではないか?

ループ⑧:リョウの決意:ループ⑥⑦と一緒にできるか?
「セナ、お前。そのノート使って、いったい何がしたいんだ? 」
リョウはセナを睨んだ。
「え? 」
「この国にただの革命を起こすくらいなら許す。けど」
「けど? 」
「それ以上おそろしいことを求めていたら、それはおれが全力で止める

ループ⑨:リョウの覚醒:


第六章 ファミリーズ白馬事件とその地下の全容

発生時刻:スーパー白馬襲撃事件(リョウのタイムループ)から二時間後

スーパー白馬の駐車場に❸❹❺❻❼が現れる(新環境)。
❸辰とワタベミノルの登場。
(≠タイムループのズレでスーパー白馬の駐車場に到着)。
❹橘田とキムと義一の登場。
(≠タイムループのズレでスーパー白馬の駐車場に到着)。
❺忍と銀の死体(ドラム缶)の登場。
(≠(≠タイムループのズレでスーパー白馬の駐車場に到着)。
❼女兵士の登場(時間の誤差はなし)。
❻義一の孫のガクトの登場(二章の伏線を文芸的タイムループで回収)

文学的な或る仮設

《リョウはセナのノートの登場人物だ。スーパー白馬の謎の襲撃事件に遭遇してタイムループに巻き込まれる。タイムループのなかで、リョウはじぶんの身代わりに際限なく死ぬセナを守るべく、凄まじい成長を遂げる。セナのノートの内容を変えてしまうほどに。》この仮設が通るならば、セナのノートにそれ以前に登場した別の登場人物たちもリョウとおなじように、別の角度で何らかの形で変化をしているはずだ。となると、他の登場人物たちは、リョウが変化させたセナのノートの裏(行間)で、おのおの変化していることになる。六章に再び登場するキャラたちはリョウとおなじく突飛な行動(文脈)をたどって、《怪物誕生》へと真っ直ぐに行動を取っても『物語:上陸者たち=セナのノート』のなかでは文脈は逸脱し(物語の骨格は破壊され)ないのではないか?


創作メモ:
■どんな些細なことでもタイムパラドックスは起こりうる(=バタフライ効果=風は吹けば桶屋が儲かる的なタイムパラドックス)。採用。
■特殊相対性理論=観測する場所(磁場)によって流れる(見える、観測する)時間が変わる。採用。
■セナは宇宙人だった=「涼宮ハルヒの消失」(元ネタ)NG!
■無限タイムループでのリョウの成長=「オール・ユー・ニード・イズ・キル」「TENET」(元ネタ)採用。


第六章(で、原稿用紙)160枚
大パラグラフ=4000文字

16パラグラフ=64000文字=原稿用紙160枚

第六章 

ファミリーズ白馬銃撃事件とその地下の全容


一         みんなが集まってくる
◉            グシと幽霊お婆
二        辰とワタベミノルの登場
◉         地下、信州第三事業所
三    ファミリーズ白馬銃撃事件の発生
◉          雪崩で到着したもの
四        犯行グループ(仲間割れ)
五  橘田隆行の娘の親殺しのパラドックス
六         見えない女兵士の出現
◉         地上の爆撃(鬼雲登場)
◉ 忍ヒロちゃんドラム缶、運ばれてきた女
◉ 翼の折れたオオワシを抱えるガクト登場
九      キムのリンチと処刑 / ループ
十      キムの生還(奇跡) / ループ
十一         銀次の復活 / ループ
十二          怪物誕生 / ループ
十三          ただの松ぼっくり

(第二部・完)


下記(軍隊の本土の戦い)は、「上陸者たち:後編:200枚」に回す。

第五章  無法列島(辰、忍、鬼雲の視点)
一               東部連隊
二        民間武装蜂起(大町村)
三       民間防衛(忍は安曇野に)
四                 戦場
五           諏訪ロックダウン
六              VS 東部連隊
七               無法地帯
八           バトルロワイヤル
       スーパー白馬事件 / ループ⑤


「上陸者たち:第三部:首都消滅:200枚」


主人公「リ・ジヨン上士」→松田翔太(日本名)二十七歳

周りにあるものを何でも吸収してしまう、まるでブラックホールで出来たゴジラのような真っ黒い怪物を追いかける松田の物語。


■□

リョウは、タイムリープを変える、あるポイントに気づく。

(マクガフィンのバトンタッチ)

「まてよ。運命の松ぼっくりって、そもそも存在するのか?」
(リョウのただの勘(思い)違い、ただの解釈のずれ)
ここで上記の「リョウの回想シーンを挿入」
リョウはループ世界のあることに気づく。
もしかして、ここはセナのノートの世界なんじゃないか? 壁の向こうから聞こえる銃撃は、そもそも実在するのか? …… 」



リョウは、一応、松ぼっくり二個をバッグにいれて、セナを連れて十字路の向かいに見える「ファミレス」へと逃げ込む。
だが、ファミレスでもおなじ暴漢らの襲撃が起こる
ファミレスで③④⑤(グシも含めて登場)
女兵士は(光学迷彩を着て)ファミレスに登場する。

■白馬の駐車場❾からは、セナは死なない。

「セナ、もう少しノート描いてたいのはわかるけどさ、タクシーからさっさと降りろ」
「え? 」
 セナは顔を上げた。
「おれには、セナと違って、これからやらなきゃいけないことが山ほどあるんだ」
 リョウはセナをタクシーから降ろした。セナは赤松の下に座って、松ぼっくりを拾って手のひらに乗せた。ためつすがめつ、にぎってみたりする。ちょうどいいな。この大きさ。セナは笑っている。
「セナ。松ぼっくりは土産かおまえの特別なまじないかなにかなのか? 松ぼっくりは松ぼっくりだ。そんなの選んでる時間なんかないんだ。これとこれでいいだろ」
 リョウは足元にある松ぼっくりをふたつ拾った。
「これにしろ。松ぼっくりは松ぼっくりだ」
 リョウはそう言ってバッグに松ぼっくりをふたつ入れた。バッグから万札を数枚だして折って後ろのポケットにねじ込み、バッグはセナに渡した。
「セナ。よく聞くんだ。お前は後ろをふりむいたまま、道の向かいにあるファミレスに入るんだ。ファミリーズ白馬店だ。チェーン店だから間取りはわかるな。おれらがいつも入るファミリーズ親不知店とおなじ間取りだ。ガラス沿いの席の通路を歩いたどんつきのトイレの手前の右のボックス席に座れ。そこで暴漢らの銃襲撃事件が起こる。セナはおれを待つんじゃない。その席で暴漢らの襲撃が発生するのを待つんだ。その席からなら透明のマントがひらひら揺れるのがよく見えるがずだ。それからセナはある奇跡を目撃する。その襲撃現場では目に見えないマントを着た女兵士がお前を助ける。そのひとは中国人の女でセナ、おまえが一目惚れするほどの美人だ。じじつ、セナはその中国人女性兵士に一目惚れをする。セナ、いいかよく聞け。そこに、みんなが集結する。おれたちが追っているツバメを生き返らせた北の兵士も、銀の手下の角刈りの辰も、ドラム缶のなかで溶けた銀の死体も、みんなあそこ(リョウはファミレスを指をさす)に運ばれてくる。あそこの地下だ。ファミレス襲撃事件の後、みんなは揃って、その地下に潜りこむ。暴漢らはそこで仲間割れをするからだ。銀の手下の辰と、忍(しのぶ)っていう裏社会では伝説のオヤブンさんがみんなを地下へと誘導してくれるはずだ。それと地上は破壊される。レストランの一階はミサイルで爆撃されるんだ。まわりで起こっている自衛隊同士の戦いが過激さを増して、ここら辺一帯は戦場と化すからな。地下では、ものすんごいことが起こる。それは、この宇宙がいっぺんに終わってしまうような奇跡だ。その地下で、セナはそれを目の当たりにする」
 セナの目は震える。その目を見て、リョウは笑った。
「リョウ。なんで、きゅうに、そんな恐ろしいことを言いだすの? 」
 とセナは言った。
「セナ。しっかりしろ。これおまえが書いたんだろ」
 リョウはバッグからセナのA4ノートを取り出した。それを広げて、セナに渡した。セナは受け取った。
「そのノートをから目を三十センチくらい離して見てみろ」
 セナは、リョウに言われるままに、A4ノートから三十センチほど、顔を離した。罫線に挟まれて文字がぎっしりと書いてある。
「そうだ。これをおまえが書いたんだよ」
「だから? なに? 」
「おい、マジかよっ! じゃあ、ここ。この場面のつづきから、セナおまえが音読してみろ」
 リョウは、開いたノートの最後のほうに、指をあてた。
「大きい声で、おれのセリフだ」
 リョウは迫るように言った。セナはA4のノートに顔を近づけて、リョウのつぎのセリフを読み上げた。
「おれはな。何度もこの目で目撃したんだ。何千回、何万回もな。これが最後かもしれない。そう願って、セナを救おうと、その次は、その次は絶対だって、セナの運命はおれが変えてみせる。おれはきっとセナの運命を変えられると信じて」
 リョウは涙ぐんだ。鼻の穴から鼻水が出てきた。
 リョウは鼻汁を啜って、セナの音読を遮(さえぎ)った。ノートをパタリと閉じた。リョウは話をつづける。
「おれは、おれが考えられるパターンはすべてやった。前回もおれはセナを救えなかった。おれは何万回もセナを救えずに、セナのあらゆる死にざま、死の瞬間を目撃してきた…… 」
「リョウはいったい、なにを言っているの? 」
セナはリョウを見つめる。リョウはファミレスを見つめる。それからリョウは顔を、山をなめて天まで見上げた。まるでファミレスの地下から、巨大な怪獣でも現れるかのように。
「そうなると、むしろだ。あの真っ黒な怪物にこそ、宇宙を変える未来があるんじゃないか? ってそう思い始めてきたんだ」
リョウはセナにバッグを肩に掛けて、松ぼっくりを二個いれる。ファスナーを閉じる。セナは回れ右をさせられ、背を力強く押された。前にむかって歩きだす。
「ふりむくな」
 セナは歩いて道路に出た。
 目の前の十字路まであるいて横断歩道で立ち止まった。赤信号だった。
 パンパンっ。乾いた音が聞こえ、目の前を歩いていた老人が打たれて、横断歩道に倒れこんだ。こめかみから血が流れている。赤信号を待っていると、真後ろの駐車場から、リョウの大きな声が聞こえる。
「シャーッ! 最初から、いっただきだぜ! チ、ヨ、コ、レ、イ、ト。ジャーンケーンっポイッ。やったー。また勝ったァ。グー、リー、コ。ジャーンケーン。ポイッ! ひゃっほー。これで、念願の、三連チャンだぜェー! せぇーの、パ、イ、ナ、ツ、プ、ル……。
 ばばば、ばばばばばばばばばばばばばば…… 
 リョウのほうから銃声が、凄まじい勢いで店内に轟きはじめた。


短歌:

四百字
書き始めたら
二万字超え
プロット進み
結果オーライ

解説:十二時間があっちゅう間。久しぶりに生きた手応え。


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