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『進撃の巨人』 もはや芸術作品レベル

『進撃の巨人』(Attack on Titan)――いわずとしれたこの大ヒットアニメ・漫画は、いかにしてグロいアニメ嫌いのわたしの心すら奪っていったのだろうか。まさに巨人のように、突如として現れ、圧倒的な存在感でわたしを魅了した。

最近TIKTOKでCall of Silenceという曲を知り、それが『進撃の巨人』とわたしを結び付けた。正確には、『進撃の巨人』の存在は知っていたが、グロくて見る気がしなかった。優れた作品はいつかどこかで触れることになることが、その媒介が今回はCall of Silenceだった。曲の世界観がわたしの感受性を刺激した結果だった。


そのテーマ性・ストーリー性で他の名作の追随を許さない(わたしの中での『進撃』)



それでは、なぜ当該作品がわたしを魅了できたのか、その謎に迫るべく、これから深淵へと潜り始めたい。いや、まさに地下室へと降りていくように。そこは三つの扉が並ぶ空間。一つ一つの扉を開けていこう。きっと奥には、多くの人を魅了してやまない、あの独特な世界が広がっているに違いない。


1.ユニークで魅惑的な世界観

まず、足を踏み入れたこの部屋は、独特の空気に満ちている。そこは、あの『進撃の巨人』の世界そのものだ。

巨大な壁に囲まれた人類の居住区画。そこは、外の世界から隔絶された、閉じられたユートピアのようでありながら、同時にディストピアの香りを漂わせていた。なぜなら、そこは巨人という名の絶望に常に脅かされる世界だったからだ。

では、なぜわたしはこの世界観に魅了されたのだろうか。それはきっと、この世界が持つ独特の魅惑と、緻密に練り上げられた謎にある。

巨人の存在は、まさにこの世界観の要だ。人類を脅かす獰猛な捕食者としての巨人。しかし、その正体は謎に包まれており、さらに多種多様な巨人の存在が明らかになるにつれ、複雑な神話のような奥深さを感じさせる。知性を持つ「九つの巨人」や壁を作る「始祖の巨人」など、彼らは単なるモンスターではなく、この世界の神話や歴史を体現しているかのようだ。

そして、この世界は単に巨人の脅威を描くだけではない。強固な階級制度、情報統制、国際関係――これらは私達の生きる社会を反映した要素であり、この世界観にリアルな厚みを加えている。この世界は、私達が生きる現実と地続きであることを感じさせるのだ。それは、ある種のコインの裏表のようなものだ。

作者の諫山創氏は、この世界を創造するにあたり、綿密な世界構築を行ったに違いない。例えば、中世の雰囲気を感じさせつつも、蒸気機関のような独自の技術が存在する世界観。馬や剣、銃器が並存するこの世界は、私達の知る歴史に似ているようで、全く異なる独自の世界として成立している。

この部屋を後にする前に、もう一つ思い出したいのは、この作品がわたしに投げかける「壁」の存在だ。私達も壁に守られているが、同時に壁に閉じ込められている。この閉塞感は、ある意味で現代人が抱える不安や閉塞感を象徴しているのではないだろうか。私達もまたは知らず知らずのうちに、様々な「壁」に囲まれて生きているのかもしれない。


2.複雑で奥深いキャラクター性

次の部屋へと進む。ここは、登場人物たちの部屋だ。読者・視聴者を魅了してやまない、この物語の核をなす存在である。

まずは、主人公のエレン・イェーガー。激情型の彼は、巨人たちへの復讐心に燃えていたが、実は「始祖の巨人」の継承者であり、その力は時に彼を苦しめることになる。エレンは、正義と激情の間で葛藤し、時に非道な選択を迫られる。彼は、わたしの心の奥底に潜む「闇」を体現しているかのようだ。

そして、ミカサ・アッカーマン。彼女は、エレンに救われた過去を持ち、彼に忠誠を誓う強い女性である。その内面は、エレンへの深い愛情と、自分自身のアイデンティティの葛藤が入り混じっている。ミカサは、エレンを通して、自分の存在意義を見出そうとしているようにも見える。

アルミン・アルレルトは、当初は気弱な少年だったが、巨人への恐怖を克服し、知性で立ち向かう勇気を身につけていく。彼は、エレンやミカサとは異なる視点でストーリーに関わり、しばしば重要な役割を果たす。アルミンは、私達の「知性」や「成長」を象徴しているキャラクターなのかもしれない。

他にも、人類最強の兵士リヴァイ兵長や、調査兵団の団長エルヴィン・スミスなど、魅力的なキャラクターたちがいる。リヴァイは、圧倒的な戦闘力を持ちつつも、謎めいた内面を持つ。エルヴィンは、非情な決断も下すリーダーとして、人類の存続という重責を背負う一方で知的探求心が彼を突き動かしていることも明らかになる。彼らは、私達に「強さ」、「リーダーシップ」、「倫理」についての問いを投げかけているようでもある。

この部屋で思い知らされるのは、彼らの奥深さと複雑さだ。単純なヒーローではない。それぞれの葛藤や成長、関係性の変化を通して、受け手に深い考察を促す。彼らの行動は、常に白黒つけられないものばかりで、それが物語に深みを与えている。


3.社会への鋭いメタファー

最後の部屋へと足を踏み入れる。ここは、より抽象的でコンセプチュアルな空間だ。ここでは、この『進撃の巨人』という物語が、私達の生きる社会とどのように関わっているのかを考える。

巨大な壁に閉じ込められた人類。この設定は、私達が直面している社会の抑圧や不自由さを象徴しているのではないだろうか。巨人は、ある意味で私達の不安や恐怖を体現している。そして、壁は権力やメディアによる情報操作、階級や富の格差など、私達を取り巻く様々な「壁」を想起させる。

また、巨人たちも単なるモンスターとしてだけでなく、社会的なメタファーとして解釈できる。知性を持つ巨人は、権力者やリーダーたちの姿を投影しているようだ。彼らは、時に人類社会に大きな影響力を持ち、それぞれの目的や思想で動き回る。それは、私達が直面する複雑な社会問題を象徴しているようにも見える。

そして、マーレ国とエルディア国の対立は、国際関係や人種間の衝突を連想させる。ここでは、差別や偏見、ナショナリズムといった問題が孕まれている。また、巨人の力による破壊と再生は、環境問題や大量破壊兵器への警鐘のようにも見える。

『進撃の巨人』は、私達に単なるエンターテインメント以上の何かを与えてくれる。それは、私達の社会や世界への洞察であり、メタファーに満ちた批評だと思う。この作品は、受け手に深い考察と議論の余地を与え、より豊かな解釈の可能性を示唆しているのである。


さて、三つの部屋を巡る旅は終わった。しかし、まだまだ語り尽くせない魅力に満ちているのが『進撃の巨人』という作品だろう。この作品は、わたしの心の中に、もう一つの「地下室」を作ったのかもしれない。そこには、まだ解き明かされていない謎や、奥深い考察が眠っている。

Call of Silenceを聴きながら、この壮大な物語を整理してみた。もう一つの「地下室」では、わたしの中でのニーチェの世界観とこの作品が強烈に共鳴しているという物語はまた今度にしよう。

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