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孤独

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孤独にまつわる、悲哀、切望、暖かさを、赤裸々にしたためます。
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#エッセイ

牡丹雪がふる街で

牡丹雪がふる街で

雪が降ると、辺り音が止む。

僕が世界から取り残されたような静寂。

氷の結晶が落下していくとき、周りの空気を巻き込んで、

冷気のカーテンが僕らの生活音を遮断する。

深々と降る、雪。

東京に大雪が降った、3月29日の朝。

それは静かだった。

自粛を要請され、それぞれの家で、それぞれの場で、生活をしている。

別に当たり前のこと

生活をするということ、それ自体。

確かに目に見えない危険

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春は揺れている

春は揺れている

春。

芽吹きの季節。

若い緑が顔を出し、桜が咲き誇り、暖かな陽ざしに包まれて、
なんだか心地が良くなってしまう、春。

僕は春が苦手だ。

なぜだか浮ついてしまう春に、居場所を見失ってしまう。

流れて、移っていくには穏やかすぎて、
愛を語るには陽気が過ぎて。

別れと出会いの季節だと、使い古されてきた言葉たち。

いつだって別れも出会いもあるけれど、
特別視されてしまう、春。

僕は、期待し

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「好き」は一方通行

ある日、親友は僕に告げた。

「もう少し、『好き』って何かを考えなよ」

え。

好き、って好きでしかないじゃない?

説明しようとすれば、いくらだって言葉が弾む。

僕は人間が好きだ。

僕とは全く持って違う人間が。

何を考え、何を嗜好し、何を言葉にするのか。

言葉にできない微細な表情の変化も。

言葉になる前のとっさの行動も。

僕とは何一つ異なる。

その違いに、どうしようもなく打ちのめ

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新宿駅の匂い

新宿駅の匂い

人には忘れられない匂いがあるとしたら、
貴方は、どんな匂いを思い返すだろうか。

僕にとってのそれは、14歳の冬の新宿駅の匂い。

初めて好きになったアーティストの初めてのライブ参戦。

山と空に囲まれた小さな村に生まれ育った。

冬の澄んだ空気は鼻の奥を突き刺してくる。

近いようで遠い東京。

初めて乗り継いだ電車。

ひとりってこんなに心細かったっけ

一駅、二駅、過ぎてゆく毎に増える人。

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