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思い出すクスリ

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未来は変えられる。頭の中にしかないから。 過去も変えられる。頭の中にしかないから。 ゲンジは前に進むために、過去を道連れにする。 記憶を切り裂いて、運命の女に会いに行く。
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思い出すクスリ:画像更新

思い出すクスリ:画像更新

公開していた小説『思い出すクスリ』をビミョーに更新しました。

https://note.mu/antenna_t/n/na0a5cb34b2db?magazine_key=m0c11177e2abe

各ページに画像付けて、ちょっと見やすくなったはず!?

まだ、読んでない方、ぜひチラットだけのぞいてください。

なんの取り柄もないアラフォー男が、記憶をいじれるドラッグで

初恋の女を思い出して

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思い出すクスリ:おまけ

思い出すクスリ:おまけ

フィクションです(無論ですが)。

小説サイトのCRUNCH MAGAZINEで公開してたテキストをnote用にリライトしてみたのですが、まー自分で手を入れるのも限界がありますね・・・。

ベースは、5~6年前に文藝賞に応募して、箸にも棒にもかからなかった作品です。まーこの程度じゃ当然でしょね。

普段はどーでもいい広告のライティング仕事で忙殺される日々ですが、やっぱり自分の作品をつくって、見ても

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思い出すクスリ:chapter 48【END】

思い出すクスリ:chapter 48【END】

どれだけ眠ったのだろう。

目が覚めると、まだ部屋は薄暗かった。

部屋を満たすヒンヤリと張り詰めた空気に耳を澄ます。

微かな寝息が聞こえた。

傍らには、首筋に赤黒いアザをつけた女が裸のまま横たわっている。

ナオの寝顔はおだやかに微笑んでいるように見えた。

その瞬間、全身から冷や汗があふれ、嗚咽がこみ上げた。

くっきりと両手に残る折れそうな細い首の感触……。

ゲンジは、震える手でナオの

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思い出すクスリ:chapter 47

思い出すクスリ:chapter 47

夢を見た。

トモコとナオが仲よく手をつないで、深い緑の森に入っていく。

空はルビー色。

ターコイズブルーの満月が浮かんでいる。

「ここだよ」

トモコが指さした場所には、小さくて真っ白い花が一面に咲いていた。

to be continued.

思い出すクスリ:chapter 46

思い出すクスリ:chapter 46

「ゲンジさん、だいじょうぶ?」

ナオの声が響き、ゲンジはハッと我に返った。

心配そうにのぞき込むナオと目が合う。

薄暗い部屋がゆがむ。

その瞬間、今まで感じたことのない冷たい感情が全身を貫いた。

終わりにできる、すべて許される……。

クチャ……

割りばしをへし折るような乾いた音が部屋に響いた。

左のほほを振り切るように殴りつけられたナオのおびえた表情。

過去にマトモに人を殴ったこ

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思い出すクスリ:chapter 45

思い出すクスリ:chapter 45

Spring 2008

ゲンジの先端はうつむいたまま動かなかった。

ふと、トモコの実家前での儀式を思い出した。

ナオと紡いできた、捏造のトモコ。

下半身に絡みつくやわらかくて、透明な肌。

細くて折れそうな首筋の感触。

記憶の中で肥大化した幻を、トモコの実家の前で葬ってきた。

オレの腕に抱かれ、歓喜の声を上げていたトモコ。

本当はずっとオレのことが好きだったと言ってくれたトモコ。

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思い出すクスリ:chapter 44

思い出すクスリ:chapter 44

Spring 2008

ゲンジは、2か月近くナオを探し続けた。亡霊のようだった。

これほど依存していることに気づかなかった。

一緒に育てたトモコを連れ去ったナオ。

怒りのような感情さえ芽生えていた。

ただ、単純にそれが理由でないこともわかっていた。

仕事もうまくいかなくなっていた。

実績を考えれば、あり得ないミスをして、会社に莫大な損害を出し、

居場所がなくなるところまで追い詰めら

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思い出すクスリ:chapter 43

思い出すクスリ:chapter 43

Winter 2007

2週間ぶりに、店に復帰したナオに従業員が心配そうに話しかけた。

「なにかあったら、なんでも言え」

「いつでも相談にのる」

パートのおばちゃんたちの厚意は素直にうれしかった。

仕事が終わったあと、パートのおばちゃんたちとご飯を食べに行った。

父親が余命3か月だと伝えるとひとりが涙ぐんだ。

それを見て、ナオも涙が出た。

病院では、まったく泣かなかったのに。

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思い出すクスリ:chapter 42

思い出すクスリ:chapter 42

Winter 2007

あれから3週間、ゲンジは毎日『キセキ』に顔を出した。

ナオが消えた。

渋谷や新宿にある系列店ものぞいてみたが、結果は一緒だった。

以前聞いたケータイのメアドは不通になっていた。

タケルも何も知らないといった。

ウソではないだろう。隠すメリットはない。

毎週月曜、東京近郊の出会い喫茶をのぞいて歩いた。

ネットの風俗情報掲示板の『キセキ』スレッドを片っ端から見た

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思い出すクスリ:chapter 41

思い出すクスリ:chapter 41

Winter 2007

ナオは、秋田市内の実家にいた。

父親ががんになった。

余命3か月。

末期の肺がんで手術はできないと告げられた。

父親は入院することになり、近くに住む妹が週に数回、様子を見てくれることになった。

「軽い肺炎なんだって」

父親にはそう告げた。

ここ5~6年、まともに仕事もせず、

酒ばかり飲んでいた小さな男は、情けない笑顔を見せた。

「身のまわりのもの、とりあ

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思い出すクスリ:chapter 40

思い出すクスリ:chapter 40

Winter 2007

『キセキ』のドアを開けるとタケルが浮かない顔をして立っていた。

「ナオいる?」

「今日は来てない」

「そうか……」

「ゲンジさん、M食ってんの? 気をつけたほうがいいぞ、マジで。うちも迷惑なんだ、はっきりいうと……」

タケルの声を上の空で聞いていた。

楽しい時間は突然終わる。

学生の頃、タケルのドラッグ部屋が解散になったときを思い出す。

「ワリィ、今日で最

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思い出すクスリ:chapter 39

思い出すクスリ:chapter 39

空っぽな人生を支えてくれたのは、いつもトモコだった。

小学校の頃から、ずっとずっとトモコが好きだった。

どうにもならないから、いつも気持ちを押さえつけていた。

熱くならないように、静かに冷たく、トモコへの気持ちを育てていた。

 

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自伝的記憶は、記憶のなかでも個人的な事実や出来事、

人生経験から成り立って

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思い出すクスリ:chapter 38

思い出すクスリ:chapter 38

記憶をねつ造しながら、過去という迷宮の奥へ奥へとダイブしていく。

それがMの醍醐味だ。

変性意識のなかで、偽りの思い出が事実より鮮明に上書きされていく。

ただ、リスクは大きい。

人間は自分の経験をベースにして生きている。

そのため、過去が揺らぐと面白いほど安定感を失う。

「過去をすべて捨てろ」というのが自己啓発セミナーの常套句だ。

過去にメスを入れれば、人間はたちまち不安定になり、何

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思い出すクスリ:chapter 37

思い出すクスリ:chapter 37

Summer 1995

トモコはピーチ味の安酒を飲み続けた。

ほほを赤く染めたトモコを見ていると気が遠くなりそうだった。

ニルヴァーナのPVで引き留めたものの、

観る頃にはトモコはゲンジのベッドで寝息を立てていた。

安心しきっていた。

子どものような寝顔だった。

部屋にカギをかけ、ゲンジは身体を酔いに任せた。

憧れ続けた甘い唇を味わい、首筋へ。

トモコは起きなかった。

制服のY

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