高橋アンテナ
「結婚してよかったと思う?」「独身だったらクソ人間のままだったよね」 出張先のビジネスホテルで、昔好きだった女と会った。なつかしい匂いがした。
私はある日突然、新宿の路上で地味な女をナンパした。そこが、果てしない虚無の宇宙の入口だとは知らずに……。
未来は変えられる。頭の中にしかないから。 過去も変えられる。頭の中にしかないから。 ゲンジは前に進むために、過去を道連れにする。 記憶を切り裂いて、運命の女に会いに行く。
不倫関係にあった高校の先輩しんちゃんとの別れ際に私は言った。「別れてあげるから、型を取らせて」。そして、私はチョコレートブラウンのパーツになったしんちゃんと旅に出る。行き先はわからない……
日々のこと書いてみます
「びっくりしないでね……」 チョコレートブラウンのしんちゃんをバッグから取り出すと、 ジョージは困惑とも侮蔑ともつかない表情でそれを見つめていた。 いや、そんなのこっちの思い込み。 ジョージは、なんにも見てなんかいない。 お願い、私を見て……。 私はワンピースの下にしんちゃんを潜り込ませ、 ショーツの上からアソコにあてた。 ジョージに汚されたお気に入りのブルーのワンピ。 その瞬間、コバルトブルーの海が流れ出す。 リーフの先の、水深100m超えのドロップオフ
~CONVERSATION 02~ 「例の女、どうなった?」 「やっと別れた」 「ついに?」 「今度はマジで」 「家まで来たんだろ? よくそんなアブねー女に入れ上げたよな」 「そんな女に見えなかったし」 「どう化けるかわからないよな、確かに。でもいい女なんだろ?」 「カーストだとかなり上だと思う」 「じゃなんで男いないのよ?」 「わからん、マジで謎」 「あっちもいいの?」 「オレ的には、かなりよかった」 「38だっけ?」 「そう」 「いや~い
「ごめん……触られるの苦手なんだ」 絹糸のような声は、空っぽな部屋を虚しく彷徨った。 高くもなく、低くもない、陽炎のような余韻の周波数。 ジョージのツルツルの腕に伸ばした私の手がやわらかい「無」をつかむ。 ちょっと……勘違いしないでよ……。 言おうとしたけど、言葉は出てこなかった。 この部屋には響かない。 そんな気がした。 だから、こう言った。 「はやくオナニー、見せてよ」 ジョージの笑った目は、色のないビー玉のようだ。 澄んでいて、
ダークブラウンのフローリングの上に、 無垢材らしいシンプルなローテーブルとベッドが置かれた部屋。 あとは、小さなパソコンデスクの上に、iPodをつなげるBOSEのスピーカー。 壁に取り付けられた自転車を引っかけるフックが不気味に光る。 残りは大きなクローゼットに全部入ってるのか……。 最近の男子の部屋ってこんな感じ? いかにもおしゃれファッション誌に出てきそう。 でも、人間のニオイがしない部屋。 流れるのは、ベートーベンの「悲愴」。 ピアノじ
しんちゃんは、結局、私をどこにも連れて行ってくれなかった。 仕事からも社会からも離れて、遠くへ行けると思ってた。 ガラスの靴をはいて、ありもしない階段を登ってた。 それにしても、どこへ行こう……。 家を飛び出してはみたものの、行くあても目的もない。 バイブのしんちゃんは、私をどこかへ誘ってくれるのだろうか? カバンの上からその輪郭を確かめる。 「型」にはまったオトコの象徴。 結局、家庭という「セカイ」に戻ったしんちゃんそのものだ。 まずは、空
~CONVERSATION 01~ 「アカリさん、どうしてるかね?」 「アカリ? さあね」 「あんなにあっさり辞めちゃうと思わなかった」 「自業自得でしょ。もともと何の役にも立ってないし」 「確かにね~。あの人、何だったんだろ?」 「社長の愛人だったんじゃないの?」 「やっぱり? そうとしか考えられないよね」 「うわ~想像するだけでキモイ……」 「でも、マネージャーなら、せめてシフトの管理くらいしろよな」 「あんなになんにもできない女っ
チョコレートブラウンのしんちゃんをぎゅっと握ると重力を感じられる。 ヴァイブのしんちゃん。 両手に持ち替えて、バットみたいにスイングしてみる。 ばかみたい。 平日の昼間っからこんなことをしている私は滑稽だ。 こっけい。へんな言葉……。 結局、まともに電源を入れることもないまま、1か月以上が過ぎた。 今ではリビングのインテリアのひとつとして、 すっかり馴染んでしまったヴァイブのしんちゃん。 オープンラックの片隅に元からある模様のように収まってる
「別れてあげる。その代わり、型を取らせて」 西陽が射し込む1LDKの私の部屋。 準備してあった石膏のキットでしんちゃんの大きくなったアソコをはさんだ。 ギンギンになるように私も裸になった。 しんちゃんはスイッチが入ってしまったらしくて、 「本当に最後」と言いながら私を抱いた。 しかも、ナマで。 子どもができたって言ったらどうするつもりなんだろう……。 バカな男。 本当の人間のクズってたぶんこんな男。 結局、申し訳なさそうに私の胸の上で果てた。
女は、朝9時に部屋にやってきた。 ブルーのニットワンピースがよく似合っていた。 長らく専業主婦をしていた彼女だったが、今は地元の広告制作会社でパートを始めていた。 ダンナと小学生の娘を送り出し、仕事に行く用意をして、ここにやって来た。 少しやせた手足はスラリと長く、表情にもどこか気品が漂っていた。 ベッドサイドの狭苦しいイスに腰を下ろし、昨夜買っておいたビールをグラスに注ぐと、「朝から飲むなんて、何年ぶりだろ……」と笑った。 そして、地域社会がいかに狭いか、ママ友
ほの暗いビジネスホテルの一室で、女の残り香にもたれていた。 眼下には、夕闇に包まれた富山市街のまばらな夜景。 昼間はきれいに見えた立山連峰は、シルエットだけを残して、闇に紛れてしまった。 会社にウソをついて、出張の予定を1日延ばし、昔好きだった女と会った。 女は、「富山は狭いから」と言って、ホテルで会うことを望んだ。 「子どもが帰ってくるから」と言って、女は夕方4時に去っていった。 それから2時間、私は枕に残るなつかしい匂いに顔を埋めていた。 このまま時間が止ま
公開していた小説『思い出すクスリ』をビミョーに更新しました。 https://note.mu/antenna_t/n/na0a5cb34b2db?magazine_key=m0c11177e2abe 各ページに画像付けて、ちょっと見やすくなったはず!? まだ、読んでない方、ぜひチラットだけのぞいてください。 なんの取り柄もないアラフォー男が、記憶をいじれるドラッグで 初恋の女を思い出して、あんなことやこんなことをする どうしようもない小説です。 ひまつぶしにピッ
カオリとまだ会っていた。 といっても2か月に一度くらいだが。 最近、乱交パーティ狂いの彼氏と正式に付き合うことになったらしい。 何が「正式」なのか私にはよくわからないが、 相手が泣きながら「付き合ってほしい」と言ってきたとかなんとか。 結局、ふたりとも眠剤とか安定剤とかを処方されてるお似合いさんなのだ。 「最近やっと眠れるようになってきたんです」 「よかったね。新しい仕事合ってるんじゃない?」 「そんなこともないですけどね……。でも遅刻しても何にも言われないユ
フィクションです(無論ですが)。 小説サイトのCRUNCH MAGAZINEで公開してたテキストをnote用にリライトしてみたのですが、まー自分で手を入れるのも限界がありますね・・・。 ベースは、5~6年前に文藝賞に応募して、箸にも棒にもかからなかった作品です。まーこの程度じゃ当然でしょね。 普段はどーでもいい広告のライティング仕事で忙殺される日々ですが、やっぱり自分の作品をつくって、見てもらえるのはテンション上がります。 noteには、こんな体験ブログみたいなのもU
どれだけ眠ったのだろう。 目が覚めると、まだ部屋は薄暗かった。 部屋を満たすヒンヤリと張り詰めた空気に耳を澄ます。 微かな寝息が聞こえた。 傍らには、首筋に赤黒いアザをつけた女が裸のまま横たわっている。 ナオの寝顔はおだやかに微笑んでいるように見えた。 その瞬間、全身から冷や汗があふれ、嗚咽がこみ上げた。 くっきりと両手に残る折れそうな細い首の感触……。 ゲンジは、震える手でナオの頬の体温を確かめ、髪をなでた。 やさしく、やさしくなでた。 ナオの輪郭を彫り
夢を見た。 トモコとナオが仲よく手をつないで、深い緑の森に入っていく。 空はルビー色。 ターコイズブルーの満月が浮かんでいる。 「ここだよ」 トモコが指さした場所には、小さくて真っ白い花が一面に咲いていた。 to be continued.
「ゲンジさん、だいじょうぶ?」 ナオの声が響き、ゲンジはハッと我に返った。 心配そうにのぞき込むナオと目が合う。 薄暗い部屋がゆがむ。 その瞬間、今まで感じたことのない冷たい感情が全身を貫いた。 終わりにできる、すべて許される……。 クチャ…… 割りばしをへし折るような乾いた音が部屋に響いた。 左のほほを振り切るように殴りつけられたナオのおびえた表情。 過去にマトモに人を殴ったことなどゲンジにはなかった。 しかし、右手の鈍い痛みが断片化した記憶をつないでい