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南桐弥「きまぐれドーム」(「よいこのanon press award 2023」最優秀賞作品)

15歳以下を対象にしたSF作品コンテスト「よいこのanon press award 2023」の最優秀賞受賞作品である、南桐弥「きまぐれドーム」を全文掲載いたします。

◆あらすじ

天候などの事象を操作できる巨大なドームで生活する〈僕〉は、終業式を迎えた日、友人の井伊からとある提案をされる。それは「ドームから出ろ」というものであり……。

◆審査員による講評

「きまぐれドーム」は、審査員全員「どこか不穏な感じがする」と言っていました。読み解こうとして追いかけていけばいくほどつかめない作品で、審査員たちの理解を超えたその存在感に、未来のSFを拡げる端緒があるのではないか、という印象を強く抱きました

渡邉英徳

「きまぐれドーム」は当初そこまで点数は高くなかったんですが、みなさんと議論していく中でおもしろさが際立ってきました。今仕事の関係で欧州を周っているのですが、先日、リトアニアで開催されたバルティック・トリエンナーレであるパフォーマンスを観た際に、本作のことを思い出しました。そのパフォーマンスは演者が40分の間ずっと「意味をつくり出さず」に踊りや喋りを披露する、というものでした。私たちはある事象に対してどうしても意味や意図を見出したくなってしまうものですから、そうした人の想像を常に外し続ける構造をつくるのは非常に難しいことだなと実感しました。そういう意味での凄みが「きまぐれドーム」にはありましたね

青木竜太

大賞の「きまぐれドーム」は初めて読んだときから候補になるだろうな、とは予感していました。ただ、事前審査の時点では「オリガミの街」よりも点数が低かったんです。これは「自分が知っているSF」という観点で採点してしまったところがあったと思います。そのため「よくわかんないな」と感じるところが多くあったんですが、いざ審査会を開催してみたら、全員同じような咀嚼しきれなさを感じていたことがわかり、議論が盛り上がったんですね。本作には時代設定やSF的な説明などから漏れ出ていく部分が多くあるのですが、その具合が妙に心地よく、印象に残りました。狙って出しているのかわからないところもありましたけど

樋口恭介

「きまぐれドーム」は、作者がふだん感じている「迷い」や「好奇心」といった、人間の本質のようなものを表現しているのかなと思ったのですが、それ以上に「闇」を感じられ、それが魅力的に映りました。社会や人間の「闇」に対する感性が高い人は、たまに差し込む「光」に対する反応も強いと思っており、それが社会を変えるきっかけへと繋がることも多いと思います。「きまぐれドーム」からは、そういった期待のようなものも感じることができました

森竜太郎



きまぐれドーム


「おはようございます。まずは天気をお伝えします。環境大臣の●●さん今日の天気はどうでしょうか」
「そうですね。今日の天気は東部は雨、西部と南部は晴れで、北部は雪です」
「なるほど、今日は広範囲で晴れですね。今日もありがとうございました」
「ありがとうございました」

全国ラジオ


「あれ、また雨だ」
 今日も予告なしで雨が降った。
 ここ数日は夕方に時々雨が降る。
 なぜ降るのか分からないが政府の気まぐれか、最近雨は降っていなかったし農民の抗議でもあったのだろうと僕は思う。今思えばこの考えを聞いてもあまりこの国のことを知らない人だと予報無しで雨が降るのは当たり前だし農民の抗議とはなにかと思うかもしれない。そういう人のためにこの国のことを教えておこう。この国には珍しいことが何個かある。
 その中でも一番珍しいことといえばまずドームについてであろう。この国で言うドームは国全体を覆っていて常に上を見ればある、そんな存在である。これを見ている人は、ライブだったり野球を見にドームに行ったことはあるだろうか。あのドームがそのまま大きくなっていったイメージだろう。このドームを見あげるのは小柄のプロ野球選手がドームで打席に入ったときのような感じなのかもしれない。ドームの天井全体がライトで埋まっていてもちろん偽物だが太陽が昇り、雨や雪が降り、夏は暑く冬は寒くなる。大きさは僕の感覚だが昔の近畿がすっぽり入るサイズだと思う。ドームの中心には、政府の施設があったりドーム管理局があったりする。そこで天気や気温をプログラムしているんだと予測されている。ドームについてはこんなもんだろう。ここまで書けば、一般人の僕がなんでここまで詳しいのか疑問に思った人もいるだろう。それは、僕は小学校の自由研究でドームをテーマにしていろいろ調べたからだ。趣味もそれほどなく、書くことが無かったのでごく普通に上を見ればあるものを調べただけだ。
 最初に珍しいことが何個かあるといったがもう一つは人工知能である。こっちは想像したことがある人もいるだろう。脳に入っているのだがこれのお陰でなんでもすぐに分かるようになっている。この国の成人、つまり十二歳になるとよく学校で習う科目の内のどれか一つをとても良くして他の教科も普通に良いくらいになるという代物だ。なんでも分かるのはいいがパズルゲームをしたりするときだけ面白くなくなるのだけが難点だ。
 この国についてはこの辺でいいだろう。遅れたが自己紹介をしよう。僕の名前は榊原康政で「やすまさ」と呼ぶ。僕はドームの中心から数十キロメートルほど離れたところの中学校に通っている中学生で今は二年生、次の三年生で卒業する予定だ。予定というのは卒論が書けるかわからないからでなぜかと言うと書く内容が決まってないからだ。この国では中学三年生の一年間は卒論のために空いている。なにせドームの中だから狭く教授の目を引きそうな変わった話題がなくなってきているのだ。その為、趣味の将棋の必勝法をスーパーコンピューターを使って導き出そうとしている友達もいるくらいだ。もう卒論の内容が決まっているなら調べるだけなのだが決まっていない人は調べるところからだから大きく出遅れる。こういう僕も決まっていないから考えるべきなのだろうが何も思いつかないから放置している。さすがに話しすぎたしそろそろ卒論の内容でも考えるとしよう。


 さて、あなた達が見ているドームの建て方を知りたくないですか。でも結構簡単なんです。ほら、普段野球やバレーを見る時に使うあの小さなドームを大きくしただけです。単純でしょ。え、太陽はどうなんだって?まあ、確かにライトで天井は埋め尽くしてるけど。そんなの普段のドームと変わんないじゃん。………。分かったからもう少し真面目に話すよ。このドームは空気膜構造が使われているんだよ。ほら、中に空気を入れたら膨らむ感じ。そうそう。だから出口が少ないんだよ。それにね……。(何故かここで終わってしまっている)

ドームの建て方


 3月24日
 今日は終業式だ。今日から一年間、自由研究状態でどこに行っても教授の許可さえ下りれば問題ない。終業式に参加する為に体育館に向かって歩いていると、後ろから「原康」と声をかけられた。こんな名前で呼ぶ奴は一人しかいないと思って振り返って見ると思った通り友達の井伊がいた。前に将棋について調べているといったのはこいつのことだ。
「卒論決まったか?」とまず聞いてきた。
「お前みたいにすぐ決まったら困らないんだがな。だいたいなんだ原康って」
「呼び方なんぞ何でもいい。言う人が言いやすければいいんだ。まだ決まっていないなら俺が決めてやる。そうだな…」
「ちょっと待て、話してると終業式に間に合わなくなるぞ」
「終業式などというものはほっといて卒論でも書いておけばいいのだ」
「そんな考えでよく退学しなかったな」
「憲法には思考の自由が保障されている」
「確かに考えるのはいいが発言はダメだろ」
井伊に会えたのはよかったがいい意見も聞けず時間に追われうやむやになりながら終業式に行った。
 終業式は普通に想像できるような教頭先生の話で始まり校長先生の話で終わる、時間が長く感じられるようなものだった。最後に三年生だけ残り教頭先生から「卒論を探求する為の自由研究期間が始まるので自分が信じる方向に進みつづけろ」というような内容の話があったのを半分聞き流しながら終業式は解散になった。終業式が終わると井伊と合流した。すると妙に真面目な顔をして、
「この天才の友達になれたことを感謝したまえ。終業式の間、校長の長い話を無視してお前の卒論の内容を考えてやったぞ」
「あんまり期待はしないがどんな案だ」
「ドームから出ろ」
「どういう意味だ」
「お前はドームの外について考えたことはあるか。俺はドームの外はどうなっているのかいろいろ考えたことがある。外は戦争か何かあってボロボロになっているとか、逆に俺等が植民地みたいになってるだけで外のほうがよっぽど良いかもしれない」
「つまりお前はドームの外に行けって言ってるんだな」
「ああ。どうなっているのかお前の目で見て写真やお前に口で教えてほしいんだよ。何個か情報は聞いたことはあるが確信がないからな。お前の口から聞いたら信じるだろうしな」
「確かに俺もドームの外は気になるが…」
「お前だと大丈夫だろ」
「どっから俺だと大丈夫と言う言葉が出るんだよ」
「安心しろ、お前が帰ってこなかったら墓でも作って腐った餅でもおいてやる」
「そんなもんいるか。そんなんされるなら帰ってきてやる」
「そうだな。旅に出るなら日記でも書いとけ。そうじゃないと友達がいなくてさみしいだろ。」
「確かに。お前の忠告は肝に銘じておくよ」
井伊に相談しておいて良かったと思いながら実際に行くかはさておき旅の計画でも考えながら家に帰った。これからは忠告を聞いて日記を書こう。



昨年から続いていた東部の農民と輸送業者の間での軍事衝突について国家総司令部は一日、農民とデモ隊による衝突が起き、三人が死亡したと報じた。ただちに停戦を求めるとしながらも、いつになるか分からないという。東部では今も緊張状態が続いている。

ある日の新聞記事

 

 4月1日
 4月になってしまった。だらだらと準備をしたりしながら過ごしていると3月が終わった。出遅れていて、ドームを出ようと言うのだから急いだほうがいいのは分かっているのだが体が思うように動かずゆっくりしている。


 4月5日
 友達の井伊に追い出されるようにして家を出た。井伊がわざわざ結構離れている家から俺を追い出す為だけに俺の家に来たのだ。確かに誰にも何にも言われなければいつ出るか分からないからありがたいのだが。もう少しましな方法でしてほしかった。まあ、計画していた通りにまずドームの端に行けばいい。関所のような門がある場所を目指す。


「0840」


 4月7日
 ドームの端にやって来た。あるのは関所だけみたいで、ちゃんと帰ってくる門もあるようだ。荷物検査のようなものがあるようには見えないし自由に出入りできるようだ。一泊してから通ってみよう。


「259402850344041293624561129303410495132167」


 4月7日
 関所の先は都市のようだ。少し小さいが普通に富士山噴火前の、昔の東京のようなものだろう。そして最も驚いたのが、上を見ればまたドームがあるではないか。よくわからないが最初の僕が住んでいたドームを第1ドームとするとこれは第2ドームといったところだろうか。これからは日記にどこにいるかも書いておこう。



 4月10日 (第2ドーム)
 このドームに住んでいる人は方言を喋るようで苦労する。知らない言葉だったり、言葉の解釈が違ったりがあったりするようだ。昔聞いた関西弁に近い気がするがわからない。そして書いておくと、このドームも雨が降ったりするようだ。どこで操作しているのか分からないが近くにでもあるのだろう。この次に端に行けば何か分かるかもしれない。調べるために行ってみよう。


「8574935103443325041254」


 4月13日 (第2ドーム)
 端に来た。あるのは、第1ドームの関所と同じもののようだ。書くこともあまりなく明日に向けてすぐに寝よう。


 4月14日 (第3ドーム)
 まさかとは思っていたがやはり関所を通るとまたドームがあった。ここまで重ねると高さや直径はどうなっているのか気になるがまずこのドームの中がどうなっているのか調べよう。外に向かいながら都市のようなものがあったらよってみよう。


 4月16日 (第3ドーム)
 危なかった。何かちょんまげをしている人が通りかかったのを見ていたら「無礼者。」と厳しい声を聞いた瞬間、取り押さえられてしまった。手を後ろにまわされ武士のような人が腰にさしてあった日本刀のようなものを出したのだ。このときになって「あ、首切られる」と思った。今焦っても後の祭りでもう終わった、腐った餅でも置かれると思った。しかし神輿のようなものから位の高そうな人が出てきて、
「こんな面白い服装してるやつがこの国の事情知ってる訳もないし、面白い話聞けそうやから城に連れってたらいいやん」
と、言ってくれたお陰で命拾いした。城に行かなければ行けないのは少し面倒くさいのは面倒くさいがこのドームについて知れるいい機会だから従うことにした。


「2112441293254552127261511285」


 4月20日 (第3ドーム)
 城は思っていたより大きかった。結構あの人は位が高かったようだ。話を聞くとなぜこの国がここまで文明が遅れているのか分からなかったが百年ほど前から幕府にまとめられたようだ。ドームについてはそんな物があることすら知らなかったらしい。ドームの端に行く方法は北に行きたいと言えば教えてくれた。通行許可証もくれたし、感謝しかない。


 5月2日 (第3ドーム)
 どんどん外のドームに行くにつれ広くなっていっている。十日ほどかかって端までやって来た。次こそはさすがに違う景色を見たい気がする。それと最近感じているが、だれとも話さなかったら漢字だったりを忘れかけたりする。


 5月3日 (第4ドーム)
 さすがに笑ってしまった。関所を通れば次のドームがあった。次は前の教訓からすぐに目立った行動は取らずに観察しながらはしを目指そう。


「615133254521045123514341」


 5月5日 (第4ドーム)
 都市を見てみると昔でいう平安時代ぐらいになるだろうか。貴族のような人もいるし、他の人はまずしそうだから学校でならった平安時代くらいだろうと思った。貴族だと見つかれば帰れなくなるかもしれないし処刑されるかもしれない。あまり見つからないようにしよう。


 5月20日
 もうなにかいろいろなことについてあまり考えられなくなってきた。


 5月30日 (第4ドーム)
 あまり書くこともなく、はしまでついた。確実にドームのはしまでのきょりも、のびている。次はどんな景色が見られるのか。なんとなく想像はできるが見てみなければ分からない。


「54731251」


 5月31日 (第5ドーム)
 さすがにわかっていたから笑ったり、おどろいたりはしないが、またドームがあった。少しそうてい外なのは森が広がっていたことだ。ジャングルみたいだ。ちゃんとじんるいがいるかも、わからない。一回さがしてみるとしようか。



 6月2日 (第5ドーム)
 じんるいらしき動物は見た。らしいというのはもう知性を感じさせない動きをしていて話しかけても反応しなかったからだ。服を着ているものもいればもう毛がはえているものまでいる。どうしてこうなったのかヒントがあるかもしれない。そうさくをつづけよう。


「0833」


 8月23日 (第1ドーム)
 井伊が動画を撮っている。

「えーと、もう撮れてるのか。原康、お前が帰ってこないから卒論を早々終わらせた俺が手伝いに行ってやる。この俺が動くから感謝しろ。なんかやばいことが起きているのなら友達も連れて行くから大丈夫だ。この動画を見たのなら連絡くれ。俺なりに心配して見に行ってやるんだから感謝したまえ。墓はまだ作ってないから安心しろ。そうだな、話すことも無いしそろそろ行くか」



◆著者プロフィール

南桐弥(みなみ・とうや)
2010年7月生。児童書を卒業してからは、戦国時代が舞台の小説を読み漁り、その後、家に溢れ返っている本を順番に読む生活に入る。
100万円の賞金に釣られて人生初の短編小説を書き、まさかの受賞。伊坂幸太郎作品が好き。

授賞式の様子は、下記の記事をご覧ください。


*次回作の公開は2024年11月27日(水)18:00を予定しています。

*本稿の無料公開期間は、2024年11月27日(水)18:00までです。それ以降は有料となります。

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