あん子

日常のようで、空想のような、小説みたいな。くらしとことばについて。 おもちゃのカメラで…

あん子

日常のようで、空想のような、小説みたいな。くらしとことばについて。 おもちゃのカメラでフィルム写真を撮っています。

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    日々のことやちいさな気づきを書いています

  • あん子の短編小説

    今までに投稿した短編小説をまとめています。

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レモンの重さとエネルギー

 スーパーで国産レモンを見かけると、ふらふらと引き寄せられ、条件反射的にかごに入れてしまう病にかかっている。  レモンの色、形、質感、重み、匂い。すべてがすきだ。  レモンという存在がすきだ。レモンを視界に入れておくだけで、心がふだんより3センチくらい浮いているような愉快な気持ちになる。それを手に取れば、ひんやりしたつめたさが心地よく皮膚に染みこみ、水分のつまったぎっしりとした重さは、じぶんがここに存在するという安心感を静かにもたらしてくれる。  などなど文学的に語ってみ

    • リセット、そしてリスタート

      今年がはじまってふた月が過ぎたらしい。ちょっと信じたくない現実だ。その間、いちどもnoteを更新できていないというもっともっと信じたくない現実に気づいて、非常に焦ってこの記事を書いている。 いちおう言い訳をしておくと、新年が始まって早々風邪をひいた。その風邪がまあなかなか治らなくて、他にも原因不明のじんましんができたり、謎の体調不良で精密検査をしたり、体も心も余計に疲れるようなことばかりの日々を過ごしていたのである。結局どの検査でも大した異常が見つからず、今のところそこそこ

      • ぜんぶうけとめる

        例年より暖かいとはいえ、今年の冬は冬なりにさむくなった。朝、着替えるのがつらい。ヒーターにかじりついているわたしを見て夫は笑う。実家にいる時は、父に笑われていた。なにも変わっていないな、とおもう。 秋ごろは、なんとなく調子が良くて、書くことにおいても、それ以外でも。飛ばし過ぎたからなのか、いま、一気に墜落して、地面にへばりついているところだ。 ペース配分がへたくそすぎる。それ以前に、自分のキャパがちっさすぎて、想像の何倍も大したことなさ過ぎて、落ち込んでしまうよね。一年前

        • モノクロフィルムがうつしたのは、射していたはずの光だった

          きっかけは、ほんの気まぐれだった。 カラーネガフィルムがどんどん手に入りにくくなるなか、たまたま入ったカメラ屋さんにモノクロフィルムだけがポツンと置いてあった。それも、最後の一つだった。 モノクロか。今まで、特に理由もないけど使おうと思ったことがなかった。どうして目を留めなかったんだろう。一回くらい、挑戦してみてもよかったのにと今更ながら気づいて、そのちいさな箱を手に取った。すこしだけ熱を帯びた心臓と一緒に、手のひらの小箱は揺れてコトコト鳴った。 ✳︎ 以前にも書いた

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        レモンの重さとエネルギー

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        記事

          わたしの人生ドラマ #推し短歌

          韓国ドラマに魅了されて、5年ほど。作り込まれた世界観と映像美はさることながら、視聴者を巻き込んでゆく精巧な台本や、俳優たちの緻密な演技には、いつも感嘆させられる。 とは言っても、私は、新しいドラマを次から次へと見まくるタイプではない。心に深く残ったドラマをおりに触れて見返すのが好きな方だ。何度も見返すうちに、いつのまにか、ドラマの登場人物は私の心の中に住むようになる。落ち込んでいたら優しい言葉をそっと耳打ちしてくれるし、時には勢いよく背中を叩いて叱咤激励してくれる。そうやっ

          わたしの人生ドラマ #推し短歌

          日々、そこにいる。#推し短歌

          アイドル、ミュージシャン、いろいろ推してきたけど。 わたしの場合、心の隙間を埋めてくれる、もしくは、埋めた気分にさせてくれるものが、推しという存在だった。夫と出会って結婚して、多くの人が言う、心の隙間なんてものは結局一生じぶんで抱えてかなきゃいけないんだよ、の意味がわかった気がした。埋まらない隙間を一緒にあたため癒してくれるひと。それはつまり、わたしにとって推しの最終形態なのかもね、と思ったりするのです。ソファで寝ているあなたへ。日々、そこにいる推しへ。 ✳︎ ゆるふわな

          日々、そこにいる。#推し短歌

          【掌編小説】ショート・フォール・フィルムscene#1[ひとつぶ]

          * すりガラスの窓ににじむ、オレンジの灯り。その向こうには、少し色褪せたカフェカーテンがさがっている。換気扇がぶんぶんとまわり、お米の炊けるにおいが微かにそこからもれている。 窓の内側で、お母さんは台所に立っている。洗いざらしのエプロンのひもをキュッと締めなおしながら、今日のお月さま大きかったねえ、と言った。 そうだねえ、と葉月ちゃんは答えた。ダイニングテーブルにひろげた宿題プリントの上に頬杖をついたまま、ぼうっと台所を眺める。カウンターのうえに、玉ねぎとおいもがごろん

          【掌編小説】ショート・フォール・フィルムscene#1[ひとつぶ]

          ふたり軸

          結婚してから、五ヶ月が過ぎた。ひとり暮らしをしていたアパートから持ち込んだモンステラが、この夏にぐんぐん成長をとげ、ついに私の肩くらいの丈になってしまった。物が少なくて、よく整ったシンプルな部屋が、夫は好きだ。できるだけ邪魔にならないように……支柱を立てて、紐で枝をくくって、コンパクトになるよう整えながら思った。 お前、そろそろ成長やめないと、夫に追い出されるぞ。そうしたらしょうがないから、この子は実家に持って行って育ててもらうしかないな…… などと考えていたら、夢を見た

          ふたり軸

          たぶんすごくながくなる、まだ始まったばかりの日記

          三原色、居場所 2023/06/24 夫が洗濯物を干すのを手伝ってくれなかった。食卓にお昼のそうめんを並べたあとで洗濯が終わっていたことを思い出したから、「先に食べていて」と言い置いて私は席を立った。干すものはたくさんあった。ベランダと脱衣所を行ったり来たりしているあいだ、夫はひとりでおいしそうにそうめんを食べていた。自分で先にどうぞ、と言ったくせに、ほんとうに手伝ってくれなかったことが無性に悲しくなって、私は伸びかけたそうめんの前にくたりと座ってさめざめ泣き出してしまっ

          たぶんすごくながくなる、まだ始まったばかりの日記

          【日記】食欲

          2023/6/9 AM0:55 映画「街の上で」を見た。演劇のような長回しのカットもぽつりぽつりと落とされていく台詞も、その背景にたたずむ下北沢の少しざらっとした色彩も、あまりに良くて、(あまりに良すぎたので、これはこれでまたいつかちゃんと感想を残したい)フィルムにまんべんなくおさめられた文学的な空白が、私の中に眠ることばたちを否応なく刺激した。 最近、立て続けに映画を見たり本を読んだりしている。あと音楽も。おなかがすいているな、という実感があることはうれしい。今の自分に

          【日記】食欲

          【日記】無垢

          2023/5/30 AM2:00 沖縄はもう夜でも暑い。夕飯にお酒を飲んだのにいくら目を閉じても眠れなくて、ホテルの艶々したカーテンをめくってみたけれど、広い窓の向こうに見える海は暗く黒くさみしい。昼間見たあの、希望に満ちあふれた輝きと全てを受け入れてくれそうな穏やかさは、もう思い出せない。コンビニで買っておいたオリオンの南国っぽい味のリキュールをすすりながら、よりによって新婚旅行中に風邪をひいて咳をしながら眠る夫の肩をさすっている。 あれから色々なことがあって、(たとえ

          【日記】無垢

          【短編小説】キンモクセイだったころ

           空が青いなあ、と思ってぼんやり上を向いていたら、ふわっと鼻先を風が通り抜けた。  あっ、キンモクセイ。 「ねえねえ大樹、においかいでみ!キンモクセイ!午前中はしなかったのにね、今季節が変わったね」 大樹は腰掛けたコンクリの土管に目を落としたまま、「ふーん」とつぶやく。右手に、短くちびた白いチョークを持っていた。 「反応うすーい。って言うかそれチョークでしょ、学校の持ってきちゃ駄目だよ」 「ゴミ箱に捨ててあったやつだもん」 「でも駄目。あんたたち所構わず落書きするでしょう

          【短編小説】キンモクセイだったころ

          祖母と父のライスカレー

           祖母のつくるカレーを、一度も食べたことがない。  わたしがまだ小さな頃に、祖母は祖父を病気で亡くした。それから徐々に認知症を発症してしまった祖母の手料理を、幼いわたしが食べることはほとんどなかった。お正月に家族で帰省する時などに、ときどき炊いておいてくれた黒豆が、わたしが思い出せる唯一の祖母の手料理。  そんな祖母に会うたび、わたしの父は未だに言う。 「今度来たら、ライスカレーつくってね」  ライスカレー。 その言葉には、なぜかひどく懐かしく、切ない響きがあるように

          祖母と父のライスカレー

          無限大のりまき

           韓国の人のブイログを見るのが好きだ。 たんにわたしが韓国オタクだからというのもある。でも、それ以上に、その方たちの日常に登場するご飯が、なんともおいしそうだからなのだ。チゲ、チヂミ、冷麺、サムギョプサル、ピビンパ、トッポッキ……それからキンパ。  わたしの見たところ、献立に迷うと、彼女らはキンパを作る。中身はその時で色々変わる。冷蔵庫の中身を自由に組み合わせて気楽に作る様子がなんだか印象的だった。  巻きすも使わない。(もちろん使う人もいるけれど。)のりにご飯をしいて、

          無限大のりまき

          過ぎてきた日々を抱きしめること

           3月に、恋人ができた。  それからひと月と1日後に、私の誕生日があった。歳をとることが、久しぶりに、かなしくなかった。  5月に、ほぼ日手帳を買った。とつぜん欲しくなって、買った。 2年くらい前までは愛用していたけれど、なんとなく気乗りがしなくなって、使うのをやめていた。白紙ばかりの毎日が嫌いだったから。何も書けない日が、積み重なるほどに、わたしをじくじく焦らせて、結局ペンを持てば、マイナスなことばかり書いてしまうから。  2020年のほぼ日手帳を見返した。半分くらい

          過ぎてきた日々を抱きしめること

          書きたいなあ、とずっと思ってるんですけど、なんせ息するだけで必死な毎日なのでなかなか、っていう言い訳です。こんにちは。今はとにかく、ことばや色や風や光を大切にためてためておく。そのうち爆発するでしょうから、多分カミングスーンだと思います。書くことは私から逃げない。大丈夫。

          書きたいなあ、とずっと思ってるんですけど、なんせ息するだけで必死な毎日なのでなかなか、っていう言い訳です。こんにちは。今はとにかく、ことばや色や風や光を大切にためてためておく。そのうち爆発するでしょうから、多分カミングスーンだと思います。書くことは私から逃げない。大丈夫。