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映画、本、演劇、音楽について ぽつりぽつりと

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最近の記事

ピエタ

ジャムを煮る祖父の背後に蒼き死神 本棚の奥に隠せし父の遺灰     過ぎ去りし日々レコードの針は錆 父、失踪:普段はつけぬコロンをつけて 幼女(おさなご)の母の唄いし葬列の唄

    • 俳句:レモンの追憶

      八月の砂に埋もれし父の声 檸檬齧る娘は白き寝台の上 亡き父の眼球を裂く地平線 道化師の父の輪郭溶ける夜 父を撃つ遥か彼方の星に穴

      • 架空のラジオ

        こんにちは、架空のラジオ、第一回目の放送です。 今回のテーマは、「今、私が一番届けたい曲」。都会の真ん中で枝に引っかかるビニール袋のように、あなたの心にも「何か」が引っかかれば幸いです。 一曲目は片岡鶴太郎の「スリラー温度〜ビートイット音頭」。ニッポン放送でOAされたラジオドラマ「マイケル・ジャクソン出世太閤記」(原案/小林信彦、脚本/藤井青銅、プロデュース/大瀧詠一)の挿入曲として使用されました。内容は、マイケル・ジャクソンがスターの座に登りつめるまでの過程を豊臣秀吉の出

        • 同じ夢ばかり見る

          珍しく体調を崩し、ここ二週間ほど寝込んでいた。少し良くなったかな、と思ったものの、また症状が悪化したので、仕方なく今日も一日ベッドで過ごしていた。春の光に照らされた天井をぼんやりと眺めながら、咳をしても、熱が出ても、発作が起こっても一人なんだな、と考えた。先日、初めて受診した内科で「容態が急変したときのために、緊急連絡先を記入してください」と用紙を渡されたのだが、何処にもあてがないことに気づいた。私には助けを求められる家族や知人がいない。一人は、寂しい。 物心づいたときから

        ピエタ

          存在/非存在

          存在しない未来のことを取り留めもなく考えながら、影を喪失した〈彼〉を追いかけて色彩のない街へ辿り着いた。以前にも訪れたことがある灰色の街。高層ビルの衣擦れが、いつか存在したかもしれない過去を手繰り寄せる。蝉の抜け殻が電柱の傍らに落ちていた8月。突然雨が降り出して、そういえば「驟雨」という言葉を教えてくれたのは〈彼〉だった。目の前の古めかしい喫茶店に駆け込んだ。〈彼〉はエビピラフと珈琲を注文し、ラッキーストライクにライターの火を着けた。人生もラッキーストライキだったらいいのに、

          存在/非存在

          東京国立近代美術館 「中平卓馬 火―氾濫」 覚え書き

          東京国立近代美術館で開催中の「中平卓馬 火―氾濫」(2024.2.6〜4.7)。本企画展では、戦後日本において常にラディカルな姿勢を貫いた写真家・中平卓馬(1938〜2015) の〈理論と実践〉の軌跡が紹介されている。 出発期〜アレ・ブレ・ボケ 1964年、雑誌『現代の眼』編集者の中平は、東松照明の勧めにより、自らもグラビアページに写真を発表、翌年には出版社を辞し、本格的に写真家としての道を志す。中平の初期の活動の一つに挙げられるのが、雑誌『アサヒグラフ』の連載「街に戦場

          東京国立近代美術館 「中平卓馬 火―氾濫」 覚え書き

          時間の墓場:写真に関するごく短いエッセイ

          「良い写真」が何なのか、私には分からないし、「良い写真」を撮ろうとも、現段階では考えていない。私は単なる記録者としてファインダーを覗き込み、シャッターを押す。 その一瞬、時間が凝固される。写真とは過ぎ去った時間の墓場である。 他に悼む人のいない墓場の前で、私は一人立ち尽くす。

          時間の墓場:写真に関するごく短いエッセイ

          私は逃げられない女――ホン・サンス「逃げた女」を見て――

          映画「逃げた女」(監督/ホン・サンス、出演/キム・ミニほか)をAmazonプライムで観た。五年間、片時も夫から離れたことのない女が、女友だち三人に再会し、それぞれと取り留めもない会話を交わす。ドラマチックな出来事は何も起こらず、静かな時間が流れていく。女が「何から」逃げたのか、明確には語られない。作品末尾、女は人の少ない映画館へ行き、ひとり鑑賞する。さざ波の音に耳を傾け、自身の心にも耳を傾け、内省する。いや、実際のところはスクリーンをぼんやりと眺めているだけで、内省などしてい

          私は逃げられない女――ホン・サンス「逃げた女」を見て――

          香取慎吾主演「テラヤマキャバレー」レビュー(ネタバレあり)

          ※このレビューはネタバレを含みます。 日生劇場にて、香取慎吾主演の舞台「テラヤマキャバレー」を鑑賞した。 日生劇場 2024.2.9〜2.29 脚本/池田亮、演出/デヴィッド・ルヴォー、出演/香取慎吾、成河、伊礼彼方、村川絵梨、平間壮一、花王おさむ、福田えり、横山賀三、凪七瑠海ほか 静寂のなかにチクタクと響く秒針。どこからか汽笛が聞こえる。1983年5月3日火曜日、死の淵を彷徨う寺山修司(香取慎吾)は、夢の中で劇団員と共に戯曲「手紙」のリハーサルを行っている。そこへやっ

          香取慎吾主演「テラヤマキャバレー」レビュー(ネタバレあり)

          三行日記:1月17日

          夢の中でピザを注文したけれど、 届く前に目が醒めてしまったから 今日はピザが食べたい気分。

          三行日記:1月17日

          映画「花束みたいな恋をした」(ネタバレ含む)

          以前話題になっていた映画「花束みたいな恋をした」(監督/土井裕泰、脚本/坂元裕二)をアマプラで観た。坂元裕二による秀逸なセリフ、菅田将暉✕有村架純という若手実力派俳優の共演。面白くないわけがない。事実、「花束みたいな恋をした」は2020年代を代表する優れた恋愛映画である。 京王線明大前駅で終電を逃し、たまたま居合わせた山音麦(菅田将暉)と八谷絹(有村架純)。少しずつ話すうち、麦と絹は音楽や映画・文学・マンガの嗜好が面白いほどマッチしていることに気付き、互いに運命を感じる。二人

          映画「花束みたいな恋をした」(ネタバレ含む)

          映画「トーク・トゥ・ミー」(ネタバレ含む)

          2024年の映画初めは、A24の「トーク・トゥ・ミー」(監督/ダニー・フィリッポウ、マイケル・フィリッポウ)。新年早々ホラーなんてねー、と笑い合いながら、友人とともに池袋サンシャインシネマへ。 ※このレビューはネタバレを含みます 主人公は、二年前に母親を自殺で亡くした17歳の少女・ミア。母の自殺以来、父親との関係もうまく行かず、今は親友のジェイドの家で生活している。ジェイドの母と弟も、ミアを実の家族のように受け入れている。 あるとき、ミアはウェイ系高校生の集まるパーティーに

          映画「トーク・トゥ・ミー」(ネタバレ含む)

          山口昌男『道化的世界』

          山口昌男『道化的世界』(筑摩書房、1986 [初版:1975]) バスター・キートンからピカソ、エリック・サティ、エイゼンシュタイン、能楽、人形劇に至るまで、“道化”を幅広く、多様に論じた一冊。誰もが当たり前だと重っている日常は、「見せかけの現実」に過ぎない。“道化”とは、そうした現実に楔を打ち込む――言い換えれば、慣習化された日常に割れ目を生じさせる――ことで、新たな衝撃を与える行為である。例えば、駄洒落やモジリが笑いを引き起こすのは、それが従来の意味や文脈――秩序――から

          山口昌男『道化的世界』

          三行日記:10月15日

          私が部屋でレコードを聴いていると、 上の階に住む金木犀の悪魔がドアをノックして一言 空の硝子が割れてしまいました

          三行日記:10月15日

          三行日記:10月14日

          1日中タイムマシーンを待ち続けていたら すっかりおばあさんになってしまったので 深夜のコンビニで牛乳を買いました

          三行日記:10月14日