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同じ夢ばかり見る

珍しく体調を崩し、ここ二週間ほど寝込んでいた。少し良くなったかな、と思ったものの、また症状が悪化したので、仕方なく今日も一日ベッドで過ごしていた。春の光に照らされた天井をぼんやりと眺めながら、咳をしても、熱が出ても、発作が起こっても一人なんだな、と考えた。先日、初めて受診した内科で「容態が急変したときのために、緊急連絡先を記入してください」と用紙を渡されたのだが、何処にもあてがないことに気づいた。私には助けを求められる家族や知人がいない。一人は、寂しい。

物心づいたときから、病気になると必ず同じ夢を見た。今回もそうだった。
瞼が重くて目を開けることができない。目は開かないが、眼前にオレンジ色の海が広がっていることだけは分かる。頭と胸が発酵したパン生地のように膨らむ。中は空洞だ。頭と胸が五倍ほどの大きさに膨らんだところで、何ものかによって、鼻から砂を注入される。さらさらとした細かい砂は、頭と胸の空洞に入り込み、軈て満タンになる。ひどく重くて苦しい。肺のあたりに、ひんやりとした何かが触れる。触感からして、おそらく釘だろう。釘は私の身体を貫通する。しゅるしゅると音を立てながら空気が逃げていく。痛みはないが、頭と胸は重いままだ。オレンジ色の波が揺れているのが見える。目は固く閉じられている。身体が重くて苦しい。その先のことは何も覚えていない。
初めてこの夢を見たのは、三、四歳の頃だったと思う。以来、病気にかかると、同じ夢ばかり見るようになった。二十六歳になっても、夢のなかの感覚は変わらなかった。
一種の強迫観念なのだろうと思う。いつになったら、私はこの夢から逃れられるのだろう。病気のときは、眠りにつくのが怖い。

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