見出し画像

42.小樽で「伊勢鮨」そしてなにを思うのか


新千歳から小樽行きの電車、快速エアポートに乗る。高い山がない。水をこぼしたような空と大地。針葉樹の野原が続く。地平線があるわけではなく、初夏というのに積雪のある峰々に囲まれていた。

小樽に近づくにつれて、左側の車窓からは平原と、こんもりした山がみえ、右側の車窓には海が広がる。波が高い、うねる。はてしない海原だ。島は見えない。日本海や太平洋とは全く違った寒々とした海。荒涼といっても良い。この向こうにロシアがある。

小樽に来たのは、目的があった。「伊勢鮨」に立ち寄りたい。寿司と鮨の違いとはなんだろう。一人で歩く小樽はどこか心細く、それでも希望にあふれているようにも思える。からだが軽い。

玄関の扉を横にあけると、右に入ると小部屋があり、まっすぐ奥に歩くと、もう一部屋。そこが一枚板のカウンターになっていた。ネタのケースがみえる。お客さんは5組。わたしが席につくと、満席になった。ミシュランの鮨をひとりでいただくという幸運。少し緊張して背筋がのびる。

握ってくれたのは、中村伸也さんという人。カウンター上に名前を書かれていた表札があった。

さて北海道の純米酒「宝山」を二杯。突き出しの、岩海苔のなかにクラゲがはいったものがおいしい。器に1カンずつ置いていただく。

ネタケースから取り出した魚には包丁で切り目をつけられ、バーナーで炙る。薬味などのちょいと加えて、ぐっ、ぐっと二度、三度握る。意外と力をこめられる。けれど米をつぶさない、ほどよい塩梅だろう。お客さんも、一カン皿に置いてもらうと、一枚ずつ写真をとっておられる。若い女性に、中年の男性。三十歳くらいの男女。家(日常)と切り離された場所だ。


このお通しは、良かった。岩のりにくらげが入っていて、コリっとし、磯の甘み。お酒と合う。

まぐろの醤油漬け 山わさびの薬味を添えていただく。ぴりっとして、締まった味。

まぐろのカマ、とろである。表面だけあぶって。口のなかで脂がおどる。わーー!

ニジマスの醤油づけ。口のなかでとろける、マスの味が濃い。身も柔らかい。

しめ鯖 ねぎとショウガがの薬味で。

松山かれいのえんがわ 新鮮、活がよい。こりこりする。

ほたて とろっとして、身がしまっておいしい。

ぼたんえび とろっとしている、あまい。尻尾の部分も丁寧に処理されており、すべていただける。隠し包丁をいれて細やか。


ほっき貝 さすが歯ごえはコリコリだ。

つぶ貝 塩とともに

・しゃこ 半分に切り重ねる。これまた包丁さばきが見事


ずわいがに、醤油と あまだれで。これがおいしくて、身に旨いが凝縮して、2皿食べたいほど。

たらこ ほぐしていただく。ゴマと海苔に包まれて。

いくら つぶがしっかり、見た目も綺麗。ぷちっとして破れたら甘みが飛ぶ!

のりすい、昆布の風味がいきている。ぼたんえびの頭がごろっと入る。とても落ち着いた。

うに、オホーツク海の珍味。知床産だった。いままでいただいた中でいちばん、と思えた。あの車窓でみた荒々しい波とねっとりした甘みが重なって、最高であった。

地元の日本酒とよく合う。少し緊張しながら、にぎってもらい、一カンごと、味わう。この至福よ。
どんどん、とはこない。
ゆったり、静か。気持ちがほぐれて、酒もうまい。


寿司をいただいたあとで、ロシア情勢について少しマスターと話した。

店の屋根の上を、北朝鮮から発射したミサイルが通過していくらしい。絶対に、狙い通りの場所に落ちるとは限らないですからね、と。いま、時代はいちばん核爆弾と近い距離にあるようだ。
いつまで続くのか、この戦争が他国の話ではないことを、日本人は(世界の国々も)とうに解っている。解っていながら、なにが自分にやれるのか、やっておかないといけないのかと自問自答である。

ほろ酔いで、小樽運河を眺めて、そこから足を延ばして、「北一硝子」へ。


持ち帰りたい、オシャレなランプがたくさんあった。灯りはいい、ぼーっとした。美しい手仕事、切子のランプがとくに素敵だった。


「幸せは自分でつかんでいくもの。至福は、ふいに訪れるものよ」

そう、教えてくれた友がいる。計画し、戦略を練り、幸せを掴もうとしても、また次へ、次へ、追わねばならない。人間は幸せジャンキーだ。
至福は感じること、感謝すること、だと言っていた。

今回の旅も、不意に訪れた。ただ一人で歩いた景色は、全くもってドラマチックで、虎のようにしなやか、探検家みたいに。孤独で、それでいて、いろいろなことを考えさせられた。自分の意志で、切り開いたものを、書いていこうと思う。北の開拓の地でそう思った。そこで見た、考えた景色は絶対に違う、そう言うものが人の心を打つのだ。

それでもわたしのことだから、まわり道をして、生きていくんだろうな。そして、立ち止まって考える。時に膿み、絶望する。少しでも進んでいけば、それでいいのです。大事なのは好奇心を忘れないこと。奢らず、フラットでいること。そうすれば道は、必ず開かれていく!


この記事が参加している募集

旅のフォトアルバム

休日フォトアルバム

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?