𝐓𝐇𝐄 𝐒𝐏𝐈𝐑𝐈𝐓　【𝐯𝐨𝐥.𝟐】

SS伊豆監督の伊藤がスポンサー企業さまの熱い思いに迫る社長インタビュー【 THE SPIRIT 】

第2回は、クラブの選手も雇用していただいている株式会社総食代表取締役社長　堀 貴光さんにお話を伺いました。

本業に戻す

伊藤：本日はよろしくお願いします。堀社長が2代目として就任された際、会社はどのような状況だったのか教えていただけますか？

堀社長：非常に厳しい状況でした。

伊藤：その際、最初に取り組んだことを教えていただきたいです。

堀社長：本業に戻すというところです。

伊藤：その過程において、一番大切にしてこられた考えなどはありましたか？

堀社長：一番大切にしていることは経営理念である
【 私達は食流通を通してお客様においしさと感動をお届けします。 】
ということです。
経営理念をうたう場合には『事業領域』というものがなければいけないんですよ。
事業領域は、私たちがここで言ってる『食流通』です。食流通というカテゴリーの中では誰にも負けません。
食流通以外のもの、例えば「儲かるビジネスができたから買わないか」とか、「M&Aでどうですか」とか、他の領域のものには一切手を付けません。
なので、食流通にこだわった商売しかしませんっていうのが本業です。

今も食流通に関わる商売しかせず、ホテルや旅館に納めていて、それなら「ホテルや旅館を経営すればいいじゃない」と言われたこともあるけれど、それはしません。そうすると戦力が落ちるからね。
うちの身の丈の中で、しっかり他者には負けないような『流通のスピード』だったり、 『品揃え』だったり、『サービス』っていうのを高めていくお約束しているのがこの理念。ここが大切。　

長泉町にあるNCB(長泉コアベース)

目利きが選び、提案するとっておきの一品

伊藤：この『食流通の強み』について詳しくお伺いしたいのですが、ホームページにも【 目利きが選び、提案するとっておきの一品 】と記載がありました。この部分で社員の方々に意識してもらっている部分はありますか？

堀社長：例えば、ヒラメなどの魚も日々注文が来て、『3000、4000円／kg 』というように毎日値段が動いてるわけですよね。
その中で私も含め、仕入れをするメンバーでデータが共有されているので、私たちがちゃんと良いものを安く仕入れることで、適正利益でいただいてもお客様により安くお届けできる。それならお客様は喜んでくれるじゃん。

例えば、仕入れ担当が「池田くん、ヒラメ半値で買えたよ」(総食様に勤務するゴールキーパーの池田航太選手、営業担当)って、伝えると
「じゃあ、今日お客さんに伝えてきます」っていうようなことを魚・肉・野菜全てのものでやっています。
ですから注文がなくても安く仕入れができるタイミングで買ってくるわけです。

営業の担当は、毎日お客様とコミュニケーションをとっているから、卸先の旅館やホテルなどの宿泊者様や予約状況など加味して、「このヒラメ、今日2枚注文ですが、半値なのでもう1枚どうですか？」と提案をします。
毎日顔を合わせているから、営業の人は卸先のお客様の気持ちや求めているものがわかるんだよね。
だから営業が「これは持っていく」って言うと、大体お客様は買ってくださいますよ。「これは買ってくださらないですね」と言った時に、無理やり持っていっても売れない。

日々このようにコミュニケーションを取りながらやっているので、ブラッシュアップされていく。 そのような提案の仕方です。

伊藤：素晴らしいお話をありがとうございます。
1人で仕事というものはできない中で、仕入れ担当の方と営業担当の方の連携があるからこそ、お客様が満足できる対応ができているのだと思いました。
これはどの仕事についても共通していると感じます。より大切にしていきたいです。

健全な価値観を持つ

伊藤：もう1つ気になった点があります。施設見学をさせていただいた中で、社員の方々がしっかり、大きく挨拶をしていて。
このような当たり前の部分を徹底されていると感じたのですが、この部分はどのように社員の方々にお伝えされていますか？

堀社長：やっぱり幹部社員がどうなのかで決まるんじゃないかな。幹部社員が率先して挨拶しないと、挨拶しない会社になってしまう。挨拶って基本だからね。明るい職場を全社員で作ることを目指してます。
うちでは、『価値観研修』というものをやっていて。今も幹部社員にやっています。土台がしっかりしていないとリーダーシップは発揮できません。
スポーツ選手もそうですよね。土台が何かっていうと、健全な価値観。
「健全な価値観ってなんですか」って。『時間を守る』『笑顔で対応する』『挨拶をする』『思いやりがある』当たり前の話だよね。

『人に優しくない』『時間守らない』『朝言ったことと、夜言っていることが違う』とか自分ばかりが良くて、相手に厳しい。そんな価値観の人間がリーダーシップ発揮して「あっち行け」「こっち行け」って言っても、「あなたに言われたくねえよ」となるんですよ。
そこでリーダーシップって『健全な価値観』を持ってる人間でないと、『人はついてきません』というような話をしたり、適正検査を通して自我状態の分析をしたり、自分の性格の傾向を見たり。
そうすることで『健全な価値観』に近づいて、よりリーダーシップを発揮できるように、勉強会を開いています。

あとは、経営理念の理解を深めるためにしっかりと説明をする。
そこはしっかり時間を取って話をしています。コロナ前までは、『社内大学』というのをやっていました。
例えば『総合職になりたい人』って募集をかけて、集まったメンバーに総合職に必要になるスキルを教えていきます。
その中でビジネスモデルだったり、5年、10年先にやるようなことをもう教えちゃったりとか。講師はほとんど私がやります。 資料なども私が全部作っています。

伊藤：幹部社員の方の教育についてお聞きしました。次に、新入社員の方の教育はどのようなことを行っているのですか？

堀社長：同じ。価値観のところ。
大事になってくるのは、やっぱり健全な価値観。知識だとか、売り方だとかは日々やっていけば、先輩とかに教えてもらえるんだけどね。

いくらそのテクニックの部分が良くなっても、 「お客さんから言われたことを忘れてました」とか、注文の発注ミスを何度もしている人は「相手にしたくない」と思われてしまう。「もうあなたはいいや」と。
「総食にも頼まない」と言われてしまったら、お客様との関係は作っていけない。お客様との関係は日々揉まれて、池田だってしっかりやっているからこそ好きになってもらっていて、お客様がもう「池田でないとダメだ」と言ってくれるようになる。
そうなるためには、土台になるその『価値観』『時間を守る』とか。
例えば事故渋滞にハマってしまって、時間が守れない。健全な価値観がある人間は、時間が守れなくなりそうな時にどうしますか？

伊藤：連絡をします。

堀社長：そうだよね。「申し訳ありません。事故渋滞なので1時間から1時間半は到着が遅れそうです」と、 できるだけの誠意をお伝えして、「しょうがねえな。わかったよ」と理解してもらったりして。

あとはモノはあるけど『品質がダメだ』と、営業の池田などが思ったならば、現代の価値観がある人間は連絡しますよね。
「本当に申し訳ありません」と。ストライクゾーンの品物が準備できないと正直に伝えた中で、「モノは変わってしまうのですが、同じ焼き物でアカムツはないけど、クロムツならいいものがあります」と連絡をする。
ただ『ない』で終わるのではなく、ホテル・旅館に泊まり来るお客さんに対して、ないからと言って料理を提供しないわけがない。献立があるものなので、代替品の提案をちゃんとする。

健全な価値観っていうのは、相手のことを思った時に愛情を持って『いろんなことを起こしてあげたい』という気持ち。
そういう気持ちを持って接していくと、他の業者と比べた時にその職員さんたちは「総食の池田がいい」「お前が居てくれなきゃ困る」ってなる。
「お前が変わっちゃ困る、池田変えたらもう取引しないから」って言ってくるぐらいのお客様が中にはいるわけ。
そうすると、ものすごい人間関係ができているなと。やっぱり評価が高くなる。私とか幹部社員がお客様ところに行ったりとかするじゃん。
「最近どうですかね」「いや、池田良いよ〜」となってくれると、幹部社員は直接お客様から聞いて、評価していける。それが積み重ねになってくる。

伊藤：ありがとうございます。人としての価値観の部分をすごく大切にされてるということを大変理解できました。その部分が大切だと気付かれたきっかけなどはありますか？

堀社長：そういう部分があまりできていなかったからね。社員を信用しないところもあって「変えていきたい」と本当に思ったのがきっかけですかね。

伊藤：ご自身で体感されて実際に行動した結果、今の総食様があるのですね。

堀社長：時間は長くかかりました。最初言うことは誰も聞いてくれない。
でも言い続けることによって、現場でも浸透してくる。 みんなそういう価値観の幹部社員しか採用しないから。
健全な価値観ない人を、部長などにはしません。

伊藤：僕も監督という立場を今年からやらせていただくにあたって、 まず「選手にどう見られているか」をすごく大切にしていて。
「こいつ嫌だな」って奴の話なんて絶対聞かないじゃないですか。 人として『信頼できる人間なのか』というところは、常に自問自答しながらやっています。

お話の節々に熱量を感じる堀社長

働く人もグローバルに

伊藤： 僕たちは伊豆半島に対して、様々な取り組みをしていきたいと考えています。伊豆半島の課題や特徴はどう見えていますでしょうか？

堀社長：私たちの業界だけで言えば、ホテル・旅館の働く人がいない。
勘違いされてることがあって、現在協力していただいている『ベトナムの技能実習生』は、「業務用調理場に専属で入れてはダメです」っていうような、派遣機関が間違った情報を出している。
ウェイターやフロントなどは外国人技能実習生が結構いるんだけど、調理場になるとほとんどいないんですよ。 経営者さんも板前さんも、料理人さんたちも入れられることを知らないんです。そこで私たちは取引先のお客さんには「実は入れられるんですよ」と紹介をしています。

現状、日本人の若い子は日本料理、旅館料理をやろうとして就職する人って少ないです。逆に海外の若手や20代の希望者はいるんですよ。「日本料理を覚えたい」と。腕を磨いて母国でお店を開いたり、日本料理は世界的にも高いから、商売になるし。

なのでホテル・旅館さんがそういったことを理解することによって、例えばホテル・旅館で【20部屋】あるけれど、板前さんや仲居さんがいないから【10部屋】しか開けてないホテル・旅館があります。そうなると、自分達も取引きさせていただく中で、売上も半分しかなくなってしまう。
毎日満室でも、半分しか開けてない中の満室だから、働く人がいないのに全部入れるとお客さんにサービスが行き届かなくなってしまう。
この課題を解決するために、技能実習生の方々を入れていくことで人手不足を解決していく。

今は『日本人が対応してくれないなら来ない』みたいな時代じゃないし、グローバルだから海外からもお客様は来ている。だから働く人もグローバルになっていくべきだと思うよね。調理場でも技能実習生が調理を覚えて、働ける環境を整えていくことによって『食』のレベルがアップしていくので、伊豆半島のホテル・旅館さんは「もっと活性化するのにな」という思いもあります。

伊藤：人材不足もこういったアプローチで解決していこうという取り組みがあったんですね。

堀社長：事例としては、ある公務員共済の旅館。
ベトナムの技能実習生を紹介しました。国の機関は前例がないと難しいだろうなと思ったけど、料理長や総支配人が本当に素晴らしくて、うちが言った提案をぜひ取り入れようと本部に何回も掛け合ってくれました。6月に技能実習生の女性が3人来ます。

伊藤：こういった事例がもうあるんですね。

堀社長：国がやっているので絶対大丈夫です。安心してください。

伊藤：人材不足をそういう部分で補っている事例があるのは、知らなかったです。僕たちも色々な場所に行っても、やっぱり『人が足りない』というお話をよく聞きます。そこに対して直接的なアプローチをされているのは、本当にすごいなと思いました。

堀社長：私や社員がベトナムに行って、直接面接をやってるので全部わかります。
例えば【10人】の中から【4人】選ぶという時に、必ず加工場の工場長もリモートでに入ってもらって、しっかり見てもらう。現場で指示を出して動かす人、実際に一緒に働く人が選ぶっていうのは、健全な価値観。

独断で連れてきてどんな人かもわからないまま、一緒に働くことになったところで魂こもらないよね。そのベトナム人の方もうまくやれないよね。
工場長は自分で判断をして選んだ。その方の人生半分、5年、10年、「俺が左右するんだ」と思わせることが健全な価値観。責任があるから、そのためにしっかり面倒見るんだよね。そういうノウハウが色々あって、紹介してます。

去年も行ったんだけど、伊豆のあるホテルのオーナーも一緒に行ったりして。

伊藤：そこでもしっかりと人を見て、社員さんを選んだ上で入ってきてもらうというところは、徹底されているのですね。
ベトナムに直接行っているというのは、びっくりしました。てっきり全てリモートで面接をして決めていると思っていました。

堀社長：東京の豊洲の工場の面接で、候補生が【6人】がいる中で【2人】選ぶ予定だったんですよ。そしたらリモートで入ってた工場長が 「社長、もう1人いいですね」と。「予算2人じゃないの？」って。「いや、3人でお願いします」ってなって、経理も「なんとかします」って。「じゃ、わかった」と。
そういう形で言ってくれるようにしていくのがトップの仕事だと思う。

実技試験もあります。『大豆を箸で1つずつ30秒で何粒動かせるか』とか。『線上に間違いなくハサミがいられるか』とか。
あとは「折り紙で鶴を折るからその真似をして」と。「日本は『角』と『角』を合わせる文化です」と。「ここがずれちゃダメです」と。
『言った通りにやる』っていうことをやります。あとは半年間、日本語研修をしてから来日します。
来たら、東京に全社員集めて「この22歳の子たちがベトナムから来ました」「学校を卒業して初めて就職するのが海外で、全く知らない土地に来ました」と。「あなた方の息子だとかお孫さんたちと同じ年代です」と。そういう子たちが1人で海外に行って仕事をするとなった時に、「あなた方の息子だとか孫だと思ってください」と。どれだけ大変なエネルギーで来るのか。

そういう意味で「どんどん声をかけてやってください」と。「日本語があんまり通じないな」って思っても、「5回も10回も声かけてください」と。
愛情をかけてやっていかないと、ということをスタートに言ってあげるのが大事。最初にそういう価値観をしっかり伝えておいて「俺の孫と同じぐらいの年齢だな」と。立場を置き換えて考えたら、大変だなって思うわけじゃない。そういうのが大事。

SS伊豆も理念の元に

伊藤：最後になりますが、SS伊豆に対して思うことや期待などがあれば教えてください。

堀社長：ステージも上がってなかなか苦戦されてるみたいで。
そうするとまた組織的にも、チーム的にも色々ギクシャクしたりとかする部分が出てくると思う。それはそれで勝負事だから大変かもしれないけど、SS伊豆にも理念があると思うんだよね。それをしっかり基本に戻って、やるからには本気でやるっていうとね、楽しくなる。
絶対誰かが助けてくれるし、本気でやっていると光が差してくる。うまくいかないのは本気さが足りていないと思うし、本気でやってると楽しくなるはず。
そういうものを、SS伊豆なりに見出して、また半歩、1歩、進んで行ってもらいたいなと思います。

伊藤：本日はお忙しい中、ありがとうございました。

(2024年5月某日、株式会社総食 本部にて)

堀 貴光(ほり たかみつ)

株式会社総食 代表取締役社長

「仕入力」「提案力」「スピード」の３つの価値に絞り
「これに拘り」「これに磨きを掛け」
お客様のお役に立てる会社創りを目指すと共に

仕入先様・生産者様と「三方善しの精神」により
他者とは一味違った価値を「感動」と共にお届けすることを目指している。

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