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初めて孤独と目が合った [前編]

起業家という道を経て、今は二作目の出版を目指している橋本なずなです。

今夜、私は不思議な体験をした。
それは彼( 以下、たっくん )と一緒にお風呂に入りながら、仕事について話していた時のこと ———


「 たっくんには “師匠” とかって思える人が沢山おって羨ましい 」
『 うーん・・・俺の意見、言っていい? 』
「 うん?いいよ? 」
『 なずなはもっと視野を広げたら良いと思う 』
「 ・・・・・うん? 」
『 俺は場数を踏んで今があるからさ、なずなももっと人に出会ったら良いと思う 』
「 ・・・・・ 」
「 ・・・・・ ・・・・・」

【 それって、それだけあなたが恵まれてたってだけやと思う 】
『 うーんっ、恵まれt… 』
「 だって私の周りにはロクな大人がいなかったもん 」

【 それってさ、じゃあ何回やったらあなたの場数とやらに及ぶの?具体的な数字で言ってよ 】
『 え、、どういうこと? 』
【 仮にあなたの踏んできた場数が100やとして、そんなあなたから見て私の場数が50やとする。そしたらあなたの場数には及ばないから、もっと視野を広げて、もっと色んな人と出会ったら良いって言ってるんでしょ? 】
【 だったらその、あなたの場数とやらが具体的に何回なんか教えてよ? 】

「 ヒトのアイデンティティが形成される幼少の大事な時期にさ、私は小学3年、4年、5年ってたった3年間で、お父さん、お兄ちゃん、お祖母ちゃん、お爺ちゃん、叔父①、叔父②、性的虐待を受けたオジサン、7人もの大人に裏切られたんよ 」
「 中学に上がってからも学校の先生たちはロクでもなくて。幼少期のたった数年の間に、私はたくさん人に失望してきたんよ 」


「」は私が、『』は彼が、【】は多分 “なずなちゃん” が言った言葉だ。

彼の言葉以外、すべて私が発した言葉ではあるのだけれど、【】の言葉を話している時、“脳と口が切り離されている” ような感覚に陥っていた。
私の意思に反して口が動いていて、彼を含めたその場の様子を第三者的に、俯瞰的に見ている自分もいた。

その後、お風呂から上がろうと、バスタオルを手に取り顔をうずくめた時、津波が押し寄せるような勢いで ぐわぁっ と涙が溢れ出た。
私はとても堪え切れず、バスタオルで顔を抑えたまま浴室の床にしゃがみ込んだ。

『 なずな?大丈夫?? 』
「 ・・・・・ 」
【 一人にして 】
『 …分かった。先に上がるな 』

彼が浴室を出ると、私はシャワーの蛇口を捻った。

「 っ、うぅっ・・・っ、はっ、ぁう・・・っ 」

泣いている声を聞かれぬように、シャワーの音でかき消そうと思ったから。

暫く泣いた後にようやくお風呂を出ると、パジャマを着て、髪を乾かそうとドレッサーの前に立った。

鏡に映る自分を見つめる。目がほのかに赤く腫れている。
ドライヤーのスイッチを入れる。短くなった髪が端的に揺れる。

髪を乾かしながら考えていた。
幼少期に裏切られた人の数をさっきは7人と言ったけれど、思い返せばそれどころではなかった。

母に対する悪意のある噂話に踊らされたご近所さんたち、中学時代のクラスメイト。
私の苦しみを助けてくれなかった、気付いてくれなかった人たち。私と母を傷付けた人たち。
それを一括りに “裏切られた” と表現するには大雑把な気もするけれど、その当時、私は確かに感じていた。

誰も助けてくれなかった、と。

小さな私にとっては、その “誰も” を、この “社会” 、いや、 “世界” と捉えても過言ではなかった。
10歳前後の少女が見ていた景色は確かに狭いものであっただろうが、それが少女のすべてで、そのすべてに、頼ることができなかったのが現実だった。

それが、私の幼少期だった。

そんなことを考えていると再び涙がこみ上げて、堪らず持っていたドライヤーを床に投げ捨て、私もその場に崩れ落ちた。

後編につづく

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