好きな人と食べる深夜のカップラーメン [後編]
『 まだ離れたくない 』
そう言って彼は私を抱き締めると、馴れた具合にキスをした。
「 あかんよ。引っ越したばっかりで、うちの中めっちゃ散らかってるし 」
——— 翌日、隣に眠る彼の寝顔とともに朝を迎えた。
( 前編はこちらから )
引っ越し当日に男性を連れ込むなんて。
白いシェルフの上で眠る母も、飼っている二羽のうさぎたちも、『 ほんまに相変わらずやな~ 』 と思っていることだろう。
けれど、私たちは身体を交えることはしなかった。
『 我慢しよう。どっちが耐えられるか勝負や! 』
彼のその一言で、昨夜はただ一緒に眠っただけだった。
まるで、ドラマ “来世ちゃん” シーズン3の桃ちゃんと松田くんのような関係だなと思った。
“ヤリ○○” と “ヤリ○○” の二人が、軽い関係にならないように真剣交際に向けて奮闘をする。
そして “来世ちゃん” の二人のように、私たちも真剣に向き合うことを始めた。
その日から毎晩、彼は私の家で寝泊まりしている。
持ち寄ったワインとビールで宅飲みしたり、食器類の荷解きが済んでいないからフライパンで焼いた餃子をそのまま手で食べたり。
お互いの過去について話をしたり、馬鹿みたいに笑い合ったり。
彼とやよい軒に行けば、遠慮してご飯をおかわりできないくらいには、
彼とドンキでお買い物をすれば、帰りに黄色い袋を大きく前後に振りながら歩いてしまうほどには、私はすっかり彼のことが好きになっていた。
そしてある時、私のこれまでのnoteを読んだという彼が、
——— 『 お前、ほんま強いな (笑) 』
私を真っ直ぐに見つめながら、照れ隠しするように笑って言った。
『 これからは俺が守るから、安心してええで 』
「 えー、へへ、嬉しい。ありがとう 」
『 だから、付き合おう 』
「 ふふっ。うんっ! 」
それから私たちは一緒に浴槽に浸かって、ずっとずっと話をした。
洗面台には彼のブルーと、私のピンクの2本の歯ブラシが置かれていた。
次の日、前の家の片付けを終えた私は彼に電話を掛けた。
「 ・・・あ、もしもし? 」
『 っ、ススッ。ん、もしもし 』
「 え?どうしたん、泣いてるん? 」
『 別に…っ、泣いてないよ 』
彼は、泣いていた。
その日、彼は私の本 “10歳で私は穢された” を読んでくれたそうだ。
少しだけ読んだらジムに行こう、と思っていたのに、読み出したら止められなくて一気にすべて読み切ったのだと言う。
『 なずな優しすぎるで 』
『 俺、これまでなずなに関わってきたすべての人に感謝してる 』
『 お母さんもやし、元彼さんもほんまにスゴい人やな 』
『 俺が守るとか言ったけど、そんな気安く言えんって思った。やけん、俺も行動で示して行こうって思ってる。元彼さんがしてたように 』
『 生きててくれてありがとうな。俺と出会ってくれて、本も読ませてくれてありがとう 』
電話のあと、家の近くのセブンイレブンで待ち合わせをすると、先に着いた彼がレトルト食品の棚の前で立っていた。
「 よっ、お待たせ!・・・ん?カップラーメン食べるん? 」
彼の持つカゴの中には、日清のシーフードヌードルが2つ入っていた。
『 “深夜に食べるカップラーメン” 好きやろ? 』
「 …! 」
それは “10歳で私は穢された” に書いた、私が好きなものの一つ。
深夜に食べるカップラーメン、その背徳の味をもう少し味わっていたいから私は今日も生きている。
人の為に涙を流せて、私の歩幅に合わせてくれて、広い心を持った彼のことが大好きだ。
彼と食べる深夜のカップラーメンは、これまでのどんな食事よりも美味しく感じられた。
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