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今年もお盆がやってきた
今年もお盆がやってきた。
「お盆」。良く考えれば妙な名前ではないだろうか。こんな生活用品の名前がついている期間が他にあるだろうか。「お皿」「お椀」「お箸」「お風呂」「お布団」。やっぱりそんな名前のついた期間はなさそうだ。
先祖の魂が帰ってくる期間というのは知っているが、なぜ「お盆」という名前がついたのだろうか。
子供の頃は漠然と、
(お供え物をお盆に載せて置いておくからかな?)
などと鼻を垂らしながら考えていたような気もするが、良く考えると「うら盆」などと言う言葉も聞いたことがある。
(これは「裏本」と聞き違えちゃったので良く記憶に残っている。実に不敬と言えよう)
では「裏盆」があるならば「表盆」もあるのだろうか。しかし「表盆」という言葉はあまり聞いた記憶がない。
ある年のお盆にふとそんな事を感じて調べてみた事があった。
***
物の本を見てみるとそこには、いわゆる「お盆」自体の正式名称が「うらぼん」であり、漢字では「盂蘭盆」と書くのだと書かれていた。仏教用語から来ていると言う。
(そうか、裏表ある訳じゃなかったのか…… )(※1)
そこで、その「盂蘭盆」の意味を調べるとこうあった。
「盂蘭盆」とは仏教行事の一つ。 餓鬼道などにおちて倒懸(さかさまにつるされること)の苦しみを受けている亡者のために仏事を行ない、その苦しみを取除くこと。
これは穏やかではない。
我々の先祖は皆さかさまに吊るされていると言うことか???
確かに「盂蘭盆」という言葉は、サンスクリット語の「ウランバナ(逆さ吊り)」から来ているとも書かれている。すなわち「お盆」というのは「逆さ吊り」と言う意味なのか? 先祖供養の儀式の名前としては激しすぎるのではないか?
しかし、先を読み進むとこうも書かれていた。
釈迦の弟子である目連が、餓鬼道におちた母の苦しみを除こうとして僧たちを供養したという『盂蘭盆経』と言う伝説に基づいている。
そこでこの『盂蘭盆経』というエピソードの概要を調べて見た。これは色々と考えさせられる話だった。素人の私が端折って書くとこんな感じの話である。
『盂蘭盆経』
この話は、目連尊者(もくれんそんじゃ)の親を思う気持ちが根底に流れる物語。仏陀(釈迦)の弟子の目連尊者は修行を重ね身に神通力を身に着けており、その力を人々のために活かしていた。
ある夏の暑い日、木陰で休んでいる目連尊者の前を楽しそうに通って行く母子を見て、何年も前に亡くなってしまった母親を思いだした目連尊者は、 神通力の一つ「天眼」を使い会いに行くことにした。
「あの優しかった母は今どこにいるのか」
母を探すうちに地獄の入り口にたどりついた目連尊者はまさかと思いながら中に入る。
焦熱地獄を覗いた時に、逆さ吊り(ウランバナ)で飢えと渇きに苦しんでいる母を見つけた。飢餓道で苦しむ母親は目連尊者に一杯の水を頼んだが運んだ水は熱さで煮えたぎり、渡した御飯は口に入れる前に灰と化してしまった。
目連尊者が号泣しながら仏陀にそれを伝えると、そこにいた仲間から目連尊者の母親の悪業を聞かされる。目連尊者の母親は目連を大変かわいがったが、そのあまりに道理がわからなくなり、夏のある日家の前を通りかかった人が一杯の水を恵んで欲しいと頼んだ時に、母親は「この水は目連の水」と答えるのみで、何度頼んでもあふれんばかり水の入っていた水瓶のふたを取ろうとしなかったのだと言う。
目連を思うあまり施しを忘れ、道理を見失った母親が飢餓道に落ちたという事実は、目連尊者を苦しめた。
悲しみに打ちしおれる目連尊者は再度仏陀を尋ねた。すると仏陀は「過去を取り返すことはできないが、母親のできなかったことをすることはできる」と言い「雨期があがり僧侶も夏の修行に一段落つく日に人々も町に出てくる。この人たちに母親の出来なかった事をするがよい」と示した。
この日、目連尊者は食べ物、飲み物、寝床を用意して人々に施した。そしてその後、目連尊者が再び母親を訪ねると白い雲に包まれた母親がうれしそうに空に登っていくところが見えた。目連尊者は心から喜び、そして仏陀に 「もし後の世の人々がこのような行事をすればたとえ地獄にあろうとも救われようか」と尋ねると、仏陀は 「もし孝順心を持ってこの行事を行うなら必ずや善きことがおこるであろう」と言った。
利他を心がけると、自分にも利(喜び・幸せ)が返ってくるという教えのある話である。これが今のお盆の発祥となっているとのことだった。
また、お盆の時期が地方により異なっているのにはこんな背景があるとのことだ。
『盂蘭盆会』
太陰暦7月15日を中心に7月13日から16日の4日間に行われる仏教行事のこと。盂蘭盆、お盆ともいう。
日本における日付については、元々旧暦7月15日を中心に行われていたが、改暦にともない新暦(グレゴリオ暦)の日付に合わせて行ったり、一月遅れの新暦8月15日や旧暦の7月15日のまま行っている場合に分かれている。
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私の生まれた地域のお盆は8月だったのだが、そんなお盆の仏事的な意味を知らない子供の頃の私にとっても「お盆」は別の意味で重要な行事だった。
1年に一度しか会えない従兄弟(いとこ)、いわゆる親戚の兄ちゃんや姉ちゃんと遊べる貴重な機会だったのだ。毎年お盆の時期には田舎の祖父の家に集まり一緒に過ごすことができたのだ。
1年会わないと子供は結構変わる。同じガキ・カテゴリーで遊んでいたはずの親戚の姉ちゃんが、ある年に急に激変して妙に女らしくなっていて話しかけにくくなったのだが、話をしてみると変わっていないのでホッとしたりすることもあった。
私の両親は兄弟が多く、それが子供を連れて集まるので多い時には祖父の家の同じ屋根の下に30人くらい集まったこともあったのではないだろうか。
昼は山で遊び、夜は親戚のオジちゃん達がガラガラと手詰みで麻雀などしているうるさい音を襖の向こうに聞きながら皆で雑魚寝したが、それも懐かしい思い出である。
少子化が叫ばれているが、いつかまた日本が活気を取り戻して我々の次の世代もまた人情あふれる社会で生活してくれると良いなと思う。
いわゆる Z世代の若者は基本的に優しい。とても優しい。私はきっと彼らなら、彼らなりの違った形で温かい社会を作ってくれるだろうと思っている。
(了)
※1 一部の地方によっては8月上旬のある時期を裏盆、いわゆるお盆を表盆と二つの時期に分けて設けているところもあるようです。
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