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第86回:この物語からあなたは心に何を描く?

こんにちは、あみのです。今回の本は、七月隆文さんの『100万回生きたきみ』(角川文庫)という作品です。

七月さんの作品は意外な展開を取り入れた恋愛小説が多く、新作が出るたびにわくわくしながら読んでいます。また、青春小説なのかファンタジーなのか読む前からいろいろ想像してしまうカバーイラストも購入の決め手になりました。

今作は青春小説が好きな人はもちろん、ファンタジー作品が好きな人にも楽しみやすいんじゃないかなと思います。「生まれ変わり」が重要なカギとなる視点が新しい恋愛小説。読んでいると登場人物たちと一緒に冒険しているような感覚が味わえます!

あらすじ(カバーより)

美桜は100万回生きている。さまざまな人生を繰り返し、今は日本の女子高生。終わらぬ命に心が枯れ、何もかもがどうでもよくなっていた。あの日、学校の屋上で身を投げ、同級生の光太に救われた瞬間までは‥‥‥。「きみに生きててほしいんだ」そう笑った光太に美桜はなぜか強烈に惹かれ、ふたりは恋人に。だがそれは偶然ではない。遥かな時を超え、再び出逢えた運命だった――。100万の命で貫いた一途な恋の物語。

感想

美桜の同級生の光太は、自らを「英雄」と名乗る不思議な人物でした。なぜ彼は「英雄」を名乗っているのか?その理由は今から2500年前を生きたタラニスという人物の物語へと繋がります。更に美桜は、タラニスが想いを寄せていたミアンという女性が生まれ変わった姿であることも判明します。

「女神の呪い」によってミアンとの恋を果たせなかったタラニス。呪いを解くために人間やそれ以外に生まれ変わっては様々な時代を生き、同じく生まれ変わったであろうミアンを探す彼の物語は、壮大なスケールのアニメ映画を見ているような感覚で楽しめました。

青春小説の雰囲気から一気にファンタジーへと姿を変える今作ですが、物語の後半は少しSFチックな展開へ更に姿を変えます。このような読み進めなければわからない「驚き」があるのも非常に七月さんらしい演出だと思いました。一瞬戸惑う展開があっても、状況の説明がわかりやすかったので、後半もすんなり読むことができました。

***

タラニスは「光太」として生まれ変わり、「美桜」として生まれ変わったミアンと再会を果たします。しかし、初対面のときの美桜は物語の序盤で登場した彼女とは別人のように描かれていました。光太の回想に登場した「天才物理学者」の美桜は何者なのか?彼女の秘密を紐解くミステリアスな展開も見逃せなかったです。

長い時を超えて両想いにはなれたけど、逃れられない運命が光太と美桜の関係を引き裂こうとします。関係を永遠のものにするために美桜の力も借りて呪いを解こうとする光太の姿は、かつてタラニスが英雄として強敵に挑んだときの姿と重なって見えました。

美桜やミアンを愛する気持ちが困難に立ち向かうための力になる。今作で描かれていた「愛」という感情はとても美しくて、読んでいる私の心の中に絵の具で色鮮やかな絵が描かれていくような読書体験ができました。そして、完成したその絵こそがラストで光太と美桜が見た景色ではないかと思いました。

また今作は光太と美桜の関係を描いた物語ではありましたが、作中にて「生まれ変わり」をしていたのは2人だけではないと私は思いました。2人の恋を応援するかのように登場した猫や蝶などの生き物は何だったのかなど、些細なシーンから想像が膨らむところも今作ならではの楽しさでした。

様々なジャンルの良さを盛り込んだ贅沢なストーリー構成と、絵画を完成させるかのように時を超えた恋が叶っていく達成感。これまで読んだ恋愛小説では味わったことのない感覚が楽しめた新鮮な1冊でした。

この感想文で今作に興味を持った方は、ぜひ手にして自分なりの光太と美桜、タラニスとミアンの物語を心の中に描いてみてください!

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