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第47回:あなたは『魔術師』の美しさから逃れられるか

こんにちは、あみのです!今回の本は、以前から気になっていた谷崎潤一郎の『魔術師』乙女の本棚シリーズ版です!

今作の担当イラストレーターは、『猫町』と同じくしきみさん。今作は、現実離れした妖しげなストーリーが特徴的だったので、しきみさんの画風ととてもよく合っていたと思います。

あらすじ(巻末の既刊リストより引用)

私の魂は磁石に吸われる鉄片のように、魔術師の方へ引き寄せられているのでした。
初夏の夕べ、恋人と公園に行った私は、そこで小屋を出している若く美しい魔術師に出会った。

感想

「魔術師」が主人公のカップルに見せている「魔術」は、妖しげなサーカスを延々と見続けているようなただただカオスな空間でした。

魔術師の美貌に魅了され、彼のものとなった人間たち。「奴隷」となった人間たちは、魔術師になりたい姿を告げると、彼の魔術で次々に望みの姿へと変えていく。その姿は、孔雀、豹の皮、純銀の燭台などと様々。

人間以外の姿として、一生魔術師のために生きることを望む奴隷たちの願いからは、彼らがどれくらい「魔術師」という「沼」に落ちてしまったのかがよく感じられます。

語り手の男も魔術師沼に落とされた人間のひとりでした。彼には恋人がいますが、美しすぎる魔術師を前にすると、恋人がいることもすっかり忘れてしまいます。

魔術師の美しさを観察し、目の前の魔術に魅了されているときの男の描写にもぜひ注目して読んでほしいです。

一方恋人は、魔術師に興味を持ち始める男を見て、自分の存在を忘れてしまうのではと不安を抱きます。もし私が恋人の立場だったらと考えると、彼女が魔術師に嫉妬してしまう気持ちも凄くわかります。

物語の終盤、見事に魔術師の「奴隷」とされ、姿を変えられた男。それを見た恋人は、魔術師に男を元に戻して欲しいと頼みます。しかし、彼女の願いは思いもよらぬ形で叶うことになります。

これは恋人にとってのハッピーエンドか、それとも儚い恋の終わりなのか。2人の恋の結末を目撃した魔術師のサディスティックな表情が想像できます。

今作も『秘密』同様、男性目線でありながらも、時折女性の純粋な恋愛感情が描写に含まれていたところが私はとても好きでした。

誰もが逃れられない、恐ろしくも美しい魔術がかかっている物語。私も物語が終わったとき、すっかり魔術師に魅了されていました。彼の魔術は不気味だけど、また会いに行きたい。

複雑な恋愛感情と幻想的な世界が一気に味わえる、今まで読んだ谷崎作品とはまた違った良さを放っていた作品でした!

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