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第58回:好きな人との思い出って、宝石に似ている

こんにちは、あみのです。今回の本は、柴野理奈子さんのライト文芸作品『思い出とひきかえに、君を』(集英社オレンジ文庫)です。

何年かぶりに行った昔から好きな本屋で発見した作品。少女漫画のようなカバーイラストに惹かれてしまい、思わず購入しました。本屋って、お店ごとの個性があるので、行った本屋によっては予想外の本に出会うこともあります。(これが楽しい)

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今作は、好きな人との「思い出」がカギを握る物語です。主人公が、好きな人と過ごす時間を大切にする姿には、きっと共感してしまう人もいるかと思います。「もし、自分が主人公の立場だったら」を想像して読みたい、青春の「きらめき」と「痛み」が詰まった甘酸っぱい作品です。

あらすじ(カバーからの引用)

願いが叶えば叶うほど、君とのキョリが遠くなる――。
高1のひまりは、片想い中の陸斗に告白することに。けれど、事故にあった陸斗は、約束の時間にあらわれなかった。その日、ひまりは不思議なお店に迷いこむ。”思い出とひきかえに願いを1つ叶えてくれる”という。陸斗を助けるため、彼との思い出を売るひまり。しかし、2人にとって大事な出来事の記憶まで失い、陸斗とすれちがい…!?
せつなくて泣ける恋物語。

感想

小学生の頃に好きだった少女漫画を読んでいるような、不思議と懐かしさを感じてしまう作風でした。とにかくひまりの陸斗に対する恋愛感情が純粋すぎて、純粋さが生む可愛さや残酷さをところどころで感じました。

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中学時代から陸斗に想いを寄せるひまり。人気者の陸斗と些細な会話をすることが、ひまりにとっての幸せでした。でも、その幸せは陸斗が事故に巻き込まれたことによって失われてしまいます。

そこでひまりが出会ったのが、「出庫裏屋(ディクリヤ)」という奇妙なお店。ちなみに「ディクリヤ」はアラビア語で「思い出」という意味です。出庫裏屋では、自分が持っている思い出の品とひきかえに、願いを叶えることができます。

陸斗との幸せな日常を取り戻したいと願ったひまりは、彼から貰ったストラップを早速売ります。だけど、彼女の願いはなかなか陸斗には届きません。ひまりは出庫裏屋へ頻繁に通うようになり、次々と陸斗との思い出の品を手放してしまいます…。

せっかく積み上げてきた陸斗との思い出を一瞬にして手放してしまうひまりの姿には、読んでいてとても苦しくなりました。なんで素敵な思い出たちを、ひとつの願いのために捨ててしまうのか。正直、私にはひまりの気持ちがよく理解できませんでした。

思い出を手放すたびに生まれるすれ違いと喪失。中でもひまりと陸斗の絆を縮めたかもしれない手袋は、物語の後半でひまりがこれまでの過ちに気が付くキーアイテムとなります。

自分にとっての楽しみを自ら手放し、陸斗との距離を遠ざけてしまったひまり。記憶が失われていく中で、ひまりは陸斗への感情を取り戻すことができるのか?後半は、私もひまりの気持ちになってハラハラしながら読み進めました。

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今作では、出庫裏屋でひまりが陸斗との思い出の品を売るたびに、それぞれの物に詰まった彼との甘酸っぱい記憶が回想されます。

陸斗を好きになったきっかけ、陸斗と仲良くなってから新たな興味や夢が生まれたこと、日常での何気ないやりとり。物に込められたひまりの思い出たちは、キラキラとした宝石のようでした。

たくさんの「思い出」という宝石が積み重なって成立しているこの物語の美しさ、私はとても好きです。

ちょっとした会話でも、恋をしている人にとっては充分な「思い出」。今作は、人を好きになる楽しさや辛さ、思い出を喪失することの残酷さを感じられる物語でした。

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カバーに惹かれてなんとなく読んだ作品。日々の「胸キュン」がいっぱいに詰まった良作でした。大切なことを学べるだけでなく、たくさんの胸キュンも味わえる点は、今作の最大の魅力だと思います。

また、帯の読書メーターユーザーの感想で「シリーズ化してほしい。この話、もっと読みたい」というものがありましたが、私も非常に同感です。出庫裏屋に重点を置いて、友情とか幅広いテーマを描いたら、シリーズものとしても充分成立できると思います。

他の同ジャンルの作品とは違う角度から「青春」の素晴らしさを味わうことができた1冊でした。

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今回も私の感想文を読んで頂き、ありがとうございました!
良かったらまた読んでください。

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