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第146回:「彼女」がつなぐ温かな想い(一条岬:君が最後に遺した歌)

こんにちは、あみのです!
今回の本は、一条岬さんのライト文芸作品『君が最後に遺した歌』(メディアワークス文庫)です。

数年前に読んだ『今夜、世界からこの恋が消えても』(以下『セカコイ』)という作品が凄く印象的な作品だったので、著者の2作目となる今作ではどんな世界を見せてくれるのか気になって読んでみました。

意外性のある青春小説だった『セカコイ』に比べると、今作は比較的王道路線なストーリーかなと個人的には思いました。
「創作」が物語のカギにもなっているので、何かを作ることが好きな人にはより心に刺さる要素もある作品かと思います。

あらすじ

これは僕にたくさんの宝物をくれた、ある女の子の物語。
 田舎町で祖父母と三人暮らし。唯一の趣味である詩作にふけりながら、僕の一生は平凡なものになるはずだった。ところがある時、僕の秘かな趣味を知ったクラスメイトの遠坂綾音に「一緒に歌を作ってほしい」と頼まれたことで、その人生は一変する。
 ”ある事情”から歌詞が書けない彼女に代わり、僕が詞を書き彼女が歌う。そうして四季を過ごす中で、僕は彼女からたくさんの宝物を受け取るのだが‥‥‥。
 時を経ても遺り続ける、大切な宝物を綴った感動の物語。

カバーより

感想

詩を書くことが好きな春人と、歌うことが大好きな綾音。それぞれの好き・得意をきっかけに絆を深め、次第に恋愛に発展していく関係がとても素敵な物語だったとまず思いました。

春人と関わり始めたことで綾音は歌うことがもっと好きになり、「プロ歌手になりたい」という夢ができます。高校卒業後は上京し、多くの人に才能を認めてもらったことで綾音は見事夢を叶えます。

一方で地元に残った春人は綾音が夢を叶えたことに喜ぶ一方、一気に誰もが知る人気歌手になったことで、彼女が別人になってしまったような寂しさも同時に感じ始めます。
この頃の春人の気持ちは、前から応援していた歌手や作家などが一気に有名になった時によく似ていると私は感じました。

人気者になった綾音とはもう仲良くできないのか…と思いきや、綾音のライブにて運よく再会し、春人と綾音の新たな関係が動き出します。高校時代には伝えられなかった気持ちも伝えることができ、2人は恋人同士になります。高校時代にはできなかったことをとことん楽しむ2人の姿が凄く幸せそうでした。

特に綾音は高校を卒業してから生活がかなり変わってしまったので、春人と運命の再会をしたことや周りにバレないよう彼と好きなことをした時間は一生分の宝物になったと思います。

「綾音」という素晴らしい歌手が遺した歌が、彼女の存在が、春人をはじめとする今を生きる人たちの心を動かしていく。ラストでは綾音の想いが春人たちの娘に受け継がれる様子が描かれ、いい作品っていつまでも人々の心に残っていくんだなと思いました。次は春人たちの娘が綾音のような影響力を与える歌手になったら素敵ですね。

『セカコイ』とは異なる雰囲気の物語でしたが、作者の新たな魅力を知れた1冊でもありました。一条岬さん、これからどんな世界の物語を見せてくれるのかますます楽しみな作家さんです。

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