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第101回:「好き」があるとやっぱり強いよね

こんにちは、あみのです。
今回の本は、木爾きなチレンさんの『みんな蛍を殺したかった』という作品です。最近、本屋で見るたびに凄く気になっていた1冊です。

ひとりの美少女の死というダークな雰囲気と、「オタク」という今作を象徴するキーワードが印象的な物語。
3人のオタク女子とひとりの美少女が抱えるそれぞれの「秘密」は、今作最大の謎にどう関わってくるのでしょうか?痛々しい感情・シーンもありますが、一方で何か夢中になれるものがひとつでもある人には共感できるポイントもある作品だと思います!

あらすじ(Amazonより)

京都の底辺高校と呼ばれる女子校に通うオタク女子三人、校内でもスクールカースト底辺の扱いを受けてきた。
そんなある日、東京から息を呑むほど美しい少女・蛍が転校してきた。
生物部とは名ばかりのオタク部に三人は集まり、それぞれの趣味に没頭していると、蛍が入部希望と現れ「私もね、オタクなの」と告白する。
次第に友人として絆を深める四人だったが、ある日、蛍が線路に飛び込んで死んでしまう。
真相がわからぬまま、やがて年月が経ち、蛍がのこした悲劇の歪みに絡めとられていく――

感想

目立たない女子高生の栞、雪、桜の3人は、好きなもの・ことに熱中できる共通点があり、「生物部」という名のオタク女子の集まりを日々の居場所としていました。
そんな生物部に、蛍というどう見ても住む世界が違う超絶美少女が興味を示したところからこの物語は動き出します。

蛍も自分たちと同じく「オタク」なのか?と疑問を感じる3人ですが、それぞれの「秘密」を受け入れてくれた蛍に栞たちは心を開いていき、仲を深めていきます。

それにしても蛍はなぜ生物部に興味を持ち、栞たちと仲良くなることを選んだのか?その背景には、蛍が東京にいた頃に経験した家族と恋愛に関するとても悲しい記憶が関係していました…。

***

人間関係の悩みを抱え、二次元が心の支えとなっている3人の女子高生と、(表向きでは)完璧美少女な蛍。
タイプが異なる人間ながらも、栞たちの事情を受け入れてそれぞれが納得するような人間関係を築こうとする蛍にはじめは好印象を持ちました。

物語の前半は蛍の「良い一面」が中心に描かれていましたが、後半は彼女が生物部に迫った理由や過去が描かれ、前半の展開とはまったく違った「闇」の姿に驚愕しました。

何度も人生を振り回されたことから、「オタク」と呼ばれる人たちを忌み嫌っていた蛍。蛍が思っているように「オタク」は他人に迷惑をかける悪者なのか?今作は2006年~2007年が主な舞台となっていたので、過去と現代における「オタク」への考え方の違いに関する描き方も印象に残る作品でした。

確かに蛍がこれまでに会ってきた「好き」という感情を拗らせて、関係のない人を巻き込んでしまうオタクも少数ですがいると思います。
でも栞たちのように日々の楽しみとして、そしてひとつの居場所として様々な作品を好きになるオタクの方が圧倒的に多いのではないでしょうか。

現実に生きづらさを感じていても、小説や漫画やオンラインゲームに触れることによって、楽しさを得る毎日って本当に素敵だよねと今作からは強く感じました。どんなものでも「好き」がひとつでもあれば、日々の楽しみ方ってかなり変わると思います!

また栞は小説家の母の影響で自分でも小説を書いており、彼女の小説が蛍の心を救います。蛍は栞の小説に感銘を受け、小説の面白さを再認識します。栞と出会ったことで、様々な物語の世界に夢中になる蛍も充分に「オタク」ではないのでしょうか。

途中許せなくなるシーンもありましたが、救いのある物語でもあって、読み終えたときは心の中がすっきりしたような感じがしました。(意外な形でまとまった蛍の死という現実は、やっぱり切ない結末ではありましたけどね…)
「秘密」と通してつながる女子同士の絆に心が揺さぶられ、何かを好きになり夢中になることの魅力を最後まで読んで感じることができた1冊でした!

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