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第154回:弱さを乗り越えることもひとつの「卒業」(卒業 桜舞う春に、また君と)

こんにちは、あみのです!
今回の本は、スターツ出版文庫のアンソロジー『卒業 桜舞う春に、また君と』です。最近推している作家のひとり、汐見夏衛さんの短編が収録されているとのことだったので読んでみました。

汐見さん以外は今回のアンソロジーで初めて読む作家さんでした。アンソロジーって、好きな作家さんや惹かれたテーマをきっかけにこれまで知らなかった作家さんにも出会えるところがいいですよね。

素敵な恋や成長の物語が多いスターツ出版文庫ならではの物語が楽しめるアンソロジー。収録されている4つの物語の中には、これからを変えるヒントを教えてくれる物語に出会えるかもしれません。

あらすじ

作家4人が「卒業」をテーマに忘れたくない一瞬を紡いだ短編集
卒業式を前になぜか大切な友達と一緒に過ごせなくなった女子高生(『桜の花びらを君に』丸井とまと)、兄の急死で自分の居場所を見つけられず反抗する男子中学生(『初恋の答えは、約束の海で』水葉直人)、亡くなった彼との叶わぬ再会の約束を守ろうと待ち合わせ場所を訪れる女性(『花あかり~願い桜が結ぶ過去~』河野美姫)、自分宛てではないラブレターに正体を偽って返事を書く女子高生…(『うそつきラブレター』汐見夏衛)。桜舞う春、別れと出会いの季節に、さまざまな登場人物が葛藤し成長していく姿に心救われる一冊。

カバーより

感想

「卒業」がテーマの作品集だったので、「別れ」の物語が多いのかなとはじめは思っていました。だけど実際に読んでみて、自分の中にある弱さを乗り越えることをひとつの「卒業」として描いていた物語が多かった印象を受けました。

同じ「卒業」というテーマでも作家さんによって恋愛要素が強めだったり、主人公の成長を中心とした物語になっていたりと作品ごとの個性が感じられたところもいいなと思いました。

以下収録されている4作品の感想です。

桜の花びらを君に

(作者:丸井とまとさん)

親友と同じ人を好きになってしまった。1本目の物語は恋愛や友情における「後悔」が大きなテーマとなっていて、この物語に共感する人もいるんじゃないのかな?と思いました。

物語は主人公・悠理が高校時代の思い出を回想する形で展開します。瀬川くんを好きになった瞬間と、もともと彼のことが好きだった采花を裏切ったことへのモヤモヤ…キラキラした青春の思い出だけでなく、友情と恋の間で揺れ動く複雑な気持ちの描き方もまたリアルでした。

また切なさと同時に、物語に隠されていた仕掛けが明らかとなるラストシーンも印象的で、改めて読んでみると作中の景色がまた違って見えました。

初恋の答えは、約束の海で

(作者:水葉直人さん)

私がこのアンソロジーで1番心に残った作品です。
難病の少女との交流を通して主人公が成長していくという王道なストーリーではありましたが、「どんなに取り返しのつかないことをしても、努力次第で人は変われる」という作中のメッセージが強く響きました。

鷹広はたくさんの人に迷惑をかけてしまったことや兄の死によって、将来の自分に希望が持てないところがありました。だけどなんとなく訪れた病院で美優と出会ったことで、少しずつ自分に自信をつけていきます。

美優とは残念ながらお別れになってしまいましたが、数年後に医者という大きな夢を掴めたのは彼女との思い出があったからこそなんだと思います。夢を叶えた鷹広の姿を見て、私も過去の自分を乗り越えて成長したい!と前向きな気持ちになることができました。

花あかり~願い桜が結ぶ過去~

(作者:河野美姫さん)

中学時代、大好きだった遼を事故で失ってしまった美咲。死んだ人にはもう会えないはず…だけど、地元に伝わる「願い桜」という不思議な桜の力で美咲は遼が生きていた頃にタイムリープします。今回のアンソロジーの中でもファンタジー色が強めな作品でした。

身近な人こそいついなくなるのかわからない。だからこそ、その時に後悔しないための行動を普段から心がけたい。そのようなメッセージをこの物語からは感じることができました。

「願い桜」の奇跡は、取り戻せないと思っていた遼との時間を取り戻してくれました。再会した美咲と遼、空白だった時間を楽しい思い出でこれからいっぱいにしていけるといいですね。

うそつきラブレター

(作者:汐見夏衛さん)

楽しみにしていた汐見さんの短編です。今回のお話は長編作品のような「生きづらさ」を描いた内容ではなく、少女漫画の読み切り作品のような恋物語でした。

主人公の靴箱に入っていた「木佐貫」という男子生徒からのラブレター。でもそれはクラスメイトの吉岡さん宛てのものでした。吉岡さんはラブレターを捨てようとしますが、勇気を出して手紙を書いた木佐貫くんがかわいそうと感じた主人公は嘘をついて彼に返事を書きます。封筒の中に入った桜の花びらや日常を切り取った写真たち…2人の文通、読んでいて凄くロマンティックでした。

物語の佳境にて木佐貫くんの意外な秘密が明かされます。彼が隠していた秘密からは、外見を磨く以上に内面を磨くことが大事であることを実感しました。綺麗な心って、嘘をつけないのですね。
文通のわくわくと、いつか木佐貫くんに嘘がバレるかもしれないドキドキが味わえた作品でした。


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