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第59回:これは、現代の『シンデレラ』の物語

こんにちは、あみのです。今回の本は、宇山佳佑さんの『恋に焦がれたブルー』という作品です。宇山さんが描く恋愛小説は本当に「泣ける」物語が多くて、自分の心が洗われていくような感覚になりますね。

今作は、横浜が舞台の最高にロマンティックな恋愛小説。海がある街は、美しい恋愛物語によく似合うと思います。

劣悪な家庭環境、好きな人との別れ、難病と今作には主人公とヒロインを引き裂こうとする様々な困難が訪れます。一生懸命に「ハッピーエンド」を掴もうとする2人の恋を応援したくなる物語です。

あらすじ(Amazonより引用)

靴職人を目指す高校生の歩橙(あゆと)は、同じ学年の青緒(あお)に恋心を寄せている。彼女はいつもボロボロのローファーを履き、友達も作らず、ひとりぼっちで笑顔を見せたことすらない。
歩橙はそんな青緒に手作りの靴をプレゼントしようと思い立つ。
「僕が作ります。あなたが胸を張って笑顔で歩きたくなる靴を」
不器用に、真っ直ぐに、恋する気持ちを靴に込めようとする歩橙。そのひたむきな想いに触れて、青緒も次第に彼に惹かれてゆく。
しかし二人を試練が襲う。彼を愛おしいと思う気持ちが、青緒の身体に耐えがたい痛みを与える不思議な病を発症してしまったのだ。
歩橙の言葉が、愛情が、してあげることのすべてが、青緒の身体を焦がすように傷つけてゆく……。

感想

生きることの「試練」を通して、宇山さんが得意とする「純粋な恋愛」だけでなく、「家族の大切さ」も同じくらいに感じることができた良作でした。

歩橙も青緒も家族と上手くいっていないところがあり、高校生の頃の彼らは日々家族と衝突してばかりいました。しかし、少しだけ大人になった彼らに、家族の「本当の気持ち」と向き合わなければならない時が訪れます。

「靴職人」という夢に反対する歩橙の父、青緒を虐げてきた親戚たち。家族が生きづらさの原因となっている場面は、読んでいてとても辛くなる箇所もありました。

でも、それぞれの「厳しさ」には、子どもへの「希望」やちょっとした「羨望」が背景にあったことがわかりました。家族の危機によって本当の気持ちを知り、お互いの考えを理解し合っていく歩橙と青緒の変化に心が揺さぶられました。

特に歩橙は、父が亡くなる前に会うことを選んで正解だったと思います。父からの温かな応援と、榛名先生から頼まれた「父のための靴作り」は、歩橙にとって父との最高の思い出になったのではないのでしょうか。

また、青緒を退学や家出に至らせるほどの酷いことをしてきた親戚たちでしたが、青緒を虐めていた背景には亡き彼女の母親の存在が関係していました。伯母や母の秘密を知ったことを機に、親戚たちとの関係を深めていく青緒の成長も印象的でした。それにしても、青緒の母も彼女と同じくらい苦しい恋をしていたのですね…。

***

今作で印象に残ったキャラクターが、歩橙の幼なじみの桃葉です。彼女は、昔から歩橙に想いを寄せていましたが、歩橙が一生懸命に青緒へアプローチする姿や、青緒の境遇を知ったことによって、2人の恋を次第に応援するようになります。

青緒とも歩橙を巡る「ライバル」ではなく、彼との恋を応援する良き「親友」といったポジションで登場していたところも好印象でした。桃葉がいなかったら、歩橙と青緒の恋は永遠に叶わなかったかもしれません。

それぞれが抱える苦しい秘密を知り、裏で2人の恋を支える桃葉の存在は、『シンデレラ』の物語における「魔法使い」のようでした。

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『シンデレラ』の物語になぞらえた、最後はきっとハッピーエンドが待っている予感のする物語。しかし、2人の恋は両想いなのにも関わらず、一筋縄ではいきません。それぞれの家族のこと、青緒の難病などの試練が2人の幸せな関係を邪魔してしまいます。

中でも、終盤にて歩橙に訪れた災難に私は驚愕しました…。彼は本当に青緒との夢を叶えることができるのだろうかと。だけど、歩橙は靴職人として最悪の事態に至っても、彼女との約束を果たす方法を生み出そうとします。

諦めないで夢と向き合う歩橙の姿勢に、青緒に対する本気の「愛」を感じました。今作は、感動するポイントがめちゃくちゃ多いのですが、クライマックスは特に胸が熱くなります。

たくさんの試練を乗り越えた先に見えてくる「ハッピーエンド」には、感動と幸福感で心がいっぱいになりました。私は、宇山さんが描く幸せなカップルを見るのが大好きです。

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今回も私の感想を読んで頂き、ありがとうございます。
素敵な恋にときめくだけでなく、家族の大切さも強く感じられるこの物語を読むことができて嬉しかったです。

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