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第82回:人付き合いって案外怖くないかも

こんにちは、あみのです。今回の本は、日野祐希さんのライト文芸作品『余命一年の君が僕に残してくれたもの』(スターツ出版文庫)です。

タイトルやあらすじから「シンプルな青春小説」の雰囲気が漂う今作ですが、カバーイラストが凄く好きで思わず購入してしまいました。

今回の感想文で今作の物語としての良さはもちろん、私が読んで得た学びも感じてもらえたらとても嬉しいです!

ちなみに日野さんの作品はこれまで何冊か読んだことがあるのですが、今作のようなジャンルの作品は初めてでした。本に関する話題が得意な作家さんなので作中には本関係のモチーフも多く登場し、作者の個性も感じやすい作品でした。

あらすじ(カバーより)

幸せの意味なんてわからなかった。君が僕の前に現れるまでは――。
母の死をきっかけに幸せを遠ざけ、希望を見失ってしまった瑞樹。そんなある日、季節外れの転校生・美咲がやってくる。放課後、瑞樹の図書委員の仕事を美咲が手伝ってくれることに。ふたりの距離も縮まってきたころ、美咲の余命がわずかなことを突然打ち明けられ…。「私が死ぬまでにやりたいことに付き合ってほしい」——瑞樹は彼女のために奔走する。でも、彼女にはまだ隠された秘密があった――。人見知りな瑞樹と天真爛漫な美咲。正反対なふたりの期限付き純愛物語。

感想

主人公の瑞樹は人付き合いが苦手で、同級生が相手でも思わず敬語で話してしまうところもあります。しかし美咲と出会い、図書委員の仕事を通じて少しずつ彼女と仲良くなっていきます。

はじめは「同盟」という名の仲でしたが、美咲が人気者の男子に告白されたことによって、瑞樹は知らないうちに彼女に恋愛感情を抱いていたことに気が付きました。いろいろあってお互いの「好き」が通じ合い、瑞樹と美咲は「恋人」という関係になります。

美咲は残りわずかの命を抱えて生活しているものの、病院で寂しく死を待つよりも、自分にとって幸せな時間を瑞樹と共に過ごすことをとても大切にしていました。この考えは彼女の両親も凄く賛成していて、美咲は素敵な家族に恵まれているなと思いました。娘と考えが一致しているのもあってか、瑞樹との関係もすんなり受け入れていたのもポイントが高い。

日々笑いながら前向きに残りの人生を楽しむ美咲ですが、彼女にも死が近づくことに対する恐怖を抱いていたところがありました。

「‥‥‥何で私の人生は、ここで終わらなくちゃいけないのかな。何で私だけ、病気なんてどうしようもないハンデを背負わなくちゃいけなかったのかな。別に私でなくてもいいじゃん。何で私の人生だけ、滅茶苦茶にされなきゃいけなかったの?入院して、長い間友達もできないで、俯いているだけの真っ暗な人生で‥‥‥。みんな、健康なのが当たり前な顔してのうのうと生きているのに、何で私だけこんな目に遭わなきゃいけなかったのかな」(p218)

上記のセリフこそが美咲がこれまで周りに隠してきた「怒り」だと思うし、今作のすべてでもあったと思う。考えをわかってくれる家族がいて、瑞樹という最高の恋人もできて。そんな彼女が近いうちにこの世を去ってしまうなんて、私の中にも「悔しい」という感情が生まれていきました。

そして、美咲の死後。瑞樹は彼女が遺したビデオレターを見てあることに気が付きます。それは、「美咲という素敵な恋人ができたくらいだから、瑞樹はもっと人間関係に積極的になってもいい」ということでした。彼女からのメッセージを受け入れた瑞樹は、次第に趣味の合う友達を作ることに成功します。

私も新しい人間関係に飛び込むことが凄く苦手で、今でも悩むときがあります。でも美咲からのメッセージのシーンを読んでいて、私もこれまで学校生活とかアルバイトにて様々な人と仲良くなれたから、これから出会う人ともきっと仲良くできるんだろうなと前向きな気持ちになりました。私はこの物語に凄く勇気を貰いました。

また個人的に今作で好きだったのが、終盤の誕生日のシーンで強調されていた「たとえどんな形になっても」という言葉です。来年の誕生日に美咲はたぶんいないけど、見えないところで瑞樹の誕生日を祝っているという意味ではありましたが、まさかこんな形で瑞樹を祝うとは。サプライズに満ちた美咲の予想外の手段に拍手を送ります。

瑞樹と美咲の一生分の強い絆を感じる、とても温かな気持ちになれた物語でした。きっと2人の「心」はいつまでもつながっていると思います。よくあるストーリーながらも作品に込められたメッセージが深く、読んでみて良かったと思いました!

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