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バラバラとなった大切な時間を取り戻す物語。(石野晶:『パズルのような僕たちは』)

石野晶さんの『パズルのような僕たちは』(双葉文庫)という青春小説を読みました!

体のパーツが少しずつ入れ替わり、最後はどちらかが命を落とす…という宿命を背負った月彦と糸雨しう。幼なじみ同士の2人が「ジグソーパズル症候群」をきっかけに、数年間失われていた心の距離を取り戻す物語が描かれました。

男女の「心が入れ替わる」物語は数多くありますが、「手や足といったパーツから入れ替わりが始まる」といった物語はあまりないのではと思います。自分の体が自由に動かせない不便な状況でも、それぞれなりに工夫して今を楽しんでいく月彦と糸雨の輝かしい日常を体感できた物語でした。

今作は同級生との卓球対決、糸雨のアイドル活動における重大な判断、和菓子作りを通して月彦が「大切なもの」を取り戻すエピソードと、章ごとで物語の雰囲気がガラッと変わる作品でした。
でもこれらの物語はすべて、今の2人が本当に求めていた時間であったことに読んでいくうちに気付きました。

離れ離れだった家族との時間、そして糸雨との時間を日常に散りばめられたパズルのピースから取り戻していく月彦の姿が強く心に残りました。

全体的に月彦&糸雨の日常にまつわるエピソードが多かったものの、どちらかに死の危機が近づく物語のクライマックスでは、このジャンルらしく恋愛色も強まっていきます。
昔からお互いのことを想い続けてきた2人なりの「愛の言葉」の表現もそれぞれの性格を表していて、とてもエモみを感じました。
特に月彦が糸雨の名前にちなんで言った愛の言葉がシンプルながらもめちゃくちゃ良きです。

それにしても物語のラストで明かされるジグソーパズル症候群の結末がかなり意外でした…。それと同時に、2人のお世話係として活躍していた薫さんの正体もわかってスッキリしました。薫さんもかなり切ない過去を背負っていたとは…。

切なさ全開のエンディングではあるものの、大切な片割れの思いを背負い、新たな人生を歩んでいく主人公の姿に心をぐっと掴まれた傑作でした。

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