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「間違った選択」なんてないことを感じる物語。(清水晴木:『分岐駅まほろし』)

毎日を生きる中で様々な「分岐点」があります。
人生を変えるかもしれない選択を強いられた時、自分が選んだものと逆の選択をしていたら、もしかすると現実よりいい生活を送れてたかも…と後悔した経験がある人もいるかと思います。今回はそんな気持ちと向き合える作品を紹介します!

★★★

今回紹介するのは、清水晴木さんの『分岐駅まほろし』という作品です。

今作は条件が揃えば現れるという「まほろし駅」を舞台に、人生の選択を間違えて、今でも後悔を引きずっている人々の物語が描かれていきます。

物語に登場するまほろし駅は、現実とは違う選択をした「もしもの世界」を体験できる不思議な場所。しかしもしもの世界を体験しても、そこで過去を変えることはできません。この設定が今作最大の個性であり、私が1番読んでいて面白いと感じた箇所でした。

まほろし駅を訪れる気持ちは様々で、シンプルにifの自分が見たいと思っている人もいれば、今はもう会えない大切な人と再会するために駅を利用しようと考えていた人もいました。

例えば、家族との関係に「幸せ」が感じられず、もし高校時代に好きだった人に告白していたら今頃幸せになっていたのではないか?と考えていた田中という男性の物語。まほろし駅で高校時代に遡り、当時好きだった岩崎さんと付き合い、結婚もする世界を体験します。しかしそこで田中が見たのは、まったく想像していなかった彼女の変貌ぶりでした。

生活が乱れていく岩崎さんを知ってしまったのを機に、田中は幸せじゃないと思い込んでいた現実世界での生活のありがたさを感じていきます。そして、まほろし駅の駅員が現実に戻ってきた彼に話したこのような言葉が心に沁みてきました。

「過去のもう手に入らないものの数を数えるよりも、今目の前にある大切なものの数を数えてはどうですか?」

p61

私も今作の登場人物たちのように、「あの時、こうしてれば良かったな」と今でも思ってしまう選択をしたことが何度もあります。通った学校、大学時代の自分の行動など、実際とは別の選択をしていれば今頃理想に近い生活をしていたのかもと考えてしまいます。

人はいくつもの後悔を抱えつつ、あの時の自分の選択の上で生きていくしかない。そして、今の生活だからこそ得られる幸せがあるということを田中のエピソードに限らず、作品全体を通して感じることができました。

★★★

他にも母の病気に早く気付きたかったと悔やむ凛の物語や、災害で亡くしてしまった妻との再会を願う葛城の物語も印象に残りました。

まず凛の物語では、早いうちに母の病気に気付き、理想通りの生活を送ろうとする様子が描かれました。しかし想定外の出来事が親子を襲い、現実よりも悲惨な結末となってしまいました。母の病気に気付くタイミングがいつであっても、都合の悪い結果となったことにショックを受ける凛に、駅員が言った言葉がとてもいいなと思いました。

「後ろを向いて、そのまま後ろに歩く。」どんなにネガティブな現実だとしても、考え方次第でいい未来に変えられる可能性が込められたこの駅員の言葉を、私も辛い時に思い出していきたいです。

また葛城の物語で描かれた育てていたミニトマトが鳥に食べられて台無しになってしまった…というシーンは、今作を象徴するメッセージでもあったのではないかと思います。

大切に育てていたミニトマトを明里と一緒に食べれなくなったことに落ち込む葛城。そんな彼に明里は、先のことなんて神様にしかわからないし、やれることはちゃんとやったからそれでいいと励まします。明里が葛城を励ますシーンでは、今までの選択はすべて間違いではないし、それぞれの選択にはしっかり意味があったという作品全体に込められたメッセージを感じました。

これから先も様々な分岐点が私たちを待ち受けています。どんな選択をしても後悔するのではなく、まずは今の自分がこれからを変えていくためにできることは何かを考えるのを大事にしたいと思った1冊でした!

それぞれのエピソードの展開もわかりやすく、非常に読みやすい作品です。誰もが心当たりがありそうなエピソードが満載なので、ぜひ読んでみてください(^^)読了後は毎日をもっと楽しく過ごしたいと思えてきます!

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