【読書 2】 アレキサンダー・リー・マックイーンに関する3冊の本。
イギリスのファッションデザイナー、アレキサンダー・マックイーンについて、3冊の本をオススメします。
『VOGUE ON アレキサンダー・マックイーン』
★★★★☆ 21世紀最大のコントラヴァーシャルなファッションデザイナーを知るための入門書。
クロエ・フォックス/著
本書はイギリスを代表する著名なファッションデザイナー、アレキサンダー・リー・マックイーンを知るための入門書としてまず手に取るべき1冊である。
なぜなら、彼について書かれた本はいくつか出版されてはいるが、翻訳されている本はこの1冊しかないからだ。そして彼にまつわる知っておくべき情報が実にコンパクトに纏められており雑誌『VOGUE』を出版しているコンデナスト社の膨大なアーカイブから選び抜かれた写真も充実している。
時折挟まれるマックイーンや彼の周辺の人々の象徴的な言葉もこの本をドラマティックに演出してくれている。
『VOGUE ON アレキサンダー・マックイーン』は2011年5月、ニューヨークメトロポリタン美術館で行われたマックイーンの回顧展「Savage Beauty(サヴェッジ・ビューティー)」の回想からはじまる。
参考文献で、この回顧展の図録『Alexander McQueen: Savage Beauty』Andrew Bolton /著 があるとおり、この回顧展が本書の下敷きになっていることは言うまでもない。
★が4つの理由
1つ星を減らした理由は本の内容のせいではない。翻訳した出版会社のデザイナーが選んだフォントとレイアウトは見るに耐えないほど醜く、本書の世界観を壊し、視線の流れを止めてしまう。内容がいいだけに本当に惜しいがそこに目を瞑って手にとっていただきたい。
オススメの本書の読み方
私の奨めたい本書の読み方は、メトロポリタン美術館の回顧展の図録『Alexander McQueen: Savage Beauty』Andrew Bolton /著 とともに手に取ってもらいたい。
VOGUE ONシリーズは携帯に優れているサイズなのだが、彼の作品を鑑賞するには物足りない。そこでこのメトロポリタン美術館の図録と供に眺めて欲しい。あの展示会の空気をそのまま閉じ込めているこの図録と、その補助的な本として本書を使うといいだろう。
『Alexander McQueen: Savage Beauty』
2010年2月11日、若干40歳の若さで自らの人生に終止符を打ったファッションデザイナーの回顧展が約1年後、ニューヨークメトロポリタン美術館 (通称 MET) で開催された。「Savage Beauty(サヴェッジ・ビューティー)」とは、「野生と美」の意。
主催はAnna Wintour Costume Center、キュレーターはメトロポリタン美術館装飾研究室の現首席キュレーターアンドリュー・ボルトン(Andrew Bolton)と当時の首席キュレーターハロルド・コウダ(Harold Koda)(2016年にハロルドが退任)。
会期は2011年5月4日から8月7日まで。同美術館によれば661,509人に達した。
当時、私はニューヨークに住んでおり、NYの美大を目指す友人たちと長いラインに並び、この展示を観に行ったことを今でも鮮明に覚えている。その図録がこちら。
本のデザイナーはニューヨークにオフィスを構え、数多くの賞を受賞しているTakaaki Matsumoto(Matsumoto Incorporated)。表紙はレンチキュラー印刷というみる角度によって絵柄が変わる加工が施されており、「死」を連想させるスカルとマックイーンのセルフポートレイトが浮かび上がる仕組みになっている。
彼の死から1年余りが経って開かれたこの回顧展にふさわしい、不気味の中に美しさを感じるカバーだと思う。
本書は、マックイーンの作品ひとつひとつを鮮明に映し出し、余計な説明は一切ない。いくつかの彼のクオートが片方のページに並び、そのシンプルな数行の言葉と写真をみれば十分なのだ。
生身のモデルは一切使われず、マネキンが洋服を纏っているだけなのだが飽きることはない。その作品に合うようにマネキンにも動きがあり、真っ白な塗料の下にかすれて肌色がみえている。まるで、生身の人間を白塗りにしているようにも見える気味悪さがある。
しかし、この本を開いた瞬間からきっと最後のページをめくり終わるまで、息をするのも忘れて彼の世界観に入りこんでいくことになるだろう。
巻末には、現クリエイティヴディレクターであるサラ・バートンのインタビューが収められている。彼の死後から1ヶ月後の2010年秋冬を完成させ、正式にブランドを引き継いだ彼女の言葉にもぜひ注目してもらいたい。
『Alexander McQueen』
メトロポリタン美術館で行われたマックイーンの回顧展「Savage Beauty(サヴェッジ・ビューティー)」は大成功を収め終幕した後、イギリス、ロンドンにあるヴィクトリア&アルバート美術館 (Victoria and Albert Museum)、通称V&Aでも開催された。
キュレータは、Claire Wilcox。同美術館によると入館者は493,043 人にも達し、当時V&A 史上最高の動員数を記録した展覧会となった。最後の2週間は開館時間を23時までと大幅に伸ばし、このことは同美術館史上初の試みでもあった。
それほどまでに、この回顧展は当時人々の話題と注目の的であり、偉大な天才の偉業を一目みようと人々が集まったのであろう。
私はマックイーンの母校であるセントラルセントマーチンズの短期授業を受けていたので、この展示にも足を運ぶことができた。街の至るところに回顧展のポスターが貼ってあった。
昼間に一度展示を観に足を運んだが当日券は売り切れており、オンラインで予約して後日再び訪れた。
最初の展示室はマックイーンとロンドンの関わりについてであったと記憶している。アレキサンダー・リー・マックイーンは、ロンドンで生まれ、育ち、花開いた、イギリスを代表するファッションデザイナーであるということを人々が誇りに思っているのだということが感じられた。
展覧会を開く美術館も国も違えばキュレーターも違う、構成もまったく変わる。
この展覧会の図録『Alexander McQueen』Claire Wilcox /編集 もまたメトロポリタン美術館のものとは違う楽しみ方ができる。
本のデザインはロンドン拠点のデザインスタジオCharlie Smith Design 。黒いマットな紙にパイソンのエンボス加工が施されており、本のタイトルは金箔押しの加工。メトロポリタンミュージアムの図録と比べると、シンプルでエレガント。パイソンのエンボス加工で、シンプルすぎないエッジの効いたマックイーンらしさがある。
METの図録は回顧展の図録そのものといった構成で、作品そのものを引き立てる写真と最小限の文字。V&Aの図録は読み物としての要素が強い。ファッションの専門家、文化学者らによる28つのエッセイで構成されており、より多面的にマックイーンについて知ることができる。
使用されているイメージは、展示のものではなく当時のファッションショーや、キャンペーンの写真、マックイーンのインスピレーションの元になったイメージ、社説、未公開のスケッチなどこの本でしか知り得ない情報が収められている。
巻末には、「Encyclopedia of Collection」と題したページがあり、彼が生涯で作り上げた36のコレクションについての百科事典がある。36のうちの1つは彼がMA(大学院)の卒業コレクションでつくったもの、そして彼の死後に発表された2010年の秋冬コレクションまでがまとめられている。
まとめ
2019年10月6日は、アレキサンダー・マックイーンの完成させた最後のコレクション『Plato’s Atlantis 』が発表されてちょうど10年の節目の年でした。このコレクションは、彼の最高傑作といわれることも多く、レディ・ガガの『Bad Romance』のミュージックビデオで着用されたこともあり、知名度も高いと思います。
このファッションショーは、きっと未来永劫語り継がれる時代の転換点を作ったファッションショーであり、そのことについてずっと書きたいと思っていました。
なかなか手がつかず、まずは彼についての本と回顧展に触れられればと思いこの形になりました。
改めて、本を見返すとアレキサンダー・マックイーンというひとがいかに特殊で卓越したものを持っており、広く深く世の中を見渡していたんだろうと驚かされます。
今日のさまざまな出来事を彼がみたらどのように感じるんだろう?そんなことを考えずには、いられません。
写真はわたしがロンドン滞在時に撮影したものです。
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