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沼底エッセイ

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友人たちの何度も読みたい粘土系セックス・ノート
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2020年3月の記事一覧

プエブラ以降2

プエブラ以降2

 ベレニスと別れた後、宿に戻り、中庭と呼ぶのかフロントと呼ぶのかガレージと呼ぶのか、宿泊客のスペースと宿の持ち主たちの住まうスペースとのちょうど間くらいの半屋外の空間(小机のようなフロントデスクもある)に佇んでいると、宿番の中でもひときわおっとりした女性がブスカンド・アルゴ?と話しかけてきた。何か探してたの? わたしは何も探してはいなかったが、無目的に立っていたのでは不気味だろうと思ってとっさにフ

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プエブラ以降1

プエブラ以降1

 長距離バスを降り、テルミナルから市街地行きらしきローカルバスの見当をつけ適当に乗り込んだはいいものの、大型車両の揺れにほぐれた全身は重みを増したように座席に沈み込んだ。体も頭もそれ以上は動きそうになかった。グアダラハラ、サカテカス、グアナファト、レオン、ケレタロ、サン・ミゲル・デ・アジェンデを経て長距離バスでプエブラに行き着いた。街に慣れないよう、ひとつの街に三日以上は滞在しないことがいつのまに

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溶かした春の涙

溶かした春の涙

1分、1時間、1日と、時間は確実に過ぎ去っていく。
私を押し流すように、何かから引き離すように、時間は身勝手に自立して進んでいく。
発車した新幹線の背もたれに押し付けられて、身体が現実から離れていった。
身体は、心は、どこに行った?手だけは、確実に隣の男と繋がれている。

恋人の故郷に、旅行に行く。
雪が少ないと言われる今年でもところどころ寒々しく雪が積もり、色も、音も、少なくて静かだ。感情を吸収

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