すみれ

息をするように身や心を削るように何度だって恋をする。 好きになった人たちと通り過ぎた人…

すみれ

息をするように身や心を削るように何度だって恋をする。 好きになった人たちと通り過ぎた人たちとのあれこれ。

マガジン

  • 通り過ぎたものたち

    お酒と恋愛と友情とひとりごと。 切ない思い出がいつくかある人とは仲良くなれそうです。

最近の記事

滑空しないグライダーを探す旅

振り返れば恋人との関係を始めて1年が経って、同じ場所で同じ人間と同じことをした。 春の気配を含んではいたが、冷えたスミノフを飲むには少し肌寒い季節。霞んだように薄くかかった雲からも感じる日差しなのに、しっかりと眩しい。隣の男と密着した皮膚は、いつも通り普段の自分よりあたたかい。 春は穏やかそうな顔をして、本当はそうじゃないと思う。風も強い、油断した頃に信じられない寒さを届ける、心地よく寝ている間に、きっと何かを奪われている気がする。でも、それでも穏やかな甘い春にいつも騙さ

    • あのあえぎ声は風にのって

      向かいの保育園は、週末は静かだ。 園児が壁に描いたのだろうか、カラフルないも虫のような何かが可愛くもあり、不思議でもあり、ちょっと不気味でもある。静かであればあるほどいも虫の笑顔は所在なさそうに漂う。 梅雨前のいい気候なのに、私は荷造りをしながら、顔を見に来るといった恋人を待っていた。 体を爽やかに撫でるような風が吹き、部屋を通り抜けていくのが分かる。 この自粛期間に、一緒にどれだけの映画を観ただろう。 1日に3本も映画を観るなんてこと、学生時代でもしたことがない。 ど

      • 日記-4(雨と花とエビ)

        静かに、けれど確実に、雨が鳴る。 地面を叩く音、張った傘を叩く音、きっと葉を叩く音もする。 今はマンションの2階に住んでいて、端の窓から臨場感をもって道路を見下ろすことができる。こんな日に歩いているのは配達員さんくらいだ。ありがとうございます。本当に。 私の頼んだヨガマットが届いたのが、昨日でよかった。 今日は恋人のシャツをクリーニング屋から引き取り、最寄りのコンビニで片栗粉を買うだけで外出は終えた。 さっき生理が始まり、こんな大雨で、こんな状況じゃ、お家に根付くことが一

        • 溶かした春の涙

          1分、1時間、1日と、時間は確実に過ぎ去っていく。 私を押し流すように、何かから引き離すように、時間は身勝手に自立して進んでいく。 発車した新幹線の背もたれに押し付けられて、身体が現実から離れていった。 身体は、心は、どこに行った?手だけは、確実に隣の男と繋がれている。 恋人の故郷に、旅行に行く。 雪が少ないと言われる今年でもところどころ寒々しく雪が積もり、色も、音も、少なくて静かだ。感情を吸収されて、身体すら現実に置いてきた、足跡のない雪のようにまっさらになりかけた存在が

        滑空しないグライダーを探す旅

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        • 通り過ぎたものたち
          15本

        記事

          星の落ちない透明な夜

          恋愛で朝まで一睡もできなかったのは人生で3回目だ。 耳の奥で異質な音を感じる。頭と身体がばらばらになりそれぞれがぐるぐるとどこかを彷徨う。遮光カーテンで厳重に締め出された外の光は少しずつ明るさを増して、トラックは荷物を運び、ヘリが飛び始めた。ここ最近の東京は本当にヘリコプターがよく飛んでいる。 ほのかな明るさと共に少しずつ音が増える。この街は東京の中でもカラスが多く、そろそろカラスも目覚めだし、それらを長い間ぼんやりと耳に落としていた。目は、開いている。 何度寝返りを打っ

          星の落ちない透明な夜

          現在(いま)を生きる犬

          ---------------------------------------------------------- 「私にずっと覚えていて欲しいと思う?」 「当たり前でしょ、一生のうちの一番でいたい」 「贅沢じゃない?」 「でも絶対俺といるのが一番楽しいと思う」 「自信家だなあ、あ、そこきもちいい、」 「あったかいよ、熱いくらい」 「やばいね、うそつけないや」 「浮気したら本当に殺すから」 「怖いなあ、つかないつかない、きもちいいよほんとに」 -------------

          現在(いま)を生きる犬

          夏のおとしもの

          10,000キロとすこし。 今はこんなに密着しているこの肌、指先、足先、このくちびる、この粘膜、呼吸、目線、声、きっと細胞のひとつひとつ。これからそんなに離れると思うと、どうしても私の支配された脳みそはそのことを考えて停止する。思考は停止して、つながりかけた部分の感覚に集中する、そして溶けながら声を漏らししがみつく。まだ、全体を私の体内に取り入れることは許してもらえていない。 大きくない私の胸がとにかく愛おしくなってきたという。 全体に対して乳輪と乳首が頑張っているのだそ

          夏のおとしもの

          虹色のハムスター

          バルセロナの路地裏の、なんだかよくわからないお土産物をたくさん売っている露店を思い出している。扉をくぐってすぐ横に飾られる陶器、優しい目線のトラの置物、カラフルに花が絵付けされた無数の食器、異国の光を映したガラスのランプ、きっとどれも観光客向けに並べられた品物だろう。 きらきらと、瞳の奥をくすぐる。それはとても心地良く、明るい色を体内に差し込んでくるような空間だった。太陽と強い日差しに焼けた石、それに少しだけ挨の匂いがした。 まぶしい、まぶしくて、溶けそうで、あたたかい。

          虹色のハムスター

          散文-3(七夕の終わりに)

          七夕はいつもあっさりと終わる 私に何も起こすことはなく終わっていく 果たしてあの人とあの人は会えたのだろうかと思うけれど ほとんど毎年東京は雨で でも今年は不思議と東京がどんなに雨でも 世界を見渡せばどこかは必ず晴れていて そのどこかで会えているだろうと気づいて 実は切なくもなんともない行事のような気がして 窓の外からは雨が濡らしたコンクリートを車が鳴らす音が聞こえる 茎を少しずつ切りながら見守っていた先週のひまわりは 週末の女友達との旅行から帰って来たらしっかりと枯れて

          散文-3(七夕の終わりに)

          深夜3時のひまわり

          深夜3時、夏前の水分を多く含んだ空気の中、1分以上の道のりを歩くことはできそうにない荷物と幾つもの花束を手にして、タクシーに乗った。雨は細かいシャワーのように落ち、視界を曇らせては夢のように景色を霞ませる。雨で濡れた道路は車のヘッドライトや信号を反射して、その時間が普段もつ光以上に街は明るかった。 私の手元には、今後の人生を一時かもしれないが少しだけ左右する手紙が握られている。 2ヶ月ほど前に恋人に手渡した淡い青のレターセットとおそらく対となる淡いピンク色のレターセットをわ

          深夜3時のひまわり

          恋愛は人を弱くするのか、それとも横浜にあっさり馴染むのか

          横浜という街は残酷だ キラキラと輝いた夜景を背景にして堂々とデートを楽しむ街を残酷だと思うかどうかは全くの人次第であって、まさかこの街にそんな気持ちを抱くとは思わずに人生を過ごしてきた ところがどうだろう、今はこの街をひどく残酷で涙の気配を含ませた街だと感じてしまう 街が美しく穏やかで華やかであればあるほど、自分の品行の悪さが際立つ 非現実的でとろりと甘く、息を苦しくさせる香りを一枚の幕でひっそりと覆い身体の中奥深くに飼っている、そしてそれはゆらゆらと揺れて大きくなったり小

          恋愛は人を弱くするのか、それとも横浜にあっさり馴染むのか

          スミノフを外で飲む季節にはいつも

          寒さが緩むこの時期から 私はスミノフの瓶を手にとって この甘ったるい液体を楽しむ ぬるくなってしまってはとても飲めないこの甘い何かを 毎年暖かい時期に外デートをすると ふと思い出して手に取っている 江ノ電の線路沿いの小さなアパートの一室を借りて サーファーが集って住んでいるであろうチープで明るい雰囲気に酔う 定期的に電車が通り部屋全体が大きく揺れる 大きな音と揺れの余韻に引っ張られ自分が今いる場所が分からなくなって 強く立たなくてはと少し足に力を入れながらきゅっと目を閉じる

          スミノフを外で飲む季節にはいつも

          散文-2(つぼみ)

          やわらかい日差し やわらかく青い空 やわらかく空を覆う春の気配 やわらかく静かに耳に届くピアノ 2月は思ったよりも優しい 行ってみたい景色はまぶたの裏に浮かんでは消える 雪に覆われた街、それでも晴天できらきらと輝く田舎町 緑が存在感を放ち始めた水田 桜の花びらが散る姿、そこに集まる無敵な制服の学生たち 日が沈む直前の夕日を反射する穏やかな海 霞んだようにほのかに浮かび上がる天の川 どれも手を伸ばしたら手が届くはずで すぐに通り過ぎてしまうもので それでも毎年、毎日、訪れ

          散文-2(つぼみ)

          散文-1(機嫌のいい日)

          1週間前の親しい友人の結婚式でもらったブーケは、ラナンキュラスを除いて生きている。スプレー咲きの小さなマーガレット、赤色の大振りのヒペリカム、小さなユーカリの束。 その日は天気のいい11月のある日で、今は年下の男の家からの朝帰りしたところだ。お互いにそこそこ気持ちを持っている相手と身体を交えるとどこか満たされた気持ちになるのは人間の常であるから、なかなか避けるのが難しい。自分がしたくてしているのだから何も傷つくことはない。それも、時と場合と回数と状況によるが。もう、ここまで

          散文-1(機嫌のいい日)

          あの風に名前をやりたい

          私は風が光る瞬間を見たことがある。 海辺を歩きながら振り返った時に、カモメがはたはたと空を飛び、その下には眩しそうに眼を細める男の姿があった。 その男と私とカモメの間を通り抜ける風は、間違いなく光っていた。光っていたし、私たちを照らしていた。海に溶け込んだ太陽の光とは別に、風として光を放っていた。間違いない。 その時は、刺すような日差しとそれを反射する海と、光る風に晒される好きな男を見ながら、こんなに綺麗な景色があるんだと、写真にでも撮って残してやりたいと思った。 一方で、

          あの風に名前をやりたい

          不自然な友人関係とフローズンマルガリータ

          私は男友達がほとんどいない。 好意を抱かない異性とわざわざ会おうと思うことがない。 好き好んで会おうと思う男のことは、自分から好きになってしまう時もあれば、好きになられてしまったり、下心を感じて嫌になってしまったり、結果身体の関係をもってしまうことだって多々あった。 なので、もう純粋な男友達を作ることは諦めた。 身体の関係をもった後も、話したいと思えることが私にとっての男友達の要件になっている。 けれど、その関係を構築することがとても難しい。 嫌いになったわけではなくとも

          不自然な友人関係とフローズンマルガリータ